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第136話 攻守交代

「カナタ! 気が付いたみたいだよ!」


 ウササ族曰く「貴方方の監視下に置くのが一番安心」ということで、借りている一室の傍らで僕らの監視下にある土竜族の捕虜。

 その捕虜の漸くの目覚めをミウがその場で飛び跳ねて僕に伝えてくれた。

 怪我は大したこと無かったので、そのまま柱に括り付けられている現状も扱い的には問題無いと思う。


 僕はゆっくりと捕虜の男たちに近づいた。

 どうやら意識を取り戻したのは1人だけのようだ。


「お前たちは……。そうか、俺は捕えられたのか」


 僕を見て土竜族の男が呟く。


「理解が早くて助かるよ」


 僕は問いともつかない男の呟きに肯定する。


「だが、無駄だ。俺たちを全面に出したところで戦いは止まらない」


 あれは『戦い』ではなく、僕たちがいなければウササ族に対する一方的な『蹂躙』だったと思うのだが、この場で突っ込むのはやめておく。

 目の前の男とそんな議論をしても恐らく無駄だろう。


「無論それが出来れば一番だけど、君たちに望むのは別の事だよ。あの雷帝とかいう少年の事だ」


 男はそれだけで僕の言いたいことを理解したのだろう。

 苦々しげな顔をして僕を睨みつける。


「話すとでも?」


 彼の口角が上がる。


「……立場を理解してる?」


 それを見て、今まで僕の隣で黙って聞いていたミサキが一歩前に出た。


「うっ! それは……」


「……そう、私こそが雷帝。……あれは偽物」


 パチパチとミサキの掌から火花が散るのを見て男は恐怖に顔が歪む。

 恐らく彼はその魔法の威力を間近で見てきたのだろう。

 脅しとしては十分のようだ。


「……偽物が何処から来たのか知りたい」


「し、知らねえ! 俺じゃなくてゴドーが連れて来たんだ。土竜族の救世主だとかいって――」


「……本当?」


「う、嘘はついてねえ! 第一俺たちが従ってるのは雷帝じゃなくてゴドー兄弟だ」


 なるほど、あの統率と忠誠は少年にではなかったのか。

 しかし、少し脅しただけでやけにあっさり吐いたな。

 もうちょっと粘るかと思ったけど……。


「……ゴドー兄弟?」


「ああ。俺らの中で最強の男だ。とはいっても強いのは弟のカバルだがな」


 さらに話を聞くと、どうやら土竜族は力で群れのボスを決め、それに服従するという仕来たりのようだ。

 雷帝を名乗る少年の知識は得られなかったが、これはこれで参考になった。


 ミサキが「もう良い?」という風に目線を送って首を傾げて来たので、僕はそれに黙って頷いた。

 ミサキの掌に留まっていた魔力が霧散する。

 それを見て多少強気を取り戻した男が僕に問いかける。


「俺たちをどうするつもりだ」


「別に。ただ解決するまではここで大人しくして貰うよ」


 一通り聞きたいことを聞いた僕たちは、話し合いをすべく部屋を後にするのだった。






「やっぱり、こちらから乗り込むべきだろうね」


 別の部屋を借りての作戦会議――とはいってもこの場にいるのは僕らのみでウササ族はいない。

 良く言えば信頼、悪く言えば丸投げなのだが、少年の声だけで震え上がるウササ族が戦闘を出来るとは思えないので、この内容を後で伝えれば良いかと思っている。

 

「ウササ族はどうするです〜?」


 ポンポが手を挙げて質問する。


「ああ、何も全員で行こうとは思っていない。ミサキとアリア、それとポンポは集落の防衛をしてくれ」


「……カナタ、私も行く」


 ミサキは居残りに不満のようだ。


「でも、状況的に全員で行くわけにもいかないでしょ。そうするとバランスを考えてこの布陣が一番良いかなって思うんだけど――」


「でも、危ないの」


「わかってるよ、アリア。無理だったら引き返してくるから大丈夫だよ」


「うん、ミウがついてるしね♪」


 ミウのセリフはどこか嬉しそうだ。

 それを見たミサキが頬を膨らませている。

 だが、防衛するに当たって司令塔のミサキは絶対必要。

 ここは納得してもらわねばならない。


「ミサキ、頼むよ。留守を任せられるのは他に居ないんだ」


 そのことはミサキもわかっている筈。

 ウササ族の為に攻め入るのに、残っていた彼らが蹂躙されたら本末転倒だ。


「…………了承」


 渋々といった感じではあるがミサキも残ることが決定した。




「それで、ミウたちはどうすればいいの?」


「うん、状況がわからないことにはだから、先ずは偵察だね。後はその場の判断で決めよう」


 土竜族の規模などは捕虜から聞き出してはいたが、そのまま鵜呑みにするのは危険だ。

 偵察して状況によって臨機応変に動く。

 作戦とは言えないかもしれないけれど、これが一番良い気がする。


「わかったよ! ちゃちゃっとやっつけちゃおう!」


「ああ、頼りにしてるよ」


「……適当」


 そんな僕とミウの会話を聞いてミサキがボソッと呟いた。

 どうやらまだ未練があるようだ。

 他人が見たらわからない程度だが不満の色が見て取れる。


「ミサキ、ちょっと来て」


 その時、ミウが手招きしてミサキを呼ぶ。

 そしてそのまま2人は部屋を出ていく。

 突然の事に会議は一時中断。

 まさかあの2人に限って喧嘩はしないとは思うが――。


 待っている間、ポンポはじっとしているのが耐えられなくなったのか落ち着きなくそわそわしている。

 それに対しアリアはその場でじっと2人の帰りを待っていた。

 ――これ以上長くなるなら一時解散して様子でも見て来るか。

 そんな風に考えていた時、丁度2人が部屋に戻ってきた。


「お待たせ、カナタ」


「……行ってらっしゃい。……気をつけて」


 先程と打って変わってのミサキの態度。

 外でどんな取引が行われていたのか一抹の不安を感じたが、この際それは後回しにしよう。


 そして、その後も話し合いは進み、出発は明日ということに決まった。





 翌朝、僕とミウは予定通り森へと侵入する。

 出発の際には「……無茶をしない。……危なかったら引き返す」ことをミサキに約束させられたので、その辺を肝に銘じて森の中を進む。

 そしてそれほど時間がかからずに以前ウササ族の若者が襲われていた地点まで辿り着いた。


「カナタ。結構怖いね」


「ああ。僕もあまり得意じゃないんだけど、この際贅沢は言ってられないね」


 土竜族の特性でもある地下からの出現、攻撃。

 その対策として、僕たちは現在地面のはるか上空、50メートル級の巨大針葉樹の枝から枝へと飛び移りながら移動していた。

 空を飛ぶならともかく、飛び移るだけなら風魔法で何とかなるというのは実際行っている僕もビックリ。

 改めてミサキの知識の深さには驚かされた。

 着地もふわりと静かなこともあり、怖さを押してでも偵察手段として取り入れる価値はある。


「あっ! カナタ」


 ミウが小声で僕を呼ぶ。

 遥か下方を見るとそこには土竜族が2人、周囲を警戒しつつウササ族の集落に向かっていた。


「恐らく偵察だね」


「でも、まさか自分の遥か上にいるとは相手も思ってないだろうね」


 僕とミウは小声で笑いあう。


「さて、急ぐか」


「うん。でも見つからないように慎重にね」


「大丈夫だよ。そんなヘマはしないさ」


 僕は上空への警戒を疎かにする土竜族を見下ろしながら、彼らの拠点を目指し再び動き始めた。




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