第131話 何かありました?
お待たせしましたm(__)m
着実に進んでいくイデアロード無償学校計画。
昨日から始まった孤児たちの見学会の傍ら、イデアロードの住民に対する説明会が行われていた。
説明役として出席していたのはイデアロードの代官であるキマウさん。
僕は現在、その結果報告を聞いているところである。
「概ね上手くいっています。既に大半の人達が募集したいと言っていましたね」
事前調査によると、無償での学校教育といったものは例を見ないとのこと。
王都にもいくつか学園はあるが、高い地位か一定の資金が無いと入れないものが殆ど。
それもあって、住民たちには大変好評のようだ。
「そうですか、あと5日程で建物も完成しますし、機材なども買い揃えないといけませんね」
「その点はご安心を。既に必要なものは注文してあります」
流石キマウさん、仕事が早い。
「それじゃあ、僕とミウはまた工事に行ってきます」
「はい、行ってらっしゃいませ」
僕は執務室から出てミウと合流し、足早に建設現場まで向かう。
本日は終日で建設に付きっ切りの予定。
孤児たちの案内についてはミサキたちに任せてある。
多少は心を開いてくれてきたようだし、特に心配することは無いだろうと思う。
それに僕が居たってそれがどうにかなる訳でもないしね。
「さて、じゃあ行くか」
「はぁ〜。ポンポがもう少し魔力があればなぁ〜」
僕の頭の上でため息を漏らすミウ。
「しかたがないさ。ぽんぽこ族で魔法を使えるってだけで大したものだよ」
「それはわかってるんだけどね」
ポンポの地属性魔法は今のところ防御の土盾を出せるのみ。
壁役としてはそれだけでも重宝しているのでこちらとしても贅沢は言えない。
ただ、向上心旺盛なポンポ自身はそれだけで満足する筈も無く、日々魔力を使っての特訓を行っているのを知っている。
僕としてはあまり無理をし過ぎないで欲しいところだ。
以前、魔力切れで庭に倒れこんでいるポンポを見て、えらく慌てたのは記憶に新しい。
「結局、ミウとカナタでやるしかないんだね」
「そういうこと。帰りにお菓子でも買って食べてこうよ」
「やったあ!」
ミウの機嫌が良くなったところで、丁度現場が見えてきた。
さて、気合を入れて作業するとしますか。
時間は既に正午を過ぎ、スラ坊特製弁当を食べ終えた僕とミウは、食後の気分転換とばかりに一旦現場から離れる。
そして辿り着いたのは冒険者ギルド。
中に入った僕は早速と掲示板へと向かう。
一応領主として、依頼などが滞りなく流れているかを確認しておく義務があるからだ。
「問題なさそうだね」
「うん、冒険者も増えたしね」
用事は終わったとばかりに踵を返し出口へ向かう。
そんな僕をいつもの聞きなれた声が呼び止めた。
「挨拶も無しに帰ろうなんて、随分冷たいんじゃないかしら?」
僕は苦笑いしながら答えた。
「いやぁ。中々仕事が立て込んでいまして……」
僕をジト目で睨んでくるマリアンさん。
昼過ぎという時間帯もあってか、カウンター前に冒険者の姿は無い。
「それは聞いているけどね。でも付き合いって大事だと思うわよ」
はい、至極もっともだと思います。
反省の意が伝わってくれたのか、マリアンさんは一つため息をつき、
「まあいいわ。うちの店に大量注文してくれたみたいだから許してあげる。父親もホクホク顔だったしね」
恐らくはキマウさんが手配した学校備品の事を言っているのだろう。
「マリアンさんの店が一番品揃えが良いって言ってました。手配も早いし」
「もちろんよ!良いものをより安く! これからもマリー商店をよろしくね♪」
謙遜するのかと思いきや、更に宣伝を乗っけるところがマリアンさんらしい。
そんな時、カウンターの奥から出て来た人物が、からかう様な笑顔で会話に割り込んできた。
「何だ、マリアン。ギルドを辞めるのか? これで漸く五月蠅いのが居なくなるな」
その言葉にマリアンさんの頬が膨れる。
「何言ってるのよ、マスター。美人で仕事の出来る私が辞めたらギルドが困るでしょ?」
「ふん、そうしたらもっと大人しくて若々しい看板娘でも雇うだけだ。幸いこの街は人材が集まってきているからな」
「何ですって! 私が若くないとでも言いたい訳!」
「何を今さら。そこに引っかかって怒っている自分が一番理解しているだろう」
お約束の口論がギルド内に響く。
もちろんギルドマスターも本気で言っている訳では無い。
「もう、頭来た! さっさと結婚してギルドなんて辞めてやるわ」
「ふん、出来るならな」
まだ暫く続くかと思われるそのやり取りに対し僕とミウは――、
「帰ろうか、カナタ」
「うん、そうだね」
ギルドの出口に向かう僕とミウ。
その時、扉の向こうで男の叫ぶ声がした。
「大通りで子供相手に男が暴れてるぞ!」
それを聞き、僕の気持ちが一瞬で引き締まる。
「ミウ!」
「うん、行こう!」
僕はギルドを飛び出て、声のする方向へ急ぎ向かうのであった。
しかし――。
「遅かったみたいだね」
ミウが僕の頭の上で呟いた。
だが、その言葉の中には悲痛な感情は含まれていない。
周りの人たちの話から推測するに、どうやら既に良い方向に解決したようだ。
ただ、気になる点が一つ。
それは地面についていた黒い焦げ跡。
広範囲に広がるそれは、何かを囲むような形にくっきりと残っている。
「カナタ、これって……」
同じものを見ていたのだろう。
ミウが僕に言葉を投げかける。
「――ミウ、事件は無事解決したんだ。幸い死人は居なかったらしいから……」
僕たちはそれ以上の会話を止め、再び建設現場に向かうのであった。
そして、商店街に明かりが灯り始め、冒険者の賑わいが酒場から聞こえ始めた頃、僕とミウはひと仕事を終えて買い食いしながら岐路へと就く。
時間も時間だけにお菓子の約束が酒の肴関係に変わってはいたが、それには二人とも不満は無かった。
屋敷に帰ると居間には皆がいつも通り集まっていて、僕たちを出迎えてくれた。
だが、よく見ると傍らに座っているニトの様子がどこかおかしい。
「何かあった?」
僕はミサキに聞いてみる。
「……さあ?」
ミサキが何気に目線を逸らす。
怪しさ全開の態度だが、その疑念を吹き飛ばす喜ばしい出来事があった為、特に追求することは無かった。
それは――。
「皆が移住を承諾してくれたです〜」
何と、彼らが今日の視察終わりにイデアロードへの移住を承諾してくれたらしい。
念のため、本人たちに改めて確認する。
「決定で良いのかい?」
「はい、どうかよろしくお願いします」
その問いに丁寧に頭を下げるティア。
「よし、じゃあ早速他の子たちを迎えに行こう」
これで明日の予定は決まった。
僕はそれを伝えにキマウさんの元に向かうのであった。




