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第151話 洞穴

「さあ、お召し上がり下さいな」


 再び呼ばれた屋敷の一室。

 ヒミコさんに促され、僕は目の前の料理に箸をつける。

 テーブルに並ぶのは予想通りのビックボアのフルコース料理。

 だがしかし、味は予想していたよりもしつこくなく、豚というより鳥に近い肉質。

 巨体の魔物は如何せん大味なのかと思ったが、考えを改めた方が良さそうだ。


「うふふ……」


 視線を感じて顔を上げると、ヒミコさんが僕を見て微笑を浮かべていた。

 そしてお互いの目が合う。

 それと同時に頭の中が霞がかった感覚に陥るが、それも一瞬のこと。

 昨日と違い、呆けることなく食事を続けていられる。


 彼女の目にさらに力がこもった気がする。

 しかし、僕には何の異変も無い。

 それもその筈、僕はミサキに言われてある対策を施していた。





「……これを」


 ミサキに渡されたのはシルバーリングに赤い宝石をあしらった指輪。

 そう、これはいつもポンポが身に着けているものだ。


「……これで昨日みたいなことにはならない」


 確信に満ちた表情でミサキが告げる。 

 僕はそれを受け取り、右手の薬指に着けた。

 特に何も変わった感覚は無いが、その性能の素晴らしさは折り紙つきなのは知っている。

 しかし何故これを……?


「……あれの攻撃を防ぐ。……多分有効」


 ミサキの顔は自信に満ち溢れていた。






 ――その時のミサキの言葉は正しかったわけだ。

 現に、僕が昨日感じた違和感のようなものが一切無い。

 それの意味するところは即ち、そういうことなのだろう。


 何となく張りつめた空気の中での会食も終わりを迎え、僕たちは屋敷を出る。

 背後から突き刺さるような視線を感じながらも、僕たちは振り返ることなく帰路についた。


「今日だね」


「……ええ」


 相手も恐らくこちらに何らかを感じただろう。

 ――となると、決行は今夜しかない。


「今日は僕も行くよ」


「もちろんだよ!」


 ミウの許可も出た。


「ポンポも大活躍するです〜!」


 ポンポがぴょんと飛び跳ねて気合を入れる。

 他の皆の意気込みも十分だ。


 そして、僕たちは見張りの目を掻い潜り、例の場所に向かうのであった。






「あれがそうかい?」


「……ええ」


 物陰からそっと様子を窺う。

 見張りが2人のみなことは確認済みだ。

 だが、扉の左右に仁王像のように微動だにせず立っているため、気づかれず建物に侵入するのは容易では無い。


「眠らせる……とか?」


「……止めた方が良い」


 ミサキ曰く、見張りの男たちが普通の状態で無い可能性があり、効かない可能性があるとのこと。

 時間は限られている。

 ならば、残された手段は一つ。


「強行突破だね」


「……ミウ、正解」


 それしか無いか。

 そうなると、騒ぎになる前になるべく素早く相手を沈黙させる必要がある。

 勿論、失敗は許されない。

 僕は改めて自分に気合を入れる。

 皆の準備も万端のようだ。


「ミウ、目くらましを頼む」


「了解だよ!」


 ミウの水魔法により、じわじわと濃い霧が辺りに広がっていく。

 僕らの視界も潰れてしまうが、相手の位置さえ変わらなければ問題ない。

 向こうが動く前に始末をつけるのみ。


「ポンポ」


 僕は小声でポンポを促す。


「わかってるです〜」


 視界が十分霞がかったところで僕とポンポが物陰から一斉に飛び出した。

 相手に気付く気配は無い。

 そして、背後からの一撃、二撃と多少手加減した攻撃を加え、相手を昏睡させる。


「だ、誰だ!」


 ポンポが相手をしている筈の男から声が上がる。

 不味い! 失敗か!?


 だが、それも杞憂に終わる。

 霧が晴れると同時に地面に横たわる男の姿が確認できた。


「危なかったです〜」


 ほっとした表情のポンポ。

 多少大きな声を上げられていたようだが、辺りに人の集まる気配は無さそうだ。

 その様子を見て、近づいてくるミウたち。


「頑張ったの」


「当然です〜」


 アリアの労いの言葉を受け、ポンポが胸を張る。


「ミウ?」


「大丈夫。近くにはいないよ」


「……急ぎましょう」


 僕は改めて正面の小屋とも言うべき建物を見る。

 その見た目は何の変哲もない。


 僕は扉にかかっていた閂を外し、警戒しつつそっとその扉を開けた。

 ギィ……という軋んだ音と共にゆっくりとそれは開く。

 僕はコッソリと覗くようにして中を確認する。


 光量の少ないランプの明かりに照らされた室内がぼんやりと浮かび上がっている。

 人の気配が無いのを確認し、僕は中へと足を踏み入れた。


 そして、改めて周りを見回す。

 部屋の広さは六畳間程度。

 日曜大工のような単純なつくりの机と椅子が2組、部屋の角に並べて配置されていた。

 その上には書類の類が乱雑に置かれているが、その見た目の扱いの悪さから然したる重要なものとは思えない。

 

 そして、それとは逆側の隅には、人が一人入れる程の穴が床に開いており、立てかけタイプの梯子がそこからひょっこりと頭を出している。

 僕はゆっくりと穴に近付き、その底を確認する。


「行くしかないね」


 僕と同じく、穴を覗き込むミウが発言する。

 ミウの言う通り、今の僕たちにはそこを降りないという選択肢は存在しない。


「……見張りは残しましょう」


 侵入時の一番大事な事は脱出経路の確保。

 万一のことを考えて、何人か残って貰うことになった。

 そして手短かな話し合いの結果、残るのは守りの要であるポンポとそのお目付け役であるアリアの2人に決定する。

 

「気をつけてなの」


「ここは任せるです〜!」


 2人に見送られながら、僕が先に梯子を降りる。

 続けてミウ、ミサキも降りてきた。


 視界の先に続くのは自然の洞穴のような通路。

 土壁には一定の間隔で壁にかかったランプのようなものが灯っているが、その奥までは見通せない。


「……行きましょう」


 ミサキの言葉を合図に僕たちは奥へと向かう。

 先頭は僕、その後ろにミウとミサキという昔懐かしの陣形だ。


 それにしても広い通路だ。

 地上の小屋の大きさからすると、ここまでの通路の存在は予想できなかった。

 恐らくは小屋は後付け、元々あった入口を守る為だけの存在なのだろう。

 そこまで厳重な地下通路、さて何が出てくることやら。

 僕は周囲を警戒しつつ、足早に先へと進んだ。

 


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