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第130話 見学会

 街が夕日で真っ赤に染めあがる頃、ユニ助の引く馬車がイデアロードへと入場する。

 馬車の中には僕らの他に3人の子供が乗っていた。

 孤児グループのリーダー格の少年であるニト、青い髪のポニーテールの少女のティア、そして小柄な少女メリンダである。


「ふぇ〜。何だかすごいね」


 高くそびえ立つ街の壁、そして門を潜ると広がるイデアロードの大通り。

 それらを馬車の窓から乗り出すように眺めていたメリンダがティアに同意を求めるように袖を掴み、話しかけている。


「そうね。大きい街ね」


 メリンダの頭を撫でながら相槌を打つティア。

 昨日の細かいやり取りなどでわかったことだが、彼女は孤児グループの中で母親的な位置づけのようだ。

 そしてニトはというと、ただ黙って街の景観を眺めている。


 暫くして馬車は領主の屋敷、つまり僕たちの拠点に到着した。

 門番をしてくれている警備兵に労いの言葉をかけつつそのまま入場。

 玄関の前に馬車を横付けし、僕たちは馬車を降りた。


「さあ、遠慮しないで入ってくれ」


 子供たちに声をかけ、屋敷の中に入る。

 メリンダはキョロキョロと興味深げに屋敷の中を見回しているが、ニトとティアは少し緊張気味のようだ。

 そうした3人の様子を気に掛けながら、僕は二階への階段を上り、執務室の扉の前に辿り着く。


「キマウさん。今大丈夫ですか?」


「はい、問題ありません」


 扉をノックすると、中からキマウさんの返事が聞こえた。

 僕が扉を開けると、キマウさんは筆を置いて立ち上がる。





「――ほう、なるほど。では、3日程度の滞在ということですね」


「……ええ、お願い」


 屋敷全般の管理も請け負うキマウさんに、彼らが暫く屋敷に留まる旨とその理由を話しておく。

 何かと細かく気が付く彼に任せておけば安心だ。


「わかりました。部屋は3階が良いでしょう。あそこからは街の景色が一望出来ますからね」


 泊まる部屋があらかた決まったところで、子供たちをそこへと案内する。

 部屋割りはニトが1部屋、ティアとメリンダが1部屋。

 一応1人1部屋ずつ用意できたのだが、メリンダが1人で泊まるのを渋ったためにこの部屋割りとなった。


「食事の前にお風呂に入るの」


 アリアが少女2人を引き連れてお風呂へと向かう。

 僕がニトに目線を送ると、「場所だけ教えてくれれば一人で入れる」と渋い顔をされた。

 ――難しい年頃だ。



 そして夕食。

 サッパリとした雰囲気の少女2人と再び対面する。

 くすんでいたティアの青髪、そしてメリンダの赤髪が鮮やかな色を取り戻しており、ほのかに石鹸の香りが漂っていた。

 服に関しても、着ているのは可愛らしい青とピンクのワンピース。

 どうやらキマウさんが早速と用意してくれたらしい。

 ニトは仲間の見慣れない格好に、口を半開きにしながら見惚れているようだ。


「可愛くなったです〜」


「女の子は清潔感が大事なの」


 そう主張するのはアリア。

 少女2人もポンポの褒め言葉に満更でもなさそうだ。

 ニトの鋭い視線がポンポに向けられる。 

 

「皆さん、お待たせしました」


 そんな雰囲気の中、気を使って人型で現れたスラ坊によってテーブルに料理が並べられていく。

 普段の形態に見慣れている僕にとって人型のスラ坊は何となく違和感があるが、子供たちを驚かすわけにもいかないので、これは仕方の無いことだろう。


「「「「いただきます!」」」」


 僕は湯気が出ている熱々のスープから口に運ぶ。

 うん、美味い! さすがスラ坊だ。


 子供たちはというと、料理を一口、更に確かめるようにまた一口、そして目を見開いて勢いよく口に掻き込み始めた。

 その様子から見て、感想は聞くまでも無いようだ。




 そして瞬く間に至福の時間が終わり、部屋にまったりとした空気が流れる。


「眠くなってきちゃった……」


 メリンダが眼を擦りながらティアに呟きかける。

 その目は虚ろで、今にもまぶたが落ちそうだ。

 そろそろ良い時間でもあったので、明日に備えて早めに子供たちを就寝させることにした。


 

 

 そして翌日、天気は快晴、まさに見学日和。

 窓から入るポカポカした日差しを浴びながら、いつもの面子は食堂にて朝食を待っている。

 そこへやってきたのはティアとメリンダだ。


「「おはようございます」」


 元気よく挨拶する少女2人。


「おはよう、良く眠れたかい?」


「ぐっすり眠れたの! お布団も柔らかくて、あんなの初めて!」


 メリンダが興奮気味に発言する。


「はい、あんな良い部屋をありがとうございます」


 僕に向かって丁寧にお辞儀をするティア。

 そのあまりにも自然な所作から、もしかしたら元は良い育ちのお嬢さんだったのかもしれないと感じた。


 そして朝食がテーブルに並べられる。

 しかし、そこにまだニトの姿は無い。


「ちょっと見に行ってくるか」


「私も行きます」


 余りに遅いので僕が部屋を見に行こうと立ち上がると、ティアも同様に席を立つ。

 ニトと二人きりで気まずい雰囲気になっても困るので、僕は遠慮なくお願いすることにした。


 そして辿り着いたニトの部屋。

 耳を澄ますと、部屋の中からいびきのようなものが聞こえてくる。


「ニト! 起きなさい!」


 ドアを強めに叩くティア。

 しかし、返事は無い。

 仕方なく、僕は持ってきたスペアキーにて扉を開ける。


 ベッドの上ではニトがだらしなく腹を出しながら高いびきをかいていた。

 ティアはツカツカと彼に近寄り、手に持った内履きで――、


「いてっ! な、何だ!」


「何だじゃないわよ! いい加減起きなさい!」


 ティアは飛び起きたニトを鬼の形相で睨む。

 暫くして、ニトは自分の置かれている状況に気付いたようで、


「でも、そんなので叩かなくても良いじゃないか……」


「恥をかかせるからでしょう。良いから早く支度しなさい!」


 そう言い残すと、さっさと部屋の外から出ていくティア。

 なるほど、既に尻に敷かれている訳か。


「な、何だよ!」


「いや、別に……」


 不満そうな顔をしているニトを残し、僕も部屋を出るのであった。



 朝食後はいよいよ見学会。

 案内役は僕とミウ、それとアリアの3人だ。

 アリアは女の子たちと良好な関係を築いているようなので、いざとなったら頼りにさせて貰おう。

 

 初めに見てもらうのは学園と学園寮となる建物の予定だ。

 まだ完成はしていないが、大体の雰囲気は感じて貰えると思うのだが――。


 大通りを進むと、大きな垂れ幕の下がった建造物が見えてきた。

 そう、あれが学園寮一号館として絶賛建設中の建物である。

 垂れ幕の中では昨日までスラ坊の分体2体が絶賛活躍中だったが、本日は見学が入る事もあって休工中だ。


「さて、中に入ってみよう」


 スラ坊隠しの垂れ幕を潜り、僕たちは建物の全貌を見上げる。

 3階建ての建物の骨組みは大体出来ていた。

 あとは僕とミウの地魔法で仕上げ・強化をすればほぼ完成である。


「あと数日もすれば完成する予定だよ。部屋は今朝泊まった部屋と同等のものと考えて欲しい」


 僕の説明にも、女の子たちは建物を黙って見上げている。

 ニトも今朝の事が効いてか、今日はやけに大人しい。

 う~ん、反応が無いと些か不安になるのだが……。


 続けて隣の敷地にある学園となる建物も見学。

 これも先程と同じような完成度なので、現在の景観を見てもらうのみとなる。


「カナタ。未完成の物ばかり見せてもしょうがないよ! 街の雰囲気も見せなきゃ」


 頭の上からミウの指摘が入る。

 うん、それもそうだよね。


 僕はミウの助言通りに、残りの時間は街の大通りを練り歩くことにした。

 途中、屋台で串焼きなどで目ぼしいものを買い食いしていく。

 それに対するメリンダの反応は特に顕著で、面々の笑みを浮かべていた。


「そうそう、学園では多少のお小遣いも出る予定だから、ちょっとした買い食いは出来る筈だよ」


 その言葉にメリンダは串焼きを頬張りながら目を見開く。

 どうやら小さい子供には建物を見せるよりこちらの方が有効のようだ。


 そして、ゆっくりと商店街を見て回り、昼過ぎ頃に本日の見学会は終了となった。

 しかし、屋敷に子供たちを届けた後、僕とミウは再び街へと出かける。


「カナタ〜。疲れるね」


「それは言いっこなしだよ、ミウ」


 垂れ幕の中で懸命に魔法を行使する僕とミウ。

 土台や土壁を作り、更にそれに強化を重ねていく。

 ――どうやら今日は遅くまでの作業となりそうだ。


ご意見・ご感想お待ちしております。

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