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第155話 騒動も終わり……

「どうとでもすればいいわ」


 僕たちに囲まれたヒミコは諦めの表情で言葉を吐いた。


「じゃあ、先ずは彼を何とかしてもらおうか」


 僕は地面に横たわるスタークを指さす。

 彼の意識はまだ戻っていない。


「ふん……」


 不満げに鼻を鳴らし、ヒミコは何やら唱え始める。

 慌てて身構える僕らを手で制すと、一言。


「安心しなさい。言われた通りにしているだけよ」


 そうは言われても、その言葉の全てを信じる訳にはいかない。

 警戒心を抱きつつ、僕たちは事の成り行きを見守る。


「終わったわよ」


 時間にしてほんの数秒。

 ヒミコが肩の力を抜く。


「……本当?」


「今され嘘をついても仕方ないでしょ」


 ミサキの追及にも動じること無く答えるヒミコ。

 まあ、その検証は彼が目覚めてから行うことにして、僕は彼女に改めて問いかけた。


「それで、貴方は何者で何がしたかったんだ?」


「あら、せっかちな男の子は嫌われるわよ。そうね、したかったことと言えば、『国造り』かしら」


「国造り?」


「ええ。私の私による私の為の国造りよ。世の中の男が寄って集って私を崇めるの。最高だと思わない?」


 僕たちの返事を待たずしてヒミコは続ける。


「そこに存在する女性は私一人。その私の為に皆があらゆることをしてくれるの。やはり女は愛されてこそ輝くものだと思うわ。皆の愛を受け、私はより一層美貌に磨きをかけるのよ」


「まさか!? それだけの理由で?」


「それだけなんて失礼ね。女にとってそれは本懐よ。貴方たちは若すぎてわからないのかしら?」


「……わかりたくも無い」


「ミウもだよ!」


「わからないの」


 ミサキたちも呆れ顔だ。


「兎に角、折角の国造りが軌道に乗ってきたところで、ものの見事に貴方たちに潰されたって訳よ。まあ、これが私の限界だったのかしら。やるだけの事はやったから悔いは無いわ。後は好きにしなさい。何なら、貴方の溢れんばかりの欲望をぶつけてきても良いわよ。私、実は受けも得意なの」


「……駄目」


「ダメッ!」


 ミサキとミウが僕の前に進み出て、目の前のヒミコを威嚇する。

 しかし、ヒミコはそんな視線もどこ吹く風だ。

 今までの緊迫した場面から打って変わっての変な方向への流れ。

 僕の口からは自然とため息が漏れた。


「とりあえず、彼女にはついて来てもらおう。彼女の術にかかった人はまだいるんだ」


「ええ、喜んでお供しますわ」


 笑顔で答えるヒミコ。

 それとは対照的にどこか不満そうな表情のミサキとミウだが、そうするのが良いと頭ではわかっているのだろう。

 渋々ながらも承知してくれた。


「それと、無駄な抵抗はしないでくれよ」


「あら、私は身も心も貴方に屈服させられたのよ。そんな事はしないわ」


 ヒミコが振袖で口元を隠しつつ微笑む。

 彼女と戦ったのはミサキたちだと思うのだが、この際それは置いておこう。

 抵抗しないというのならばそれに越した事は無い。


「さあ、帰りますわよ」


「「アンタが言うな!」」


 こうして、今回の騒動は解決へと進んでいくのであった。


 


 ※




「ん……!? ここは……?」


 白い壁に囲まれた部屋。

 その中にあるベッドの上でスタークは目を覚ました。


「………………」


 スタークの脳裏にこれまでの出来事が映画のフィルムのように駆け巡る。

 それまで自分の取っていた行動を彼はしっかりと覚えていた。

 スタークの両拳が破裂しそうなくらいに固く握られる。


「…………私は…………負けたのか……」


 その悔しさの発端は操られていたことでは無かった。

 洗脳されていたとはいえ、スタークは全力で戦い、そして負けたという現実。

 その結果が彼に重くのしかかる。


「私では駄目だと言うのか。彼女を守る力は彼の方が上だと……」


 受け入れたくない、しかし、受け入れざるをえない事実が突き付けられ、彼は衝動でベッドの床を叩きつけた。

 これが彼にとって初めての挫折。

 天才と呼ばれた彼の前に立ちはだかる初めての壁であった。


「いや……、私は負けない! 負けられない!」


 頭に浮かぶのはミサキの顔。

 それがスタークに優しく微笑む。

 もちろん、ただの幻想である。


「私は強くなる。それが今の私に出来る唯一の事だ」


 スタークはベッドから飛び起きる。

 そして、彼は誰に伝える事無くイデアロードから忽然と姿を消した――。

 



 ※




「この指輪をつけてくれ」


 僕はヒミコにサファイアのような青い石の付いた腕輪を渡す。

 軟禁中の彼女は拍子抜けするくらいに大人しく、手が掛からなかった。

 逆にそれが怖いくらいだ。


「あら、いきなりね。婚約腕輪なんて珍しい」


「…………いいから付けてくれ」


 呆れ顔の僕を見て、これ以上からかっても意味が無いと悟ったのか、彼女は指輪を左手の指に着ける。


「これは……?」


「ああ、魅了の力がこれで使えない筈だ。ヒミコにはとある場所に一緒に来てもらう」


 夢魔の能力である異性の魅了。

 今回の騒動の根本であるそれを封じるため、僕はアリアにアクセサリの制作を頼んでいた。

 しかし、アリアの力でも今回の目的に即した物を作成することに困難を極めた。

 アリアにそう報告を受けていたその時――。


「貸してみるでちゅ」


 現れたのは我らが女神様。

 いや、現れたというよりは別荘のリビングでケーキを貪っていたというのが正しいだろう。

 女神様は未完成であるそれをひょいと摘まみ上げる。


「ふむ。これで問題ないでちゅ」


 それにより、瞬く間に完成したのが封魔の腕輪。

 外すには設定したキーワードが必要になる安心設計だ。

 女神様曰く『いつものおやつのお礼』とのこと。

 それよりも、毎日(いつも)来ていたんですか?




 ヒミコは言われるままにそれを身に着ける。 

 ヒミコの扱いには色々悩まされたが、これで一先ずは安心といったところ。

 彼女はそのまま異空間であるイデアに連れて行き、その場所自体に軟禁することにした。

 僕だって無駄な殺生はしたくない。

 幸いなことに、冒険者たちが皆無事に帰還しているというのがこの決定の大きな決め手となった。

 彼女の扱いについては、領主としてギルドとは既に交渉済み。

 イデアロードのギルド支部のみとの話し合いだった為、然したる障害は無かった。


「あら、それは私を囲うということね」


 会った当初と比較して軽口がやたらと多いようだが、どうやらこれが彼女の素のようだ。

 もちろん、今のセリフについては即座に否定しておく。


「むぅ……」


「……スラ坊を急かさなくては」


 住む場所が別に建てられるまで彼女は暫くは別荘に泊まることになるのだが、ミウやミサキはそれが不満らしい。


「ふふっ。よろしくお願いするわね、旦那様」


 ミウとミサキの目が鋭くなる。

 こうして、イデアにまた新たな住人が増えたわけだが、要らぬ苦労まで増えぬことを切に願う僕であった。




 

最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m

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