第163話 旅の始まり
更新遅くなり、申し訳ありません。
街に戻り、その日のうちに事情を説明した僕たちは、今日の内に出発する旨をロヴィーサさんに伝えた。
時間的に遅い出立となるが、暗くなったらその場でイデアに戻れば良いので問題は全くない。
キマウさんにはその時にでも連絡をつけておくつもりである。
ロヴィーサさんは今回の件について、娘であるミーシャが状況を目撃していたこともあって何とか信じてくれたようだ。
だだ、そのせいで聖域への侵入がばれてミーシャがかなりのお説教をもらうことになるのだが、それは自業自得なので仕方が無い。
これに懲りて少しは行動を自重して欲しいものだが……、無理だろうな、きっと。
「カナタさん、そして皆さん。クリュール様のこと、よろしくお願い致します」
街の入り口にて、ロヴィーサさんと親衛隊の面々に仰々しく見送られ、僕たちはキリアの街を後にする。
さあ、久々に長旅の始まりだ。
そして道中。
「ポンポ、もうパスは無いの」
「う〜。わかったです〜。きっとこれは大丈夫です〜。ポンポの野生の感がそう言っているです〜!」
ポンポが自信を持って出したカード。
だがそれは――。
「やった! 上がり! ミウの勝ち~♪ ポンポありがとー!」
「ポンポ、それを出しちゃ駄目なの」
「しまったです〜! こっちだったですか〜!」
馬車内の一角で、ミウたちがトランプで遊んでいる。
その様子には緊張感などまるで無い。
まるで遠足にでも出かけるかのようだ。
その点ミサキはというと、馬車の窓から外をしっかりと警戒している。
ふむ――。
「ミサキ、何か変わった事はあった?」
僕はミサキに問いかける。
「……カナタとの長期新婚旅行。……景色を目に焼き付けている」
前言撤回。
どうやら真面目に警戒していたのは僕だけのようである。
「カナタ! 何かいるぞ!」
そんな時、ユニ助が僕に向かって声をかけてきた。
僕は御者台へと進み、前方に向けて目を凝らす。
「あれは……、人か?」
進むにつれてその概要が見えてくる。
お慰み程度に舗装された街道。
そのまん真ん中ではた迷惑に馬車をバリケードのようにして立ち塞ぐ集団。
人相はお約束の通りすこぶる悪い。
「はぁ……、仕方ない。ユニ助、止まって」
そのまま迂回しても良かったのだが、このまま放っておいて他に被害が出るのも寝覚めが悪い。
僕はユニ助に停止の指示を出す。
「承知した」
段々とスピードを落とすユニ助。
そして彼らから少し離れたところで馬車は停止する。
集団の先頭に立っている男、彼が御者台に座る僕と視線が合い、ニヤリと笑みを浮かべた。
その男は何人かを引き連れ、ゆっくりとこちらに近寄ってくる。
「おう、坊主! ここを通るには通行料が必要だ!」
それを聞いた僕の口から自然とため息が漏れる。
先頭の頭らしき男の眉がピクリと動く。
「馬車と中の物を全て置いて行きな。そうすれば命までは取らないでおいてやるよ」
「優しい俺たちは、お前がその後、魔物に襲われないように祈っててやるよ。安心しな」
「「「ひゃっはっはっはっ」」」
取り巻きたちの下品な笑い声が辺りに響く。
そこへ、ミサキがひょっこり馬車から顔を出した。
「おっ、何だ!? 女もいるのか。こりゃついてる。おい、お前! もちろん女も置いてけよ! 文句は無えよね!」
男たちはニヤニヤと笑いながら僕に要求してくる。
当然、僕の答えは決まっている。
「断る。お前らにこちらから恵んでやるものは何もない」
「なにぃ!」
「てめぇ!」
「舐めてんのか!?」
男たちが僕の物言いに顔を赤くして怒りを顕わにする。
「そんな汚い顔、舐めないの」
冗談か本気なのかわからない返答をしつつ、アリアたちが馬車から降りてきた。
アリアの手には大弓、ポンポの手には剣、既に臨戦態勢である。
「ガキが! 舐めやがって! てめえら、やっちまえ!」
頭の号令により、男たちが一斉に僕らに襲い掛かる。
見たところ全部で8人。
これといって腕の立ちそうな輩はいない。
だからと言って油断はしないけどね。
僕は目の前に迫る男の振りかざす長剣を回避しつつ、反撃に出る。
「ぐはっ!」
「ぐえっ!」
1人、そしてまた1人と盗賊たちが地面に伏していく。
ミウ、ミサキはもちろん、アリア、ポンポも全く危なげがない。
その事に安心しつつ後方を見やると、先ほどまで号令を発していた頭らしき男が、部下を残して一目散に逃げ出していた。
中々の状況判断の速さだ。
「……逃がさない」
ある意味感心していた僕の横でミサキが呟く。
すると、暫くして逃げ出した男の目の前で炎の柱が吹き上がった。
驚き、尻餅をつく男。
そして、その男の服の袖を地面に縫い付けるかのように矢が刺さる。
もちろんアリアが放ったものだ。
「さて、最後はミウだね♪」
バチバチと音を立てつつ浮かぶ青い球。
それが空中からゆっくりと男に向かい降りてくる。
「あばばばばばばばっ!」
それが触れた途端、男は痺れたかのように全身を痙攣させる。
雷球による感電。
それが男の苦しみの原因である。
だが、ミウも命まで取ろうとは思っていないようで、その威力は抑え目だ。
そして、数分も経たないうちに盗賊団の無力化に成功。
まあ、何と言うか、予定通りである。
「……これ、どうする?」
山積みにされた男たちを指さし、ミサキが面倒くさそうに僕に問いかける。
「う〜ん。連れて行くわけにもいかないから、イデアを介してイデアロードに送り込もう」
移動に際しては、当然意識を刈り取ってから運ぶつもりだ。
そして、彼らが送られる予定のイデアロードの犯罪者更生施設。
そこは警備隊と同じくゴランが総括、担当をしている。
なので、多少腐っていてもしっかりと性根を叩きなおしてくれると僕が保障しよう。
その後、手早く事を済ませた僕たちは再び馬車にて街道を進む。
目指すは国境を越えた北。
その道のりはまだ遠い。
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