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第141話 風

三人称視点です。

 岩の壁と鉄格子で囲われた空間には何処からとも無く水滴の垂れる音が響く。

 地上と繋がる石階段の上から漏れる光のみがその場所での唯一の光源であった。

 ともすれば吸い込まれてしまいそうな闇の空間の奥、そこには静かに目を閉じている男が1人、周りと同化するかのように時の流れに身を委ねている。


 暫くして、彼は何かに反応するかのようにゆっくりと目を開けた。

 それと同時に何者かが階段を下りてくる音が近付いてくる。


「カバル、時間だ! 大人しくついて来い!」


 軽装を身に纏った2人の土竜族によって、錆びついて固くなっている鉄格子の扉が嫌な音と共に開かれる。

 カバルは男に逆らうこと無く、無言でのそりと立ち上がった。


「ふん! おい、お前。そのままカバルを連れて来い!」


 従順なカバルを見て満足そうな笑みを浮かべた男が、連れ立っていたもう一人の男に命令する。

 そして自分自身はというと、役目は終わったとばかりに後ろを振り向きもせずとっとと階段を上がっていった。


「……カバルさん」


 簡素な軽鎧を身に着けた気弱そうな男は伏し目がちにカバルを見る。

 視線を受けたカバルは、本日初めてその口を開いた。


「コラム、良いのだ。お前には家族がある。大切にしてやれ」


「何をしてる! 早く連れて来い!」


 地上から先程の男の怒鳴り声がする。

 カバルは文字通り、拘束されていた手でコラムの背を押した。


「……すいません。……すいません」


 コラムは天井を見上げ、何かを堪えながらカバルを連れ立って地上へと上がっていくのであった。




「さあ、見るが良い! この男は誇り高き土竜族の身でありながら我らを裏切り、同胞に手を掛けた反逆者である。これから雷帝様の名の元に自らの命でその罪を贖ってもらう!」


 壇上に上がったゴドーが、集まっている同族に見せつけるかのように煌びやかな装飾の入った剣を高く掲げる。

 彼の周りを彼を警備する近衛とも言うべき男たちが囲むが、その中にはカバルを慕っていた兵たちの姿は無かった。

 そして、後方の一段高い場所には雷帝と呼ばれる少年が椅子に座り静かにその様子を見守っている。


 拠点に集う民衆たちは戸惑いを隠せない表情で騒ぎの中心を見つめる。

 ゴドーの後ろには猿轡をされキリストの如く磔にされているカバルがいた。


 自身の演説を終え満足げな表情のゴドーは、ゆったりと威厳をもって後ろを振り向く。

 そして、周りに集まっている者たちには聞こえない程の小声でカバルに語りかけた。


「カバル、馬鹿な奴よ。所詮お前も親父と同じだったということか。くそ真面目で似たもの同士よ」


 ゴドーとカバルの父親は長い間種族を纏めてきた頭領であり、土竜族最強の男。

 強さだけでなくその人となりからも皆に慕われ、カバルの目指すべき目標のような人であったが、数年前に森で魔物に襲われて亡き者になっていた。

 唯一の尊敬する人物であった父を馬鹿にされ、カバルは兄を抗議の目で睨みつける。

 ゴドーはその様子にニヤリと笑って言葉を続けた。


「お前、親父が本当に魔物にやられたと思っているのか。くくくっ、どうせこれが最後だから教えてやろう。あれは私がやったのだよ。――ん、何故って? あのくそ親父は私の才能を認めようとはせず、お前ばかりを可愛がっていた。ゆくゆくは土竜族を背負って立つだと! それは兄である私に決まっているだろう!」


 ゴドーは息を乱しながら興奮気味に捲し立てた。

 渦巻くのは”嫉妬”。

 それは血を分けた親兄弟までも手にかける。

 いや、血を分けているが故に深いのかもしれない。

 

 拘束された無力な弟を見て落ち着いたのか、息を整えたゴドーは再び語り出す。


「だから――だ。私は見る目の無い奴に自らの実力を示してやっただけだ。油断した背中からバッサリと――な。やってみたら意外と簡単だったよ」


 カバルは目を見開いてゴドーを睨む。 

 兄の言葉の意味を噛みしめ、目の奥には怒りの炎が渦巻いていた。


「おっと、そんな怖い顔をしても無駄だぜ。頑丈に縛ってあるからいくらお前の馬鹿力でも抜け出せない筈だ。さっきの話は死に逝くお前への土産だよ。あの世で親父に伝えてくれ、やはりアンタの見立ては間違っていたとな。それともう一つ――、カバル、私はお前が”本当に”大嫌いだったよ」


 決別の言葉を言い残し、ゴドーはその場所から離れていく。

 固く握られたカバルの拳は血の涙を流していた。


「さあ、裏切り者に死を与えよ!」


 ゴドーの掛け声に呼応し、2人の男が鋭い鉱石を穂先とした槍をカバルへと向け、それをそのままカバルへと突き出す。

 その鋭い先端がカバルの腹を突き刺そうとした正にその時、何処からともなく吹き抜けた一陣の風が舞い上がる。

 突風とでも言うべき風は鋭い刃となり、槍を穂先から見事な切り口で切断した。


「――どうやら、間に合ったみたいだね」


 そして、鳥が空から舞い降りるが如く、カナタは騒ぎの中心に降り立つのであった。



キリの良い所ということで……

今回短くてすいませんm(__)m

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