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第148話 山奥の集落

 バキッ、バキッ!と僕たちが枯葉や枯れ枝を踏みしめる音のみが響く。

 先頭は真剣な顔で周囲を警戒するミウと僕、中央にはミサキとアリア、ポンポは殿として後方の守りを固めていた。


 例の柵を越えてどれくらい経っただろうか?

 今だに周囲にはそれらしいものは何も無い。

 これまで進んできた道と全く景色の変わらない状況に、あの柵は何だったのだろうかとの疑問符が頭に浮かぶ。

 いや、意味の無い物の筈がない。

 やはり僕たちが何かを見落としているのか?


「何も無いです〜」


「しっかり警戒するの」


 つまらなそうに呟くポンポをアリアが注意する。

 まあ、ポンポの気持ちもわからないでは無い。

 こう何も無いとどうしても拍子抜けしてしまうのは否めないだろう。


「ミウ、何か感じた?」


「う〜ん」


 ミウが首を捻る。

 その様子に、僕もちょっと不安になる。


「ひょっとして、間違えたかな……」


 そもそも何ら目印があった訳では無く、進む方角がこちらで良かったかもわからない。

 いっそ引き返してみるか――。

 そう思い始めた時、ミウが僕の裾を引っ張る。


「カナタ、向こうの方角に何かがいるみたい」


 僕はミウの指し示した方角を見据えて目を凝らす。

 しかし、特にここからでは何も分からない。


「……近づいてみるか」


 皆が無言で頷いたのを確認し、僕は音を立てないようにゆっくりと前進していった。





「これは……」


「……民家?」


 僕たちが辿り着いた場所は高台のようになっており、そこから見下ろした先には何軒かの民家らしきものが見えていた。

 中央には昔話に出てくる庄屋の家のような横に大きい木造の建物。

 そして簡素な木造住宅がそれを守るかのように周囲に建てられている。

 生活による煙が何軒かの家から出ているところを見ると、どうやらこれらは空き家ではないようだ。


 暫く遠目に様子を見ていると、民家から1人の男が現われた。

 庶民的な服装に身を包んだその男は、多少不慣れな手つきで薪割りを始める。

 しかし力はあるようで、結構大きめな斧だと思うのだが、それを軽々と何の苦も無く振り下ろしている。


 続けて現れた男たちは、軽鎧にその身を包み、腰や背には剣や弓が装備されていた。

 その手には狩りで取ったらしい獲物が抱えられており、それをもって大きな建物に入っていく。


 ――暫く集落の様子を眺めていたが、別段変わったところは無いように思える。

 もちろん、建てられている場所以外でだが……。


「どうするの?」


 ミウが聞いてくる。


「とりあえず接触してみようか。目に見えて危険は無いみたいだし……」


 僕はミウたちに同意を求めた。


「うん。それしか無いよね」


 こうして、僕たちはその集落を訪問することにした。






「ん!? 何だ、お前らは!」


 僕たちを発見した一人の男の叫びに、周りにいた他の男たちが集まってくる。

 僕はなるべく敵愾心を煽らないよう、丁寧に対応する。


「突然の訪問で申し訳ありません。僕たちは冒険者で、たまたま通りかかったところに集落があったものですから寄らせて貰いました。出来れば少しの間だけでも休ませてもらえますか?」


「……疲れた」


 僕の横でミサキが三文芝居を打つ。

 中々どうして演技も様になっている。


 それを聞いた男たちはお互いに目配せすると、


「待ってろ。今ヒミコ様に確認を取ってくる」


 ヒミコ?

 それがこの集落の長の名か?


 一人の男がヒミコ様とやらを呼びに行っている間、男たちの視線は僕たちに刺さり続けている。

 どの男たちも隙と言った隙が少なく、下手をすればイデアロードの警備兵レベルの力はありそうだ。

 まあ、こんな山奥に集落を構えるくらいなのだから、それなりの武力が無いと生きていけないのかもしれない。




「その子たちですか?」


 突然響いた透き通るような声。

 その声を聞き、目の前の男たちが海が割れたかのように左右に分かれる。

 そして、男たちの間をしゃなりしゃなりと言った風にゆっくりとした歩みで1人の女性が数名の男を従えながら僕たちに近づく。

 切れ長な目と筋の通った鼻、そして新雪のような白い肌。

 魅力的に映るであろうその顔はまさしく万人が万人、美人であると断言するであろう。

 山奥の集落に似つかわしくない赤を基調とした艶やかな振袖も彼女にはピッタリとはまっていた。


 ゆっくりと僕の目の前で立ち止まった彼女に対し、僕は頭を下げて自己紹介をする。


「初めまして。冒険者のカナタと言います。後ろの皆は冒険者のパーティーメンバーです。現在僕たちは依頼の最中なのですが、その時に偶然この集落を発見しまして……。ご迷惑かもしれませんが少しここで休ませてもらえないでしょうか?」


 すると、彼女は袖で口元を隠しつつ、僕に笑顔を向ける。


「ヒミコです。ご丁寧な挨拶、ありがとうございます。特に迷惑ではありませんよ。どうやらお疲れのご様子、何なら一晩泊まっていきなさいな。――ジード、部屋を準備してあげなさい」


「仰せのままに」


 そして、僕たちの返事を聞かずに宿の準備まで始めてしまった。

 横でミサキが頷いたので、僕たちはされるがままにこの集落に泊まることにする。




「ふぅ……」


「……お疲れ様」


 用意された部屋で一息ついた僕にミサキが労いの言葉をかけてくれる。


「潜入成功です〜」


「しーっなの」


 緊張感の無いポンポをアリアが注意する中、僕たちは中央に集まり小声で話し合いを始める。


「で、どう?」


「……良くわからない。……でも様子見は必要」


「ミウもそう思うな」


 行方不明者が多い地域に出来ていた集落。

 それに対する2人の意見は一致している。

 アリアの意見は後で聞くとして、概ね方針としては決まった。


「そう言えばカナタ、あのお姉さんを何とも思わなかったの?」


 そんな時、ミウが話を変な方向へ脱線させる。

 ふとミサキを見ると、じーっとこちらを凝視している。


「ああ、僕は何となく苦手かな」


 まだ少し話しをしただけだが、僕は彼女に対し何処かとっつきにくさを感じていた。

 何となく冷たい印象、とでも言うのだろうか。

 何と言い表したらよいか自分でも良くわからない。


「……なら良い」


「だね」


 僕の答えにミウとミサキは満足そうに笑みを浮かべた。

 何だかなぁ……。


 話し合いの最中にも、僕は部屋の外に人の気配を感じていた。

 恐らくは僕らに対する見張り、幾ら余所者と言っても警戒し過ぎではないだろうか。

 それは、やはり何かがあるということ。

 先ずはそこら辺を慎重に調べてみるとしよう。


 

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