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第152話 脱出

遅くなりましたm(__)m

「ミウ! 今だ!」


「うん!」


 槍の穂先のように鋭い複数の氷の矢が目の前の魔物を襲う。

 魔物は身体をくねらせ、身悶えながらも口から溶解液を吐き出した。

 僕はそれを飛び退いて躱し、再び接近して魔物の腹を斬りつける。


 キチキチと不快な音を発しながら、巨大なムカデの魔物は僕を睨むかのように鎌首をもたげ、こちらを見下ろす。

 紫がかった光沢のある外骨格が何とも毒々しい。

 虫嫌いであったなら全身に鳥肌が出来ているところだが――。


「……燃えて」


 ミサキは何でも無いと言った風に冷静に詠唱を完成させた。

 いつもより抑えめの威力のそれは現在の戦いの場を配慮してのことだが、それでも発現した炎はムカデの丸焼きを作るべく盛大に燃え盛る。

 

 炎を消そうと躍起になっているのか、魔物はその場で身をくねらせ跳ねまわっている。

 巨体が壁や天井に衝突し、パラパラと土くれが小雨のように降ってくる。

 僕は早めの決着をつけるべく、三角飛びの要領で魔物の頭部目掛けて接近、文字通りの兜割りでそれを縦一文字に真っ二つに斬り裂いた。

 緑色の血飛沫が噴水のように吹き上がる。

 魔物はビクンビクンと暫く痙攣した後、漸くその活動を停止した。


 剣を振って付着した体液を払い、僕は改めてこんがり焼けたそれを見下ろす。

 見た目とは裏腹に中々良い匂いを醸し出してはいるが、流石にそれを食べようと思う者はこの中にはいない。


「……不可抗力」


 ミサキが僕とミウに向かって一言呟く。

 どうやら魔物が暴れた事を言っているようだ。

 幸いなことに壁や天井は頑丈な造りらしく、細かい破片は兎も角として崩れるという事は無かった。


「先を急ごう」


「うん!」


 魔物との戦闘で少々時間を食ってしまった。

 集落の人間が異変に気づくまでの時間は限られている。

 それまでにこの洞穴に何が隠されているのかを調べなければならない。

 僕たちは倒した魔物の処理もおざなりに先へと進む。


 そして、行く手を遮るように出現する幾多の魔物を倒し、僕たちはとうとう終着点に辿り着く。


「これは……」


 目の前にある物。

 それは自然の土壁と鉄格子で囲まれた牢獄であった。


「誰だ!」


 牢獄の中には何人もの女性が横たわっていて、見るからに憔悴しきっている。

 その中に在って、唯ひとり目の輝きを失っていない女性が僕に向かって威嚇するように吠えた。

 土に汚れていても尚、燃えるような輝きを失わない赤い髪をたてがみのように靡かせ、背後にいる女性たちを庇うように前に進み出る。

 そして、僕たちを鋭い眼光で睨みつける。


「……カナタ」


 思わず怯んでしまった僕の背中をミサキがそっと押す。

 その後押しに答えるように、僕はその女性に返答した。


「僕たちは冒険者です。訳あってこの場所を調査していたところで貴方方を発見しました。今助けますので何があったか話してもらえませんか?」


 赤い髪の女性は怪訝そうな視線でこちらの様子を探るように見る。

 そして、緊張を解いたように一言。


「――女性がいる時点でアイツの仲間ではないか。事情は話すから先ずはここから出してくれ」


「あ、はい。ちょっと下がっていて下さい」


 僕の言葉にその女性は後ずさる。

 そして僕は剣を抜き一閃、鉄格子は崩れるように地面に倒れこんだ。


「ふぅ……、取りあえずは助かった訳だ。それでお前、要求ばかりで悪いけど食料を持っていないか? 私の隠していた食料も尽きてしまって、ここ2日ばかり皆飲まず食わずなんだ」


 そう言って、彼女は腰についていた小さな袋を逆さにして僕たちに見せるように振る。


「ええ、いいですよ」


 僕は巾着から多めに食料と水を取り出す。

 それを見た彼女は目を見開いて、


「ふぅん、アタシの袋と同じタイプのアイテムか。でも、そちらの方が性能は良さそうだな」


 彼女の目線が女神様の巾着に注がれる。


「それよりも、食べなくて良いんですか? それと、怪我人がいるのなら治しますが?」


「助かる。じゃあ、奥の娘たちを見てくれ」


 彼女が指差した先には、軽めの応急処置が施された女性が4人、地面に横たわっている。

 食事の匂いを嗅いでも尚起き上がれない位に重症なのだろう。


「わかりました」


 僕とミウが彼女らに近づく。

 ミサキは治癒魔法が使えない為、憔悴している女性たちに甲斐甲斐しく食事を配る役割に徹している。

 そして暫く経ち――。


「ふう、食った食った。とりあえず充電完了だ。これであの女に目に物見せてくれられるってもんだ」


 歯をシーシーさせながら食後の余韻に浸る赤髪の女性。

 食事中はあまりに真剣で声をかけられなかったが、漸く話が聞けそうだ。

 僕は早速彼女に切り出した。


「それで、何が起こったんですか?」


「ああ、実は――」



 ※ 


 

 冒険者であるゲルダが仲間と供に集落を訪れたのは4日前、疲労していたメンバーの休息を求めてのことであった。 

 そこで彼女たちを出迎えたのはヒミコと言う女性。

 突然の訪問にも拘らず夕食に招待されるなどの歓待を受ける。

 豪華な食事に舌鼓を打ち、満足の内に就寝。

 そして、次の日には何事も無く集落を出発する筈であった。


 しかし、事態は急変する。

 長年パーティーを組んでいた仲間によって、ゲルダは拘束されたのである。

 当初、何が起こったのかゲルダにはわからなかった。

 だが、連れ出された目の前には薄ら笑いを浮かべるヒミコ。

 それを見てゲルダは悟る。

 コイツが何かしたのだと――。


 しかし、飛びかかろうにも拘束された身体が言うことを聞いてくれない。

 ゲルダを拘束しているのは自らの仲間でありパーティーメンバー。

 それ故に強引な手法に出る訳にもいかない。


「あら、怖い。全く、女の嫉妬は醜いわね。だから女って嫌いよ。顔を見たくないからいつもの場所に放り込んでおきなさい」


 何の疑問も持たずヒミコの命令通りに動く男たち。

 ゲルダはさしたる抵抗も出来ずに地下牢へと放り込まれたのだった。



 ※




「そして、ここでアタシと同じ目に遭ったこの娘たちに会ったんだ。後はご覧のとおりさ。アタシは兎も角、奥の娘たちは限界に近かったから……、とにかく助かったよ」


 ゲルダさんは僕たちに向かって頭を下げる。

 こちらとしても間に合って何よりだ。


 治療ならびに栄養補給が終わり、巾着に入れていたストックによりおざなりだが装備を整える女性たち。

 弱弱しく覇気の無かった顔にも生気が戻り、それぞれが冒険者らしい顔立ちに戻っている。


「さあ、アンタたち! 先ずはここから脱出するよ!」


 ゲルダさんが彼女たちを取り纏める。

 Cランクの冒険者である彼女は、界隈ではちょっと知られた顔だそうだ。


「……時間が無い」


 ミサキが僕を急かす。

 中は暗くて良くわからないが、どうやら時間ギリギリのようだ。

 

「さあ、急ぎましょう!」


 もうここに用は無い。

 豹変した男冒険者のことは後にして、先ずは彼女らを脱出させることが先決だ。


 颯爽と今まで来た道を走り抜ける。

 時たま出現する魔物たちも僕たちが手を出すまでも無くゲルダさんたちのみで駆逐していた。

 おおよそ体力が戻った彼女たちは頼もしい限りだ。


 そして、とうとう入口である梯子が見えてくる。

 僕は先頭に立ち、それを駆け上がった。

 だが、戻った小屋の中にアリアとポンポの姿は無い。


 その時、高い金属音が僕の耳に入る。

 僕はすぐさま外へ飛び出した。 

 そして、僕に向かって飛んできた何か(・・)を胸でしっかりと受け止める。


「何とか守りきったです~」


 腕の中で僕を見上げて笑顔を見せるポンポ。

 その額に一筋の赤がつたう。


 僕は拳を握り、目の前の人物を睨みつけた。

 

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