第164話 イシュの村
遅くなりましたm(__)m
「あっ! 何か見えるです〜!」
ポンポが御者台に身を乗り出すようにして前方を指さす。
その先にあったのは空高く昇っていく一筋の煙であった。
「村があるの」
僕らの中で一番目が良いアリアにはそれが何であるか見えているようだ。
その落ち着きようから、特に事件などでは無い事が窺える。
生活としての火起こしか何かなのだろう。
「カナタ、寄るの?」
「いや、そのまま進もう」
こちらとしてはなるべく早く熱鉱石を手に入れたい。
それに、他の冒険者パーティーならいざ知らず、食糧に事欠かない僕らにとって補給の必要性はない。
何かトラブルが起こっているなら兎も角、平和な村にわざわざ訪れることも無いだろう。
僕らは村を遠目に見ながらその横を通り過ぎていく。
だが――、
「カナタ! あれ見て!」
村からある程度離れた場所。
そこにはワイルドウルフ数匹に囲まれた子供が2人。
男の子の方は気丈にも短剣を構え、後ろ手にいる女の子を庇っている。
「ユニ助!」
「了解した!」
馬車を方向転換し、急ぎその場所へと向かう。
しかし、まだ距離が離れすぎている。
間に合うか?
「まかせてなの」
アリアが窓枠に乗り出すようにして弓を構える。
荒れた地面と馬車の速度によってかなり揺れている筈なのだが、アリアはまるで自分だけが別世界にいるかのようにピタリと身体を静止させた。
「えいっ! なの」
少し気の抜けた掛け声とは裏腹に、矢は空気抵抗を物ともせず直線軌道を描く。
アリアは間髪入れずに更に続けて2発、3発と放った。
それらは全て寸分の狂いも無くワイルドウルフの急所に命中する。
そして、何が起こったかわからず呆けている少年と少女の元に辿り着く。
僕は馬車を降り、目線を合わせてその2人に話しかけた。
「無事なようだね、良かった」
見たところ外傷も無い。
まずは一安心だ。
「あ、ありがとうございます」
我に返って僕に頭を下げる少年。
少女も無言でそれに習う。
「えっと……、見たところあの村の子だよね。2人だけかい?」
2人は僕の質問にばつが悪そうに俯く。
僕はこれ以上追及をせず、送っていく旨だけを伝える。
乗っていたミウやポンポたちを見て2人は安心したようで、大人しく馬車に乗ってくれた。
僕、そんなに怪しく見えたかなぁ?
「……大丈夫」
ミサキが僕の肩をポンと叩く。
「……カナタが人攫いでも私は見捨てない」
慰めになってないよ、ミサキ。
「結局寄ることになったね♪」
そんなセリフを口にするミウはどこか楽しそうだ。
「おい、着いたぞ」
ユニ助が僕たちに到着を知らせる。
もちろん、乗っている2人にその言葉は理解できていない。
村の入り口の正面に馬車を停めると、村の住人が何事かと騒ぎ出している様子が窺えた。
暫くして、何人かの男が恐る恐るこちらに近付いてくる。
僕は馬車から降りて村人に対応する。
「見かけない馬車だが、この村に何の用だ? 見たところ行商でも無いようだが」
「はい、この子たちを送り届けに」
僕は中にいる2人に降りるように促す。
足場を気にしながらゆっくりと降りる2人。
「ニコ、サチ!」
男の内の1人が2人を見て叫ぶ。
「お前らは、何度言ったらわかるんだ! 心配したんだぞ!」
2人は俯いて何も語らない。
僕は2人を連れてきた事情を説明する。
「――なるほど。それはご迷惑をおかけした。是非お礼を、と言いたいところではあるが、見ての通りこの村には何も無い。満足なお礼が出来るかどうか――」
「いえ、お礼欲しさにやった訳ではありませんから」
「うむ、しかしそれではこちらの気が……。どうだろう? 一晩この村に泊まっていっては? うん、それが良い」
半ば強引に決められてしまった。
急いでいるので……とは断りにくい雰囲気だ。
「一晩くらいいいんじゃない」
ミウのセリフに僕は頷く。
まあ、1日や2日で如何こうなる問題でもないか。
ああ、そうだ! 忘れていた。
「あの、これ。良かったら村の皆さんでどうぞ」
僕はアリアが狩ったワイルドウルフを村人の目の前に積む。
村人たちから感嘆のため息が漏れる。
恐らく、いきなり出て来たことに驚いているのだろう。
「宜しいのですか? お心遣いありがとうございます」
村の人達は頭を下げ、嬉々としてその肉を運んでいく。
確かバレン村でも食料として狩っていたから喜ばれるかな?と思って出したのだが、その反応は予想以上だ。
「では、ご案内いたします。宿などは無いので私の家になりますが」
「はい、構いません。お世話になります」
こうして、僕たちはイシュの村に1日滞在することとなった。
夕食に出たワイルドウルフの肉を十分に堪能し、眠りにつく僕たち。
そこで、僕はふと目が覚める。
微かに聞こえるコツコツと壁を叩く音。
僕は皆を起こさないようにしつつ、家の外へと出た。
「あっ! 気がついた!」
そこにいたのは昼間助けた少年少女、ニコとサチだ。
「どうしたんだい。こんな夜中に?」
僕は優しく彼らに問いかけた。
「お願いします! お母さんを助けて下さい!」
2人の表情にただならぬものを感じた僕は、真剣に彼らの話を聞くのであった。
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