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第134話 少年

ご指摘を受け、前話で新しく登場した種族の名前をウササ族で統一しました。

以前のぽんぽこ族の時も同じミスをした覚えが……。

気をつけますm(__)m

 ミサキへの誤解も解け、思っていたよりもすんなりと僕たちは集落の中に通される。

 自分で言うのも何だが、誤解が解けたとはいえ、突然現れた怪しい人物であることには変わり無い僕たちを簡単に通したということは、余程切羽詰っていて藁にも縋りたい問題が起こっているということなのだろう。

 それも「良かったら力になる」という僕の言葉を簡単に信じてしまうほどに……。

 それほどまでに彼らを悩ませる問題をはたして僕たちで解決できるのだろうか? という不安が多少頭をよぎるが、事態はもう動きだしてしまっている。

 僕はその不安を頭の中から振り払い、黙ってウササ族の後についていくのだった。



 通されたのは集落の中央にある住居。

 中に入ると、そこは何の仕切りも無い広い板の間になっており、見た感じ他に部屋は無さそうだ。

 どうやら住居では無く集会場のようなものなのだろう。

 そこに藁で編んだ円形の敷物のようなものが用意され、僕たちはその上に座るよう促された。


 そして待つこと数分、僕らの前に長く白い顎鬚に特徴があるウササ族の老人が供を連れて現れた。

 足腰がかなり弱っているらしく、杖をつき、歩行を補助されながらゆっくりと僕たちの目の前に座る。

 彼は腰を落ち着けたところで、その顔を上げ僕らを見据えてきた。


「貴方方が援助を申し出てくれた方ですかな。しかし何の用事かは知らんがこんな森の奥まで……」


 老人の疑うような目。

 だが、それも一瞬のことであった。


「ふむ。儂らを力ずくで如何こう出来る者が今さら搦め手を使ってくることなどは――」


 そんな言葉を独り言のように呟き、改めて僕らの方に向き直る。


「――失礼した。この年になると疑い深くなっていかん。儂はこの集落を束ねるハイネと申す。束ねるといっても御覧の通り満足に歩くことも出来ない只の年寄だがの。何でも今回は有名パーティーである皆様にお力添えして頂けるそうで、一族を代表して感謝致します」


 目の前の老人が曲がった腰を更に曲げて頭を下げる。

 『有名パーティー』というのは、ミサキが使った方便。

 ミサキ曰く、「……その方が話が早い」とのこと。

 確かに、見るからに若い僕らのようなパーティーでは、相手が信用してくれないこともありうる。

 ただ、言葉だけではあれなので、ミサキがデモンストレーション的に魔法をウササ族に見せていた。

 気になるところはあるが、ここは女神様の依頼を受ける為、良い嘘と割り切って目を瞑ることにした。

 それに、一応王都では一部に有名らしいからね。


「いえ、これも何かのご縁でしょう。出来る限りのことはさせて頂きます。それで――、この集落では何が起こっているのですか?」

 

 僕の言葉に、ハイネさんはぽつりぽつりと集落の現状を話し始めた。




 ※




 それは半年前。

 以前の住処を逃げるように移住してきたウササ族の集落が漸く落ち着きを取り戻した頃。

 とある一人の男が集落に現れた。

 黒いフードに黒いマント、辛うじて覗くその口からはおおよそ人間族であることが推測できる。

 黒マントの男は集落の入り口の前に立ち、ただじっとその様子を遠目に眺めていた。


 それを初めに発見したのは一人のウササ族の若者。

 その様子を訝しく思った彼はその男に近寄り声をかけた。


「あんた、この集落に何か用かい?」


 しかし、男は答えない。


「なあ、あんた。聞こえてるのかい」


 彼が男の肩に手を掛けようとしたその時、


「うるさいなぁ!」


 少年のような少し高めの声、だがそれは不思議と彼の脳裏に焼き付くように響いた。

 そして次の瞬間、ウササ族の若者の身体がふわりと宙に浮く。


「うわっ! うわわわっ!」


 そのまま後方に吹き飛ばされ、集落の建物の壁へと激突。

 その騒ぎを聞きつけ、他のウササ族が入り口に集まり始める。


 少年? はそれを興味なさげに眺め、何かを呼び込むように手を真上に挙げる。

 すると、人型の影が十数人、土の中から這い出るように姿を現した。

 黒い体毛に鋭い爪をもった種族、土竜族である。

 彼らは少年に恭順を示し、武器を持ち後方に控え命令を待つ。

 その時、フードから覗いていた少年の表情に初めて感情が現れる。

 口元に浮かぶ嫌らしい笑み、それは長年ウササ族を虐げてきた者たちと同じそれであった。


「食べ物が欲しいな。出来るだけ多く。明日取りに来るよ」


 それだけを告げると、土竜族を引き連れた少年は返事を聞くことなく去って行った。





 ※





「搾取の頻度は回を追うごとに増えていったが、食料だけならまだ良かった。先日、ついに少年は集落の女子供まで要求してきおった。――――しかし、戦う術の無い我々にはどうすることも……」


 ハイネさんの話は、聞いているだけで腹の立つ話であった。

 

「その彼は人間族なのですか?」


 少年のくわしい情報と特徴を聞くべく、僕はハイネさんに問いかける。


「はい、間違いありません。あの少年は自らを雷帝と名乗っています。その雷の魔法で何人かの若者が命を落としました」


 脇に控えていた男が、感極まって項垂れるハイネさんに代わって答えた。


「わかりました、何とかします。こう見えて荒事は得意なんですよ」


 彼らを安心させるため、僕は大風呂敷を広げる。

 相手がどんな奴だろうが、こんな横暴は許せない。

 恐らく皆も同じ気持ちだろう。


「おお……、ありがとうございます!」


 ハイネさんはよろよろと前に進み出て、しわくちゃな手で僕の手を握る。

 僕はそれをしっかりと握り返した。

 




 そしてその後、僕たちは急ぎ集落を出る。

 向かう先は雷帝の居城、ではなくその道のりを進んでいるウササ族の若者たちである。

 ハイネさんが言うには、既にウササ族の若者が挙って攻め入ってしまったとのこと。

 只でさえ戦い慣れていないウササ族、急がなければ危ない。


 身体能力を魔法で強化し、全力で森の中を走る。

 すると、微かな金属音が遠くの方で聞こえた。


「カナタ!」


 どうやらミウにも聞こえた様だ。

 僕たちはその方向へと駆け出した。






「どうした、ウササ族の皆さんよ〜。そんな力で雷帝様に逆らおうなんざ、十年、いや、百年早いってもんよ」


「くっ!」


 近づくにつれ、その声がはっきりと聞こえる。

 やはりウササ族が戦闘をしているようだ。

 その相手の顔も見えてきた。

 黒っぽい毛むくじゃらの顔に出っ張った鼻、モグラのような容姿の彼らが土竜族なのだろう。


「えいっ! なの」


 走りざまにアリアが弓を放つ。

 矢が土竜族の振りかざした腕に見事に命中する。


「ぐあっ!」


「だ、誰だ!」


 そんな質問に答える義理は無い。

 僕とポンポが戦場に飛び込むように乱入する。


「ポンポ! 守り優先で!」


「わかったです〜」


 ポンポをウササ族の前に立たせ、土竜族の攻撃から守らせる。

 ミウとミサキも脅し程度の魔法で相手を牽制した。


「く、くそっ! 覚えてろよ!」


 程無くして、お決まりの捨て台詞を残し土竜族は土に潜って逃げていく。

 深追いする気は無いので、今回はそれを黙って見送ることにした。


「あ、あんたは……」


「そんな事より、先ずは手当てが先だね」


 僕とミウが手分けして彼らを魔法で治療する。

 どうやら全員無事だったようだが、これで相手を刺激したのも事実。

 さて、どう出てくるか。




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