第132話 開校
お待たせ致しました。
現在、職場の変更により、執筆の時間が中々取れませんm(__)m
でも、書くことはやめませんけどね^^
広い大通りを親子連れが歩いていた。
はたまた子供たち同士で固まって楽しそうにこちらに向かってきている。
目指す方向は誰もが同じ、時計台が頭一つ突き出て見える真っ白い建物であった。
そして、彼らを新しく建てられた建物の上から見下ろす僕とミウ。
気分が落ち着かず、動悸が激しくなってくる。
「ううっ、何か緊張してきた」
「カナタなら大丈夫だって!」
ミウの根拠の無いセリフも、今の僕にとっては多少の励ましにはなっていたが、それでも尚ここから逃げ出したい気分だ。
一体どうしてこうなった?
「カナタさん。開校日が決まりましたので、それに合わせて挨拶をお願いします」
突然キマウさんにそんなセリフを言われた時の僕の目は、きっと点になっていたと思う。
その反応に、キマウさんは困り顔をしながら言葉を続ける。
「カナタさんは理事長ですから。やはり挨拶はして頂かないと――」
理事長!?
ん!? あれ? でもこれってミサキ提案の案件だよね。
だったらそこはミサキで良いんじゃないの?
僕はそんな意味合いを視線に込めて、後ろで我関せずの態度を貫くミサキを見る。
そしてお互いの視線がぶつかり――、
「……頑張って」
見事に丸投げされた。
「カナタ。ミサキに演説なんて出来ると思う?」
ミウに言われて、僕の頭にもしもの光景を思い浮かべる。
大きな体育館のような建物。
中では子供たち、更には父兄が所狭しと座っており、ガルド王国初である無償学校の創設者である理事長の登場を待っている。
そして、想像の中のミサキはいつもの服装で脇にある階段から壇上に上がり、彼らを正面を見据えて一言、
「……頑張って」
先程僕に投げかけられた言葉が再び繰り返される。
…………うん、確かに無理そうだ。
僕は仕方なくではあるが、その大役を引き受けるのであった。
そして本番。
壇上に上がると、皆の目が一斉に僕に集まる。
僕は緊張を何とか気合で押し込め口を開いた。
「皆さん。ようこそ、イデア学院へ! この学院は――――」
その後、何を言ったかは良く覚えていない。
でも、ミサキとミウは、
「……上出来」
「良かったんじゃない」
と言っていたので、大丈夫だと信じよう。
こうして目出度く開校されたイデア学園。
その中身はというと、初等部、中等部に分かれている。
初等部は言うなれば小学校のようなもので、読み、書き、計算など社会に必要な基礎的知識を身に着ける場だ。
ただ、基礎的知識とは言っても、この世界ではそれを知らない人が結構いる。
既存の学校が人を選ぶのだからそれは当然なのだが、身分の低い才能を持った子を多数埋もれさせているというのは事実。
イデア学園ではそういった子たちの才能の芽を芽吹かせてあげることも一つの目的としている。
ただの慈善事業ではなく、一応将来を見据えた実利も伴っているのだ。
そして中等部、これは元の世界でいう中学生の年齢。
しかし、この世界では十五歳といえば立派な成人である。
その為、中等部ではより実践的というか生徒たちの希望に沿ったカリキュラムを用意している。
とは言っても、開校したばかりなので今のところは大まかに分けて商業、役人、冒険者の3分野しかないのだが……。
ただし、それらはコースに分かれているのでは無く、授業自体がコマ制なので並列して学習することが可能。
それは、その中で自分に最終的に合っているものを選んでくれればという思いからだ。
冒険者の授業についてはギルドに協力を得ている。
既に引退した冒険者をギルドから何人か紹介して貰った。
役人講師についてはキマウさんに人選を任せ、商業に関してはアルフレッドさんとマリアンさんの実家の伝手を頼っている。
もちろん、ただ紹介された人をそのまま講師にはしていない。
キマウさんが面接を実施、お眼鏡にかなった人を雇うことにしている。
その面接で主に重要視したのは、人となりと差別感情が無いかということ。
能力については紹介ということもあり面接するまでも無いが、人格についてはそうはいかない。
念には念を入れてということである。
そして寮について。
イデア学園は全寮制であり、身分に関係なく全て同じ作りの部屋があてがわれている。
しかし、シンプルながらもイデアの技術を駆使した作りなので、恐らくそれほど文句は出ないであろう。
共同生活、そしてそこでのコミュニケーションを通して、是非成長して欲しいものである。
学園の開校行事が終わり、僕たちはそのままイデアへと飛んだ。
休む暇が無いとはこういう事だと思う。
「お帰りなさいなの」
イデアに着くと、先に来ていたアリアが出迎えてくれた。
タロジロもミウに飛びついて甘えている。
「だだいま、アリア。どう?」
「順調なの」
目の前の畑ではイデアロードに多数出張っているオークや魚人に代わり、主にぽんぽこ族が総出で収穫をしていた。
殆どの畑で丁度収穫の時期が被ってしまい、現在畑仕事に大忙しというわけだ。
収穫時期位は計算できないのか? と思うかもしれないが、そこはイデアである為、特別な事情が絡んでくる。
「凄いでしょ! 私たちのお蔭よ!」
「カナタ、褒めて褒めて!」
妖精たちが先程から僕の周りを飛び回ってしきりにアピールしてくる。
彼女たちの特殊能力の一つは植物の成長促進、そして――。
「何を馬鹿なこと言ってるのよ! これはアタシの力よ!」
妖精たちに文句を言っているのはアウラウネのピューネ。
彼女の能力も植物の成長促進。
そしてその二つの力が合わさった結果、現在の状態が出来上がるという訳だ。
「収穫だ〜♪ 収穫だ〜♪」
「楽しい〜♪ 楽しい〜♪ 収穫だ〜♪」
ぽんぽこ族の面々は歌いながら収穫をしている。
ふりふりと尻尾を振りながら作業する様は、コミカルで中々に楽しそうだ。
ポンポも混ざりたくてうずうずしているのが彼の尻尾の様子でわかる。
だが、それよりも先にその中に混じって踊っている御方が1人?
「収穫でちゅ〜♪ 収穫でちゅ〜♪」
ぽんぽこと一緒になって小躍りしている女神様。
毎度のパターンながら、僕は頭を抱えた。
何故なら、収穫した瞬間にその場所が芽吹きだすというありえない光景が目に映ったからだ。
当然僕はその場から駆け出し、急ぎ止めに入る。
「何でちゅか? 折角気持ちよく踊っていたでちゅのに……」
女神様が可愛らしく頬を膨らませる。
「いや、兎に角こっちへ……」
僕は女神様の手を引き、皆の待つ元の場所へと戻るのだった。
「わかったでちゅ。少し自重するでちゅ……」
そうは言っているものの、女神様は少々不満顔だ。
『少し』の部分が引っかかるが、今は気にしない事にした。
「……それで、女神様は様子を見に?」
ミサキが女神様に問いかける。
すると、女神さまはわが意を得たりとばかりに、
「ミサキちゃん! 良い所に気が付いたでちゅ! あまりに楽しくて忘れていたでちゅよ! 実はまた依頼があるでちゅ」
僕たちに向かって言葉通りの女神スマイルを向けるのであった。




