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第126話 そして―

「マタ来タノ? ワザワザ餌ニナリニ来ルナンテ、人間ハ物好キダネ」


 再び戻った僕たちの前に立ち塞がる黒いドライアド。

 僕が黙っていると、ドライアドはさらに続ける。


「ケケッ。狙イハワカッテルヨ。ボクノ本体ダヨネ。――寄ッテ(たか)ッテ虐メラレテモ困ルカラ、ボクモモウ一人仲間ヲ呼ンジャオウカナ」


 ドライアドが僕を見て口角を吊り上げる。

 そして現れた黒い影。

 あれは――。


「……ミウ」


 純白のドレスのように白いもふもふは見る影も無くどす黒く染まっているが、間違えようがない。

 黒いミウは赤く光る瞳で僕らを睨んできた。


「感動ノゴ対面ダネ。ドウ? 嬉シイ?」


 にやにやと笑いながら聞いてくるドライアド。

 コイツはどれだけ僕の感情を逆撫でれば気が済むのだろう。


「……カナタ?」


 ミサキの言葉を僕は手で制する。


「大丈夫だよ、ミサキ。二度もヘマはやらない」


「……信じる」


 ミサキが頷いたのを見て、僕はポンポに声を掛けた。


「ポンポ、少しの間ミウを抑えてくれないか?」


「わかったです〜」


 予定外である黒ミウの出現により僕は作戦を変更、ポンポにミウを抑えて貰うことにする。

 アイテムの力もあるので、暫くは持ちこたえてくれるだろう。


「相談ハ済ンダ? ソロソロ待チクタビレテ来タンダケド……」


「ああ、待たせたな。お詫びにすぐに終わらせてやるよ」


 自ら発したセリフが終わらぬうちに僕はドライアドに斬りかかる。

 だが、相手の舞うような軽快な動きにより、右腕を掠めたのみで終わってしまった。


「遅イッテ言ッテルノニ。懲リナイネ」


 何でも無かったかのように傷つけた右腕が修復しているのが見える。

 だが、余裕をかましてられるのも今の内だ。


 後方では別の戦闘も始まっていた。

 ミサキ、アリアが迫りくる鋭い木の根に対し攻撃、破壊を繰り返す。

 ピューネが木の根に向かって念じることにより、操るまでとはいかないがそれ自体の動きが鈍化する為、今のところ余裕をもって対応が出来ているようだ。


 しかし、問題なのはポンポ。

 ミウの嵐のような怒涛の魔法攻撃に防戦一方、土の壁と盾、更にはアイテムといった使えるものを全て駆使して何とか防いでいるが、あの状況では思ったよりも持たないかもしれない。


「人ノコトヲ気ニシテテ良イノ?」


「――あの根はお前が操っているんだろう? 条件は同じだよ」


 僕は鼻を鳴らし、ドライアドの発言を一蹴する。


「何ダ、気付イテタノ。デモドウニモ出来ナイデショ」


「それはどうかな?」


 口先でお互いに牽制を続ける。

 その間も僕は剣を振るい、ドライアドは身軽に躱している。

 

「イイノカイ? 後ロノ少年ガヤラレソウダヨ」


「アッ! 危ナイ!」


 口を開けば巧みな言動で僕の気を逸らそうとする黒いドライアド。

 ふん、その手には乗るものか。

 僕はそれらに耳を貸すこと無く、ゆっくりと魔力を剣に流す。

 聖魔法により白く輝く黒曜剣。

 ――そろそろ終わらせる!


「……喰ラエ!」


 しかし、僕の攻撃より先に、突如周りを円で囲むように黒い壁が出現した。


「…………」


「キミニモ同ジ目ニ合ワセテアゲルヨ」


 壁の向こうからそんな声が聞こえた。

 目の前で展開している攻撃。

 思い出したくも無いが僕の記憶には残っている。

 ――二度目が通用すると思うな!


「ホーリーフィールド!」


 自分を中心に浄化の空間を構築し、迫りくる壁の進行を阻む。

 それにより、包み込むように展開していた黒い壁の進行が止まった。

 思った通り聖属性が弱点のようだ。

 僕はさらに魔力を上乗せし、黒い壁を少しづつ消滅させていく。


「クッ! 馬鹿ナ! 押サレテイル! 何ダ、コノエネルギーノ量ハ!」


 辺りに響くドライアドの発言を無視して、僕はだだひたすら集中する。

 そして、周りを取り囲んでいた壁は消え、白い光がこの空間全体に広がりを見せた。


「グ、ガガガガ……」


 その輝きに巻き込まれて苦しみだすドライアド。

 この隙を見逃す手は無い。


 僕は詠唱を止める事無くゆっくりとそれに近づく。

 そして、その正面で白い軌跡を舞い降ろした。

 その軌跡は上段から止まることなく円を描き、ドライアドの頭から付け根へと通り抜けた。


「ソ……、ソンナ、馬鹿ナ……」


 驚愕に顔を歪めつつ、ドライアドは白煙を上げながら消滅する。

 だが、まだ終わりでは無い。

 コピーされたドライアドの能力。

 本体を倒さなければ何度でも復活する筈だ。


「……任せて」


 ミサキが僕に向かって合図を送ってきた。

 敵の攻撃が勢いを無くしたことにより、ミサキとアリアのドライアド本体への攻撃が本格的に開始される。

 ミサキの炎の魔法、アリアの雷の矢が嵐のように目標に降り注ぐ。


「GUAAAAAAAAA!!!!!!」


 炎に包まれ、雷にその身を焦がすドライアド。

 そして、地の底が震えるような断末魔が僕の鼓膜を震わせたのだった。



 ドライアドは沈黙した。

 これで後は――。


「た、大変です〜!!」


 後方からポンポの叫びが耳に届く。

 ただ事では無さそうなその叫びに、僕は慌てて振り向いた。


 そこで僕が見たもの、それは霞のように擦れて消えていく寸前の黒いミウ。


「えっ! 何で……」


 それは先ほどのドライアドの消滅と同じ現象。

 そして――、

 ミウの姿はその場から溶けるように消えてしまった――。

 





「…………タ、カ……タ」


「……かり……です……」



 耳元で何かの音がする。

 ――――良くわからない。



 頬に何やら痛みを感じた。

 ――――どうでもいい。



 視界が暗い。

 ――――何も思い出したくない。




 僕の身体を凄まじい衝撃が襲う。

 ――――――。

 僕は目を開く。


「……しっかりして」


 目の前にはミサキ。


「…………」


「……最後まで責任を持ちなさい」


 とある方角を指さすミサキ。

 ドライアドの本体がいた場所。

 そこにはどす黒い沼のような液体が止め処無く湧き出ていた。


「……たぶんあれが原因。……放っておけば犠牲者は増える」


 ――犠牲者。

 僕の頭の中でその言葉が反芻される。

 ………………。


 僕は立ち上がる。

 足取りは重い。

 でも、やらなくてはいけない。

 僕は懸命に口から詠唱を紡ぎ出した。


 淡い光が禍々しいそれを包み込む。

 黒が白に浸食されるかのように、次第に禍々しい気配が縮小していく。

 ――そして、全てが終わったことを確信、僕は力なく尻餅をついた。


「あっ!」


「見るです〜!」


 アリアとポンポが突然叫び出す。

 そして前方、今まで黒い何かがあった場所へと走って行く。

 そこには――。

 僕は立ち上がり、二人を追うようにその場を駆けだした。


「ミウ!!」


 二人を追い抜いた僕は、その場にいた純白のもふもふを抱え上げる。

 だが、語りかけるも返事は無い。


「回復魔法を急いでかけた方が良いの」


 そうか、そんな事も気付かないとは。

 僕は残っていた魔力を振り絞るかのように全力で回復魔法を詠唱した。


 すると、腕の中でぴくっ! と動きを見せた。

 深い眠りから覚めるかのように、もそもそと動き出すミウ。

 そして、顔を上げたところで僕と目が合った。


「ミウ!」


 僕は腕の中にいるミウを抱きしめた。


「カナタ! 苦しいよ!」

 

 小さい手で僕の腕を叩き抗議するミウ。

 うん、無事で良かった!


「ミウちゃん、おかえりなの」


「おかえりです〜」


「中々しぶといわね。褒めてあげるわ」


 皆、ミウの生還に嬉しそうだ。

 ミサキも傍らで微笑んでいる。


 ミウは僕の腕から脱出し、笑顔でそれに答えた。


「うん、ただいま! 皆がきっと助けてくれると思ってたよ!」


 それは僕らを信じきった眩しい笑顔。

 僕は今度は苦しくない程度に加減しつつ、優しくミウを抱え上げた。



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