第160話 キリアの街
2日遅れの更新、大変お待たせいたしましたm(__)m
寒空の中にあって、燦然と輝く太陽。
柔らかい光が真白い建物に降り注ぎキラキラと反射する様がより一層街の美しさを際立たせている。
街の入り口から一直線に伸びる大通りの両端には掻き分けられた雪の小山がこんもりと積もっており、その間を人々が忙しなく行きかっている。
大通りの行きつく先には他に比べて一際と高い建物が存在しており、その天辺には大きな黄金色の鐘。
それが今まさに高らかに鳴り響き、行きかう人々に時を告げていた。
「ほえ〜」
感心したような嘆きを発するミウ。
僕も声には出さなかったが、この白く美しい街に見とれていた。
「あれは何です〜? 始めて見るです〜」
ポンポが巨大な黄色い鐘を指さしてアリアに質問している。
「あれは鐘なの。時刻とかを知らせるの」
「物知りです〜」
そんな会話が続く中、僕らを乗せた馬車が街の中央を走る大通りをゆっくりと進む。
「如何ですか? この景観も街の自慢です」
案内役として同乗していたシャルさんが誇らしげに語る。
「ええ、とても美しい街ですね」
僕は素直な感想を述べた。
「あの正面に見えるのがこの街の大聖堂です。街が出来た当初からあるもので、芸術的にも大変価値のある建物です。主との会談が終わったら中を案内させましょう」
気を良くしたシャルさんは僕たちの観光スケジュールをトントン拍子に作成する。
もちろん、それについて一切の不満は無い。
折角来たのだ、思う存分見て回るのも良いだろう。
「あれが主の屋敷です」
シャルさんが御者台に乗るミサキに声をかけた。
それに合わせてミサキは馬車を操作するふりをする。
馬車が屋敷の正面へと静かに止まり、僕たちは順番に馬車から降りた。
「馬車は裏手に回しておきます。それと、馬には飼葉を与えておきますので――」
「ブルルル……」
シャルさんのセリフを遮るようにユニ助が低く唸り、首を横に振る。
はいはい、わかってますよ。
「いえ、彼の食事はこちらを焼いて与えてください」
僕は巾着袋から厚めの霜降りステーキを取り出す。
「ステーキ……ですか?」
シャルさんは目を丸くして僕に再確認してくる。
まあ、当然だよね。
「ええ。彼は雑食でして、飼葉はあまり食べないんですよ」
「……なるほど、中々に贅沢な馬ですね」
シャルさんが冗談めかした言葉を口にしつつユニ助を見る。
何とでも言えとばかりに鼻を鳴らすユニ助。
その場に現れた世話係に連れられて豪華な食事と共にここで退場となる。
「では、ご案内いたします」
シャルさん豪華に装飾された扉を開く。
次いで僕は中に入ったのだが、
「うおっ!!」
目の前に現れた魔物?の思わぬ迫力に後ずさってしまった。
強敵の出現、かと思いきや良く見るとそれは只の石像。
全く、驚かせてくれる。
「すごい迫力です〜!」
ポンポが巨大な竜の石像を見て感嘆の声を上げる。
それがかたどるのはドラゴンと呼ばれる西洋のそれでは無く、長い体躯をもった東洋の竜。
眼光は鋭く、石像とわかっていても身震いしてしまうほどだ。
「立派なものですね」
「ええ、そう言っていただけると大変嬉しく思います」
シャルさんは僕の言葉に誇らしげにしつつも、手早く僕らを奥の部屋へと誘導する。
そんな主を待たせまいとする彼女の思いに気付き、僕は話をそこで中断し後へと続く。
そして、シャルさんは目的の部屋まで辿り着くと、目の前のドアを軽くノックした。
「シャルです。お客人をお連れしました」
「通してちょうだい」
返事を受けて、彼女がドアを開ける。
部屋の中には白いドレスを着た見た目三十半ばの女性がいて、その場で立ち上がり笑顔で僕たちを出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました。ロヴィーサと申します。来訪を心より歓迎いたしますわ」
「カナタと申します。こちらこそ、お招き頂きありがとうございます。お会いできて光栄です」
僕はシャルさんに教えて貰った礼儀作法に則り、夫人の手を取ってその甲に口づけをした。
背後から冷たい視線を感じたが、ここは敢えて気づかないふりをする。
そして、皆それぞれに挨拶が終わり、お互いがソファーに腰掛けたところでロヴィーサさんが僕に頭を下げる。
「先ずは、私の娘が申し訳ありませんでした。かなりのご迷惑をおかけしたみたいで……」
その言葉に対し、僕は首を横に振る。
「いえ、ミーシャさんも自身の身を守るためにしたことですので、こちらとしてはもう気にしていません。幸い怪我人もありませんでしたから」
「そう言って頂けると助かります」
ロヴィーサさんは上品な笑みを浮かべる。
僕の反応を漏らさず観察するような某2人の視線が気になるところだが、僕は敢えてそれを無視して話を続けた。
「今回はせっかくお招き頂いたことですし、色々と街を見学させて頂こうと思います」
「ええ、是非に。楽しんでくだされば幸いです。それと――」
ロヴィーサさんの会話がそこで途切れる。
その原因は勢いよく入室してきた少女、ミーシャだ。
「何です、ミーシャ。はしたない」
「良いじゃない、別に。ミサキ、よく来たわね」
ミーシャが少し反り返るような仕草で第一声を発する。
ここには僕らもいるのだが、彼女の目にはライバル視しているミサキしか映っていないようだ。
「ミーシャ、先ずは皆さんにご挨拶しなさい!」
母親に厳しく窘められ、仕方なしとばかりに頭を下げるミーシャ。
まあ、別にいいけどね。
「あっ、そうだ! 聞いたわ、お母様。彼らに街を案内するのでしょう。それでしたら私がついて行きますわ!」
「貴方が?」
唐突なミーシャの案内人への立候補。
ロヴィーサさんがその娘の提案をジト目で返す。
「――えっと、大丈夫よ。自分の街だもの、前回のような事は起こさないわ」
「そう……、そうね。まあ、それなら」
仕方ないとばかりの態度でロヴィーサさんが了承する。
凛とした雰囲気と裏腹に、娘には少し甘い母親のようだ。
「ありがとう、お母様! ということで貴方、カナタとか言ったわね。私自らが街を案内してあげるのだから有り難いと思いなさい!」
何だかセリフだけ聞くとどこかのツンデレ娘のようだ。
「……ツンデレ属性、必要?」
「カナタがそう言うならミウは頑張るよ!」
ミサキ、ミウが僕に真顔で僕に問いかけてくる。
いえ、頑張らなくていいです。
ミーシャが部屋から出ていった後も、僕とロヴィーサさんは今後のことについて話し合った。
そこで合意したことは、街同士での貿易を少しづつ増やしていくことであった。
キリアの街からは工芸品など、こちらからは主に食料が取引の物品になるだろう。
彼女ら自身は寒さが平気でも、食料となる植物はそうはいかないらしい。
幸いイデアでの食料は過剰状態なので、こちらにとっても良い取引と言えた。
「しかし、ここは寒いですね」
僕の口から思わず本音が漏れる。
部屋の中では僕らの為に暖を取ってくれているのだが、それでもまだ堪える寒さだ。
「そうですね。今年は特にだと思います。何せ――」
その彼女のセリフに僕の興味がぐっと引き寄せられた。
それは――。
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