第153話 遭遇
僕はポンポの治療をミウに任せて剣を抜く。
目の前には冒険者風の男たちが5人、それぞれが僕を睨み返してくる。
「アリア、大丈夫かい?」
「問題無いの」
そう言いつつ弓を構えるアリア。
前衛のポンポの活躍のお蔭でアリアに怪我は無い。
それについても見事に守り切ったという訳だ。
「ヒミコ様の邪魔をする侵入者どもよ。それ相応の罰を受けるといい」
まるで狂信者のようなセリフを吐きつつ、1人の男が僕に斬りかかる。
だが、――遅い!
僕はそれを軽くいなして首筋に当身を喰らわす。
そうしながらも視線は目の前の金髪、恐らくはポンポを吹き飛ばしたであろう人物から外さない。
その金髪男は何処か見覚えがあった。
僕は頭の中の記憶を探る。
「……スターク・ハイドン」
遅れて登場したミサキが呟く。
どうやらミサキは彼を知っているらしい。
「あっ! 確かミサキに言い寄ってた冒険者だよ!」
そうか!?
ミウの補足情報で僕は漸く思い出した。
確か、Aランクに最も近い男……だったか?
でも、今の彼は当のミサキが現われても特に動揺するそぶりは見せない。
それはつまり、彼も――。
金髪を風に靡かせながら、スタークは無言で僕に向かって一撃を放つ。
速い!?
先程の男とは比べ物にならない。
それでも、僕はそれを紙一重で躱しつつ反撃に転じる。
加減無しの一撃。
相手は僕よりもランクが上、手加減など出来る筈も無い。
剣と剣がぶつかり合い、高い金属音が鳴り響く。
そしてお互いの剣が弾かれ、一歩下がった状態で再び彼と対峙した。
「ふっ!」
「くっ!」
鋭い踏み込みからの目を狙った突きを首を振って躱し、その剣を下からかち上げる。
返す刀で無防備になった胴目掛けて袈裟切りの一撃。
ところが、いつの間にか手元に戻ってきた剣によって弾かれ、今度はこちらが体勢を崩される。
そして、その隙が予定調和であるかのように放たれた一閃。
僕は素早く剣を引き戻し、左掌で剣の腹を抑えるようにして両手でそれを受けた。
呼吸の暇さえ惜しいと思わせるやり取りは、少しのミスも致命傷になりかねない。
緊張からか額に汗が滲んでくるのがわかる。
それに比べて、相手は機械がプログラムした作業をこなすかのように剣を振り続けている。
そこに焦りといった表情は見受けられない。
――精神面にも影響するのか? それともこれが本来の――。
このまま長引くと不味い気がする。
おおよそ不利を悟った僕は、虚勢を張らず自らの土俵で勝負することにした。
相手の隙が見えた場面で攻撃に転じず、僕は後方に飛び退き距離を取る。
そして発動の速い簡単な魔法を展開。
スタークの足元に白い冷気が漂う。
「だあっ!」
気合と共に僕は彼に最接近し、再び剣での勝負を挑む。
それを追撃せんと振り下ろされるスタークの一撃。
だが、凍りついた足元によりスタークの踏込みは浅い。
そして、とうとう僕の剣が彼を捕えた。
胴に薙ぎ払いの一撃。
後方に弾け飛ぶスターク。
そして、それと同時に事態は動き出す。
「今だよ! アンタたち!」
ゲルダさんの号令と共に、静観していた皆が一気に攻勢に出る。
多勢に無勢、今の状況には正にその言葉が相応しいだろう。
あっと言う間に男たちを縛り上げ、拘束することに成功した。
――だが、そこにスタークの姿は無い。
どうやら不利を悟り撤退したようだ。
「……カナタ、早く脱出を」
「ああ、わかってる」
このままヒミコの屋敷まで攻め込もうと言う意見も出たが、そこはゲルダさんが上手く抑えてくれた。
そして、拘束した4人の男たちはというと、彼らとパーティーを組んでいた女性たちの意見を汲んで連れて行くことなった。
移動速度の面で足枷にはなるが、彼らの症状から何かわかれば無理をしてでも連れ帰る意味はある。
「脱出です〜」
元気に復活したポンポの一言。
それが合図となり僕たちは始動する。
スタークが撤退したことにより、この事がヒミコに知れるのは時間の問題だ。
それよりも早く、ここを脱出できれば……。
だが、そんな願いも空しく、暫く後に僕たちの歩みは停滞することとなる。
集落の出口に陣取る集団。
そしてその先頭には――。
「あら、こんな夜中に何処に行かれますの?」
不敵な笑みで僕らを出迎えるヒミコ。
その脇には彼女を守るようにスタークが控えていた。
「いえ、ちょっと夜の散歩に……ね」
「それはいけませんわ。外は危険が一杯ですのよ。ほら、こんな風に」
彼女が着物の袖を振り上げる。
何かの風を切る音と同時に背後から悲鳴が上がった。
悲鳴を上げた女冒険者の肩には大きめな針のようなものが刺さっている。
あれは、爪か?
「ふふっ、大人しく閉じ込められていれば、多少は長く生きられましたのに」
「ポンポ!」
「わかったです〜」
僕はポンポに守りを固めさせる。
あの飛び道具は危険だ。
「好みの殿方でしたけど、秘密を見られては仕方ありませんね。実に残念――」
「……ミウ」
「うん!」
ヒミコのセリフが終わらぬうちにミサキがミウに合図を送る。
すると、ヒミコたちの立つ地面すれすれに何かが展開された。
「ぐあっ!」
「ぎゃっ!」
感電したかのように膝から崩れ落ちる男たち。
いや、ようにでは無く感電で間違いない。
ミウが展開したのは恐らく雷の類であろう。
「……待ってる義理は無い」
「だね」
『悪役のセリフ時には待機』というお約束をも跳ね返す一撃により、相手方は総崩れだ。
だが、肝心のヒミコとスタークはダメージを受けていない。
それでも敵対している男冒険者たちが人質も兼ねると言う絶対的不利な状況が覆ったのは大きい。
「スターク!」
彼女の叫びに反応し、スタークがこちらに迫る。
彼の持つ剣がぼんやりと青白く光る。
「飛斬!」
スタークが叫ぶ。
飛び道具のように発射された三日月状の何かが一直線に僕に向かってくる。
僕はそれを黒曜剣で受けることに成功、が、強い衝撃により両手が軽い痺れに見舞われる。
そして、その隙を見逃してくれるスタークでは無かった。
彼は既に目の前。
そしてそこから斬撃が振るわれる。
「くっ!」
肩口に鈍痛が走る。
治療している暇は無い。
僕は剣を握る手に力を込め、スタークの追撃を迎え撃つ。
2度、3度と剣と剣がぶつかり合い、再度距離を取る。
ヒミコの相手はミサキたちがしてくれているようだ。
そして――。
「さあ、行くよ! アンタたち!」
ゲルダさん率いる冒険者たちは戦闘を続ける僕たちを置いて逃走を図る。
遭遇してしまったら僕たちが引き付けているうちに脱出。
事前の打ち合わせ通りだ。
「ちょっ! 卑怯よ!」
何が卑怯なもんか。
冒険者たちを盾に取り操っていた方がよっぽど卑怯だ。
そんな言葉に聞く耳は持てない。
そして、舞台には僕たちとヒミコ、スターク以外は誰もいなくなった。
これなら存分に力を振るえるというもの。
さあ、ここからが勝負だ!
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m




