第124話 操る力
「アタシにもどうなっているかわかんないけど、この気配、自分の身体だから間違えようがないわ」
何時に無く真剣な顔のピューネ。
詳しく聞いてみることにする。
「他のアウラウネって可能性は無いのかい?」
「まさか、それこそありえないわ。アタシがどれだけの間、他の仲間に会っていないと思っているの。しかもこんな近所に居たんなら嫌でもわかるわよ」
なるほど、もっともだ。
そうすると――。
「……ピューネの抜け殻が操られてる?」
ミサキが僕の思考を代弁するかの如く呟く。
確かに、先程から襲って来ている魔物がそうであるように、アウラウネも同じようになっている可能性は否めない。
「何それ、アタシの身体がいいように使われているってわけ! 気持ち悪いにも程があるわ! 何とかしなさい!」
ピューネが露骨に嫌な表情をして、命令口調で僕たちに解決を促す。
「いや、まだ決まった訳じゃないよ。でも念のため聞いておくけど、もしそうだとして、それを倒してもピューネには影響はないよね」
「もちろんよ! アタシはアタシという存在に全て移ったのよ。それはもうアタシじゃないわ」
それを聞いて一安心。
もしもの時は全力であたるとしよう。
その後、僕らは汚染された魔物の歓迎を逐一受けながらも、順調に奥へと進んできた。
パーティーの現状は、初めての連戦による精神的な疲れがポンポに多少見えるかなという程度。
それに関しても、小刻みな休憩と共にアリアが上手くフォローしてくれているようだ。
「カナタ、どうするの、これ?」
そして、目の前の惨状を見てミウがため息をつく。
そこにはまるで白雪姫への道のりを遮るかのような茨が所狭しと生い茂っていた。
「これは……、凄いな」
良く見るとそこだけでは無く奥の方にもそれは続いており、どこまで続いているのかここからではわからない。
「……燃やす?」
ミサキが聞いてくる。
「いや、これだけの物を燃やすとなると、こっちに被害が来るからやめた方が良い」
ここは地下の洞窟、派手に燃やして酸欠にでもなったらそれこそ大変だ。
「どうするです〜。一つひとつ斬っていくです〜?」
ポンポが首を傾げる。
「う〜ん。どうしようか」
それだとどれだけ時間が掛かるかわからない。
対策に頭を捻る。
そんな時、僕の肩をツンツンと誰かがつついた。
振り向くと、そこにいたのはピューネ。
彼女は自慢げに胸を反らして一言、
「アタシに任せなさい!」
その表情は、「漸くアタシの出番ね」とでも言っているようだった。
そうか、そう言えば植物を操るのが得意なんだっけ。
「……出来るの?」
ミサキがピューネに問いかける。
「まっかせなさい! アタシを誰だと思ってるの! 天下無敵のアウラウネのピューネ様よ!」
そのセリフを聞いて、ミウ、アリア、ポンポがパチパチと手を叩く。
そこまで自信満々に言い切るのならということで、僕はピューネに任せてみることにした。
「いい! そこでアタシの力をとくと見なさい!」
ピューネは何か呪文のようなものを唱えながら掌を茨へとかざす。
それぞれの手から淡い光の粒が溢れだしている。
「さあ、アタシの為に道を開けなさい!」
七色の光の粒が一様な広がりを見せ、茨へと吸い込まれる。
――しかし、目の前の茨は微動だにしない。
「あれ、おかしいわね。もう一回……」
先程と同じ動作を繰り返すピューネ。
しかし、茨は動かない。
ただの屍のようだ。
「ちょっと! アタシの命令よ! とっとと道を開けなさい!」
ピューネが癇癪を起こしたかのように叫ぶ。
すると、茨に何やら変化が起きた。
そう、とうとう動き出したのである。
「ほら、見なさい! これがアタシの力よ!」
自慢げに振り向いたピューネに僕は急ぎ駆け寄る。
そして人攫いの如く彼女を持ち上げた。
「ちょっ、何するのよ!」
僕に向かって文句を言うピューネだが、僕だって意味も無くこんなことはしない。
先程彼女が居た場所、その場所へと茨が槍のように密集し地面に風穴を開けた。
いつの間にか黒く変色している茨たち。
恐らく今まで出会った魔物のように汚染されているのだろう。
「えっ、何で!?」
信じられないという表情のピューネ。
茨の群れは標的が居なくなったことに気が付いたのか、まるで一本一本に意志があるかのように僕らに向かってくる。
「ポンポに任せるです〜」
ポンポが先頭に立ち、その攻撃を一手に引き受けた。
その隙に各自が詠唱を開始する。
「……ウィンドバースト」
ミサキによって放たれる空気の圧縮弾。
それが茨たちの密集する場所へと飛び込みはじけ飛ぶ。
「あ、危ないです〜」
その余波や飛び散る破片をポンポが盾を前にかざしてやり過ごす。
「ミウも負けてられないね」
一発の威力で攻撃するミサキに対し、大量の風の刃で対抗するミウ。
目の前で茨が細切れになっていく。
「矢は不向きなの」
不満げに呟くのはアリア。
ピューネを守るように氷の膜を張り防御に徹している。
「ホーリーフィールド」
止めとばかりに僕は聖魔法の上級呪文を唱えた。
汚染されている植物ならばきっと有効な筈だ。
案の定、茨たちは聖なる光を浴びて悶え苦しむかのように萎れていく。
細切れになって地面に落ちている分もそれと同様に浄化されていった。
「まあ、解決でいいのかな」
今まで目の前を塞いでいた茨の森は跡形も無く消滅。
奥に続く通路がスッキリとした状態で僕らの目の前にあった。
「ふん、どうせアタシは役に立たなかったわよ」
後ろを振り向くと、ピューネが地面の小石を壁に向かって蹴っていた。
得意分野で役に立たなかったことがよほどジョックだったらしい。
仕方が無い、フォローを入れておくか。
「いや、逆に中に入り込んでから襲われたら大変だったよ」
「そうです〜。ピューネが上手く敵を誘い込んでくれたです〜」
タイミング良くポンポが僕の言葉に乗っかって来てくれた。
「そう? ホントに?」
ピューネがこちらをちらちらと見てくる。
「ああ、ピューネのお蔭だね」
ダメ押しの一言。
それを聞いたピューネは俯いていた顔を上げ、
「そ、そうよね。アタシのお蔭よ。感謝しなさい!」
うん、どうやら立ち直ってくれたようだ。
「でも、あんなに動く植物がいるんだね」
障害物の無くなった通路を進む最中、ミウの発した一言にミサキが答える。
「……操られていた?」
――多分そうだろう。
そしてそれはピューネと同じアウラウネの能力。
敵はしっかりと彼女の能力を再現できるということだ。
「ピューネが植物を操れる距離ってどのくらいだい?」
「そうね。最長で300メートル位かしら」
僕の質問にピューネが答える。
そうか。
となるともうすぐ――。
「カナタ!」
予想通り、ミウの感知能力がそれを発見したようだ。
暫くして僕の視界もそれを捉えた。
イデアにあるピューネの本体、アウラウネ。
その緑は見るものを癒してくれるかのような雰囲気を醸し出している。
しかし、目の前のそれは形は同じでも明らかにその色、その雰囲気が違っている。
黒を黒で塗りつぶしたような色をしたアウラウネ。
それが僕たちの目の前に姿を現したのであった。
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