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第147話 捜索

 ガルド王国の南方にそびえ立つ山々。

 人間が足を踏み入れるには過酷な環境であるそれらを何とか開発しようと、嘗て国により建てられたのがボストールの街であった。

 だが、他の幾つかの街も並列して開発途中であった当時、他の街との交通の便の悪さや周辺の魔物の強さなどによりボストールの街は慢性的な人手不足に陥る。

 新たな入植者は増えず次第に人口は減っていき、それが更に環境を苛酷にさせる。

 そんな悪循環を最後まで払拭できず、ボストールの街は20年という短い生命を終えることとなった。


 それから数百年、その土地には新たなる街が形成された。

 その街の名はイデアロード。

 下手な魔物では傷一つつけられない厚い壁で覆われたその街は、何処からともなく現れた住人達により嘗ての街の滅亡を嘲笑うかのように急激なスピードで発展していく。

 そして、それと時を同じくして南に位置する山々、ピューレ山脈の開発も数百年ぶりに着々と行われていた。

 だが、それはまだ始まったばかりであり、現在開拓出来ている部分は東西に果て無く広がる山脈のごくごく一部。

 この一帯がまだ危険の伴う場所であることは言うまでもない。



 ※



 ピューレ山脈の南東に位置するアラフト山。

 僕たちは行方不明になった冒険者の手掛かりを掴むべく、その山中に足を踏み入れていた。


「初依頼〜♪ 初依頼〜♪」


「です〜♪ です〜♪」


 ミウ自作の初依頼の歌?にポンポが調子を合わせる。

 そのリズムを聞いているとまるでピクニックにでも来ているような錯覚に陥りそうだ。

 しかしながら、その実ミウは油断などしておらず、索敵だけはしっかりと行っているのを僕たちは知っている。

 先程も接近してくる魔物をいち早く察知して殲滅、その感知能力は僕やミサキの及ぶところでは無い。

 それどころか、最近更にその範囲が広がったように思える。

 人型になったからパワーアップという訳では無いと思うのだがそこは女神様のアイテム、何が起こっても不思議では無いと思う。


 僕は改めてミウの姿に目を向ける。

 魔獣の皮をなめした機動性重視の服と深い森に対応した長めの革製ブーツ、腰のホルダーにはイデアロード製の短剣が刺さっている。

 ミウにとって自分専用の武器というのはかなり嬉しかったらしく、それを受け取った時のミウの輝くような笑顔は印象的であった。

 だが、言うまでも無くミウは魔法使い。

 その腰の短剣が抜かれるようなことがあったなら、それこそパーティー的に大ピンチであろう。

 あくまで念のための護身用、まあ、本人が喜んでいるんだから水を差すことはしないけどね。

 

「カナタ! あそこ!」


 早速ミウが何かを発見したようで、その方角を指さして僕に知らせてくれる。

 目を凝らしてよく見ると、そこには一匹の魔物が木の上から僕らの様子を窺っていた。


「あれは……?」


「……キャットモンキー。……集団行動を得意とする凶暴な魔物。……きっと偵察」


 アテナの寵児の知恵袋であるミサキが丁寧に解説してくれる。

 久々の依頼にご機嫌なのか、いつもより饒舌だ。

 しかしキャットモンキーって……、猫なのか猿なのかハッキリして欲しいね。

 まあ、魔物なんだけどさ。


「任せてなの」


 アリアガ背にしていた大弓を取り外し、矢を番えた。

 矢尻に渦巻く冷気により周囲の温度が少し下がったような気がする。


「えいっ! なの」


 言葉のやわらかさとは裏腹に、矢は閃光のように一直線に魔物へと向かい、その胸を穿つ。


「グキャーッ!」


 猫のような体躯のキャットモンキーは、その猿顔を歪めながら木の枝から落下していく。

 それが地面に衝突する音とミウの叫びはほぼ同時であった。


「みんな、来るよ!」


 その直後、金切り声が四方八方から響き、その音量が次第に大きくなる。

 どうやら囲まれたか?


「……五月蠅い」


 煩わしそうな顔をしたミサキが、呟きと共に漆黒の球体を宙に発生させる。

 辺りの光を塗りつぶすような黒いそれは、ミサキの合図に合わせて分裂、全方位に弾け飛ぶ。


「キキー!」


「ケキャーッ!!」


 距離を詰めていた魔物たちの悲鳴が辺りに響き渡る。


「いっくよ〜!」


 続けてミウが手を高く掲げると、先ほどのミサキが作り出したものと同じような球体、いや、正確には二回りほど小さいものが発現する。

 そして、追加攻撃よろしく弾け飛んだそれは、ミサキの攻撃を掻い潜って接近していた魔物に寸分違わず命中する。


「よし! 行くぞ!」


 僕も負けてはいられない。

 怒涛の如く押し寄せてくるキャットモンキーを剣を振るい切り伏せる。


「グキャッ! キキーッ!」


「させないです~!」


 木の枝から飛び降りるようにして襲い掛かるキャットモンキーにはポンポが対処、力押しでそのまま後方に弾き飛ばす。

 そして、それをアリアが話し合ったかのように弓で狙い撃つ。

 普段からアリアの指導を受けているだけあって、2人の連携は完璧だ。


「ケキャー! ケキキャー!」


 キャットモンキーの数による力押しを跳ね返すこと数分、切羽詰まったようなキャットモンキーの叫びが後方から発せられた。

 それを受けたキャットモンキーたちは、まるで統制された軍隊のように一斉に身を翻し撤収を始める。

 凶暴な魔物の割には統制がとれていると感心しつつ、僕たちはそれを敢えて追おうとはせず警戒態勢のまま待機する。

 そして、気配がすっかり無くなったのをミウが確認したところでその警戒を解いた。


「ふぅ……」


 僕は大きくため息をつく。

 皆も特に怪我は無く、無事のようだ。


「う〜ん。ミサキのと比べて威力はまだまだかな?」


「……命中精度はミウの方が上」


 ミウとミサキがお互いの繰り出した魔法について称え合っている。

 その様子には既に緊張感の欠片も無い。


「あまり倒せなかったです〜」


 ポンポは自身が皆より活躍できなかったことを悔しがっているが、守りの要であるポンポは今のままで十分価値があると思う。

 

「ねえ、ミサキ。あれが今回の原因ではないよね?」


 一応、僕はミサキに聞いてみた。


「……違う。……弱すぎ」


 うん、やっぱりそうだよね。

 行方不明の冒険者、特にBランクならばあれ位の攻撃は撃退できる筈。

 やはりもう少し調べてみないと駄目か……。


「さあ、カナタ。行くよ!」


 先ほどの戦闘の疲れなど無いかのようにミウが先陣を切って進みだす。

 僕たちは仕方が無いなぁといったほんわかとした雰囲気の中、その後について行くのだった。





「ん!? あれは?」


 あれから何度かの戦闘を経て進んだ先、そこで僕たちはとあるものを見つけた。

 それは竹のような植物で作られた『柵』。

 広範囲に広がるそれは、明らかに人為的な作業の入ったものである。


「こんな所に、何で柵が?」


 僕は覗き込むようにその向こう側を確認してみるが、ここからでは特に変わったものは見つけられない。


「入ってみるしかないか」


 罠の類が無いのを確認し、僕は柵の上部に手を掛ける。

 そしてそこを支点にして跳躍、何とか上手い具合に柵の向こう側に着地出来た。

 それほど高い柵では無かったが、前世だったら絶対に失敗していただろう。


「ほら、ミウ」


「うん!」


 背の低いミウには少々きつそうな高さなので、僕は柵の一段目に足を掛けて上から手を伸ばし、抱えるようにしてミウを中へと招き入れる。

 続けてアリア、ポンポも同様に柵を越えさせた。

 そして、残されたミサキはと言うと、


「……ん」


 当然のように僕に手を伸ばして何かを要求する。

 いや、何を要求しているかは当然わかっているけどね。

 僕は何気にミサキの運動神経が良いことを知っている。

 恐らくこの程度の柵は楽々と飛び越えられるのだが……。


「……平等って大事」


 仕方ないとばかりに僕はミサキの手を取る。

 そして、そのまま引き上げたところで腰を抱え、皆と同様に中に招き入れた。


「……ん、満足」


 ミサキが微かな笑顔を共に呟く。

 はい、それは何よりです。


 僕は改めて周囲を見回す。

 特に目につく物は無く、侵入者を排除する気配も無い。

 僕たちは警戒を怠らず、さらに奥へと進んでいった。



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