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第135話 対決

お待たせしましたm(__)m

 ウササ族の若者を救出、無事に集落に送り届けた日の翌日。

 朝早くから集落全体にどこか幼さの残る高めの声が響いた。


『おい、ウサギども! この雷帝様に逆らうなんざ良い度胸してるじゃないか! 隠れてないで出てきやがれ!』


 まだ部屋の中にいた僕は隣にいるミウと目を合わせる。

 そしてお互い頷き合うとそのまま扉から外へ飛び出した。


『何でも違う種族の奴が来てるらしいじゃないか。そいつらを素直に引き渡せば罰を軽くすることも考えてやらないでもないぞ』


 自分勝手極まりないセリフが返答を待つこと無く続く。

 しかしその効果はてき面のようで、ウササ族たちはその場で蹲り、身を寄せ合って肩を震わせていた。


 同じように集落の入り口に向かっていたミサキたちとも合流する。

 そして辿り着いた集落の入り口、目の前には黒いフードを被った背の低い人物が土竜族を引き連れて立っていた。


「……子供?」


 ミサキが疑問を投げかける。

 確かに、身長はアリアやポンポと同じくらいだろうか。

 偉そうな口調とは逆に、威厳のようなものは全く感じなかった。


「誰がガキだ! 俺様こそは雷帝。近い将来この世界を支配する男だ!」


 雷帝とやらがミサキの呟きに過剰反応して怒鳴りたてる。

 その反応がいかにも子供っぽいとは考えていないようだ。

 しかし話には聞いていたが、こんな少年がウササ族を脅しているのか。


「ウササ族を苛めるのは良くないです〜」


「駄目なの」


 ポンポとアリアが非難の声を上げるが、彼はそれを鼻で笑って一蹴する。


「ふん。如何しようと俺の勝手だ! お前ら! この生意気な奴らをやっつけろ!」


 その命令に呼応し、雪崩を打つように迫りくる土竜族。

 その中には見知った顔もあった。

 片目に瞼からザックリと傷跡のある土竜族。

 昨日ウササ族を襲っていた奴だ。


「くくっ、前回は世話になったな! だがもうお前らはお終いだ!」


 そんな言葉と共に彼が右手を振り上げる。

 僕は鍵爪を剣で受け止め、皆に指示を出す。


「土竜族の牽制は任せた。僕は――、あの少年を無力化する」


 片目の土竜族を力任せに弾き飛ばし、後方で偉そうに踏ん反り返る少年の元へと向かう。

 次々と襲い掛かる土竜族を適当に往なし、または気絶させ、そしてとうとう少年の元へ辿り着いた。


「お前なんかに俺の相手が出来るかな? 俺は選ばれた人間だぞ!」


 あくまで自信過剰なスタイルを崩さない少年。

 彼の掌からパチパチと紫電が発生する。

 自称の二つ名からわかる通り、彼の得意なのは雷の魔法で間違いなさそうだ。


「黒焦げになれ!」


 少年の叫びと同時に掌から閃光が走る。

 だが、それは十分予想できた攻撃であり、素直に当たってあげる程僕は親切ではない。


「なっ!?」


 地面から盛り上がった土の壁が少年の雷を遮断する。

 もちろんこれは僕の魔法で作ったもの。

 相手の攻撃威力がわからなかったので、魔力を奮発して少々厚くしてある。

 さらにこの壁により、相手は僕の姿が視界から外れている筈。


 その隙を突き、壁を横からするりと抜けるようにして少年に接近、その腹に掌をかざす。

 すんなりと上手くいったところを見ると彼は見た目通りの魔法職。

 接近戦はあまり得意ではないらしい。


 僕が唱えたのは彼のお株を奪う雷魔法、それが彼の体内へと浸透する。


「ぐわっ!」


 その場で膝をつく少年。

 だが、残念ながら意識は刈り取れていない。

 少し手加減しすぎたか?

 僕は一旦距離を取る。


「くそっ!」


 少年の目の奥の闘志はまだ少しも衰えていない。

 僕は追撃を放つべく再び彼に接近する。


 しかし、その進行方向に土竜族が突如現れた。

 土の中の移動、土竜族の特徴ともいえるその特技は中々に厄介だ。

 自らの身体を犠牲にするかのような割り込みを受け、僕は接近を止めて後方にステップする。


「ご無事ですか、雷帝様」


「う、うん」


 乱入者である土竜族の男に素で返す少年。

 その男をよく見ると土竜族の中でも一回り大きい体躯をしていた。


 既のところで助けられた少年はというと、僕の方をチラリと見て呟いた。


「くそっ! 何だよ。簡単に倒せないどころかやられそうになるなんて。どんな……だよ」


「雷帝様、ここは一旦退くべきです。相手は予想以上に手強い。ここは建て直すべきかと――」


 目の前の土竜族が少年に進言する。

 少年の決断は早かった。


「よしっ! 退くぞ!」


 少年の号令と共に波が引けるように撤退する土竜族。

 敵ながら中々統制が取れている。

 いや、感心している場合では無いね。


 土竜族が神輿のように少年を抱え上げ、驚きの速さで去っていく。

 それを見たウササ族は集落から恐る恐る顔を出し、そして歓声を上げた。


 そんな中、支えられながら僕らに近づいてきたのはハイネさん。

 僕は少年への追撃を諦めてその場に踏み留まる。


「ありがとうございます、ありがとうございます。これもきっと女神様の思し召し。漸く儂らにも運が向いてきた」


 そう言うと、彼は僕の手をしっかりと握りしめる。

 その握手は今までにない活力が籠っているように思えるほど力強かった。

 ――追うタイミングは逃してしまったが仕方が無い。

 怪我も無く全員無事、今回はそれで十分だ。


「やったね、カナタ!」


 続けて飛びついてきたミウを抱え上げ、僕は不足しがちなもふもふ成分を十分に補充するのだった。



 さて、これからの事だが、まだ安心してはいられない。

 彼らがこのまま諦めるとは思わない。

 きっと再び攻めてくるだろう。

 いっそその前にこちらから責めるのも有りかもしれない。

 何よりも彼の残して行った言葉が気になる。


「……カナタ」


 ミサキの問いかけに振り返ると、そこにはミサキの他に2人の土竜族が地面に伏していた。


「……成果」


 ミサキが無い胸を張る。

 僕が心配そうな眼を土竜族に向けると――、


「……大丈夫。……気絶してるだけ」


 そんな返事が返ってきた。


 ウササ族の若者の中に彼らを憎々しげに見つめる目が幾つもあることを感じた僕は、ハイネさんに彼ら捕虜の扱いを一任して貰えるように交渉する。

 ハイネさんは「自分たちだけではどうにもならなかったことだから――」と2つ返事で了承。

 こうして、捕虜の土竜族は僕らの預かりとなった。


 取りあえず、この2人から何か少年の情報を得る事が出来れば――。

 僕はそんな風に考えていた。





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