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第122話 初ミッション開始

 イデアの別荘へ帰ってきた僕とミウ、そしてピューネ。

 そこに待ち受けていたのは幼女、ではなく女神様。

 二日連続のイデアご光臨である。

 だからといって有難みが薄れるなんてことはない、たぶん。


 ミサキ、アリアとも合流、全員が揃ったところで、女神様が口火を切る。


「今日来たのは他でもないでちゅ。ピューネちゃんの元いた場所についてでちゅ」

 

 女神様の今日の目的はお菓子がメインではないらしい。

 かといって食べない訳ではないみたいだが――。

 女神様はミサキにハンカチを渡され、それでごしごしと口元を拭う。

 そして、おもむろに懐から地図を取り出し、テーブルの上に広げた。

 それはガルド王国全域を網羅した地図であり、さらには山などの起伏も立体映像のように浮かび上がっている3D仕様。

 どういう構造なのかわからないが、女神様なので特に気にしないことにする。


「ここを見るでちゅ」


 女神様が指差した場所。

 そこはコレットの街のはるか南にある森。

 その一部分が塗りつぶされたように異様に黒くなっている。


「思ったより侵食されているようでちゅが、ピューネちゃんがある程度吸い取ってくれたから、まだこの程度で済んでまちゅね」


 吸い取ってくれた?

 それって――、


「例の嫌な力というやつですか?」


「そうでちゅ。どうも地下洞窟から漏れ出しているようでちゅ」


 洞窟か。

 一体中に何があるのだろう。


「それをミウたちに見せたっていうことは……」


「ミウちゃん、正解でちゅ。ちょっと行って浄化してきて欲しいでちゅ」


 ご近所にお使いに行って来て的なノリで言われたが、結構危険なんじゃないだろうか。

 もちろん、やることには不満は無いけどね。


「……何故今頃?」


 ミサキが女神様に疑問をぶつける。

 確かに――、ここまで放っておいたのは何故なんだろう。


「全て隈なく監視しているわけではないでちゅからね。それにわかっていても直接手は出せないでちゅ。他の神の干渉なら別でちゅが」


 つまりは、ピューネの変化を聞いて気付いたってことか。


「その通りでちゅ。ただ、仮に先に気付いたとしてもカナタくんたちにお願いすることになったでちゅ。何と言っても『アテナの寵児』でちゅからね」


 女神様は冗談めかして僕に笑いかけてきた。

 当然僕もそのノリで返しておく。


「わかりました。これは『アテナの寵児』としての初ミッションですね、ボス」 


「うむ、成功を祈っているでちゅよ」


 いつの間にか掛けていたサングラスを指でずらす仕草をする女神様。

 ボスと言えばサングラス、それは譲れないようだ。


 こうして、僕たちはその場所へと向かうことになったのであった。



 




 どんよりと曇った次の日。

 準備を整えた僕たちは予定通りイデアロードから目的地へと向かう。

 移動手段はもちろん、


「うむ、やはり最後に頼りになるのは我ということに漸く気付いたか。些か遅くはあるが、気付いたのなら良しとしよう」


 上機嫌のユニ助が引く馬車である。

 目的の場所はコレットの南、イデアロードをそのまま西に一直線に向かった先にある。

 但し、舗装などはされていない道なき道である為、真っ直ぐとは言ってもそう簡単にはいかないだろう。


「何!? この変な生き物は?」


 開口一番、ピューネがユニ助を見て首を捻る。


「む、何だこの生意気なチビ助2号は?」


 それに対し、ユニ助も黙っている性格では無い。

 そのお互いの発言に、二人のこめかみがぴくぴくと震える。


「『チビ助』とは何よ! アタシはアウラウネのピューネっていう名前があるんだからね」


「そっちこそ、高貴な我を捕まえて、言うに事欠いて『喧しい生き物』だと! 我は由緒正しいユニコーンの末裔だ! どこぞの雑草ごときに無礼にされるいわれは無いわ!」


「な、何ですって!」


「何だ!コラ!」


 世の中には相性というものが少なからず存在していると思う。

 生憎、ピューネとユニ助のそれは最悪のようだ。

 初対面でここまで喧嘩するかね。

 その後の罵り合いたるやミウの時の比では無い。


「……騒がしい」


 ミサキの一言でその喧騒がピタリと止まる。

 そのセリフから滲み出る不穏なオーラを敏感に察知したようだ。

 ユニ助とピューネはお互いを見合わせる。


「ふん、今回は我慢してやる」


「ふん、こっちのセリフよ」


 お互いがそっぽを向き、その場は丸くではないが収まったようだ。

 それはそうと、やっぱりピューネって名前を喜んでくれていたんだな。


 ちなみに、今回のピューネの同行は本人が強く望んだもの。

 やはりかつての自分の故郷の状況は気になるということだろうか。

 とにかく、危険が無いようにしないと――。

 注意しておこう。


「大丈夫よ! この身体は分体だって忘れたの? でも、この場からは消えちゃうから、言われた通り気をつけるわよ」


「凄いです〜。ポンポも復活したいです〜」


「無理ね。これはアタシだけに与えられた特権なのよ!」


 左手にはピューレ山脈を望みながら、馬車は目的地に向かって進む。

 いつもよりゆっくりなのは道が悪いせいだろう。


 

 さて、到着まで十分な時間がある。

 僕は皆と今後の予定について再確認する。


「さて、予定だと今日中に着くけど、時間が遅いようだったら突入は翌日ってことでいいね」


 僕の言葉に皆が頷く。


「それと、アリア」


 僕の振りにアリアが頷いた。


「うん、これ、皆の分なの」


 アリアが取り出したのは木製の腕輪、手作りのアクセサリーだ。


「少しだけ浄化の作用があるの。急ぎだったから効果はいまいちなの」


 アリアはそのアクセサリーを皆に配る。


「はい、ミウちゃんのは小さいけど効果は同じなの」


「ありがとう、アリア」


「ポンポの腕にピッタリです〜」


「ちょっとちょっと、アタシの分は!」


「ちゃんとあるの」


 洞窟の中は何があるかわからない。

 何せアウラウネがあそこまで侵食されたくらいだ。

 少しでも抵抗力は有った方が良い。


「ありがとう、アリア」


「……感謝」


 さあ、これで準備は万端。

 後は到着を待つばかりだ。



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