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第149話 闇に紛れて

 暫く経ち、部屋の扉が静かにノックされる。

 僕たちは話を中断し、その訪問者を迎え入れた。


 入ってきたのはジードと呼ばれていた男。

 鬼瓦のような強面の顔は憮然としていて、その表情には愛想など一欠けらも見受けられない。


「――失礼。ヒミコ様が夕食を是非ご一緒にと仰せになっている。夕刻に迎えに来るのでそれまでゆっくりと休んでいてくれ」


 用件だけを言い残すと、彼は僕たちの返事も聞かずに部屋を出ていく。

 何とも事務的な対応だ。


「ちょっと感じ悪いね」


 その態度が気に障ったのかミウがチクリと一言。

 まあミウの気持ちもわからなくはないが、僕たちは招かれてここに来たわけではないから、こればかりは仕方が無い。


「夕刻か……。もう時間が無いな」


 間があれば少し周辺でも見て回ろうと思っていたのだが、どうやらそう上手くはいかないようだ。


「……慌てても仕方が無い」


「うん、そうだね」


 焦る必要はない。

 僕たちは部屋でゆっくり休息を取ることにした。







「改めて、ようこそおいで下さいました」


 招かれたのは以前見た大きな屋敷。

 その一室で中央にある木製の長テーブルを囲むようにして椅子が用意してある。

 テーブルの上にはこの周辺で取れたと思われる野鳥や獣の丸焼きが豪快に置かれていて、僕たちの到着と共に屈強な男たちが力強い手つきでそれを捌き始める。

 すると、焼きたての肉の香りが湯気と共にこちらに運ばれてくる。

 何とも食欲をそそる匂いだ。


「私はこの集落から外に出歩くことはあまりありません。宜しければ外のお話を聞かせてくださいな」


 ヒミコさんがにこやかな笑顔で僕に話しかけてくる。

 その脇に控えている男たちの目が厳しい。


「あ、はい。では街の話でも――」


 彼女のリクエストに応え、僕はイデアロードの街並みについて語ることにした。

 話している時もヒミコさんは瞬きもせずじっと僕の目を見て離さない。

 始めは何だか居心地が悪かったが、時間と共に慣れたのか次第に気にならなくなってきた。




「カナタ!」


 ミウに肩を叩かれ、僕ははっ(・・)と横を振り向く。

 すると、ミウが心配そうな顔つきでこちらをを見ていた。

 よくよく周りを見ると、既に皆の皿の上の料理は空になっている。

 気づかないうちに夢中で話し込んでいたらしい。


「うふふ、とても興味深いお話でしたわ。是非また聞かせてくださいね」


 ヒミコさんが口に手を当てながら微笑む。

 どうやら今日はこれでお開きのようだ。


「それと、お話に夢中で食が進まなかったようですね。宜しければ少し包んで差し上げますわ」


「ありがとうございます」


 僕は頭を下げて彼女の気遣いにお礼を述べた。

 しかし。今は何となく食欲が湧かない。

 食べ足りなそうなポンポにでもお腹一杯食べて貰おう。





「カナタ、大丈夫? 何だか変だったよ」


 部屋への帰り道、ミウが下から覗きこむようにして僕に問いかける。

 人間形態でのその仕草は初めてなので、不覚にも少しドキッとしてしまった。


「うん? いや、平気だよ」


 頭の中に感じたもやっとした感覚も今ではすっきりしている。

 特に問題は無い筈だ。


「…………」


 気づくと、ミサキも同じくじっと僕の顔を凝視していた。


「ん!? 何?」


「……何でも」


 セリフとは違い、何かを確認するような仕草。

 だが、僕はそれ以上追及はしなかった。





 部屋に戻った僕たちは、予定通り集落を調べることにする。

 先ずは周辺の状況把握。

 怪しげな場所や警戒体勢が著しく厳しい場所などの確認。

 万一の時は状況に応じて臨機応変に対応だ。


「じゃあ、僕が――」


「……却下」


「うん、駄目だね」


 先陣に名乗りを上げた僕だったが、ミウとミサキにあえなく却下される。


「カナタは待機。本調子じゃないでしょ?」


「……ミウに賛成」


 そんな2人の意見に押され、今回は僕の居残りが決定する。


「……行ってくる」


「アリア、よろしく」


「任せてなの」


 アリアも僕の見張りとして残るのだそうだ。

 ……何気に信用が無いね。




 ※




 まだ太陽の眠りが浅い時間、見張りの目を掻い潜り闇から闇へ移動する3人。


「ねえ、ミサキ。カナタは平気かな?」


 建物の陰で、ミウがミサキに小声で問いかける。


「……多分、大丈夫」


 その言い回しにミウは少々引っ掛かりを感じたが、そこは付き合いの長い2人。

 ミウはミサキの大丈夫と言う言葉を信じ、自分の役目に専念することにする。


 ミウが目を瞑り集中すると、集落の中で見回りや見張りが何処にいるのか手に取るようにわかった。

 この能力のお蔭で、3人はまだ誰とも遭遇する事無く闇の中を進む事が出来たのである。


 ミウは感知した情報の中で、動かない見張りがいる場所に着目する。

 該当する箇所は2つ。

 1つは例の大きな建物の入口とその周辺。

 これはあのヒミコの住む場所であり、見張りがいるのは何となく納得できた。

 問題はもう1ヶ所、集落の外れであるその場所には何人かが動かずにじっとしているのがわかった。

 ミウはミサキとポンポにその事を伝える。


「……そこに行ってみましょう」


 皆、ミサキの言葉に異論は無かった。





 そして辿り着いた集落の外れ。

 そこにはミウの感知した通り見張りが3人、小さな建物の前に立ち周辺を警戒している。


「……ミウ、中に人は?」


「う〜ん。ちょっとわかりづらい」


「……そう」


 3人は物陰でしばらくその様子を観察する。

 小一時間ほど探りを入れていたが、別段変わった動きは起きなかった。


 そしてミサキは早々に決断を下す。


「……今日は帰りましょう」


「突入しないですか〜?」


 ポンポの疑問にミサキは簡潔に答える。


「……暫くは問題ない」


 そして3人は再び闇に溶けるのであった。





 

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