第119話 黒い――
お待たせしましたm(__)m
凸凹の大地に散乱する瓦礫。
屋根や外壁などが崩れ落ちた簡素な木造住宅。
「あれがポンポの家です〜」
そんな里の跡地を、ポンポが丸い尻尾をふりふりと揺らしながら駆け出す。
元ポンポの家は崩れている家が多い中、しっかりとした形を残していた。
「むむ、開かないです〜! えいっ!」
多少歪んでいた戸を力ずくで開け、跳ねるように中に入るポンポ。
もちろんそこには何か有る訳では無い。
使える家具などは既にイデアに全て持ち込んでいる。
しかし、それを気にする風でもなく、ポンポは「ここに何があった。あそこでは何をしていた」などと僕たちに一生懸命説明してくれた。
そんなポンポの話を、僕たちは相槌を打ちながら微笑ましく聞いている。
緊張してばかりでもしょうがない、一種の清涼剤は必要だ。
出発して二日目に辿り着いたぽんぽこの里の跡地。
折角建物が残っているので、僕たちはここで最後の休憩を取ることにした。
今日の朝、スラ坊に作って貰ったお弁当を取り出し、少し早めのお昼を皆で食べる。
――目的の場所は近い。
僕たちは里の中のある地点から急に雑草が枯れている姿をこの目で見た。
地図によるとこの辺はまだ影響範囲では無かった筈。
やはり現在もその範囲を広げているということだろう。
植物を拒絶するかのような大地の黒ずみ。
長老の言っていたことは間違いでは無いようだ。
「カナタ、どうしたの?」
ミウの声に僕は我に返る。
おにぎりを握ったまま動かない僕を心配してくれたようだ。
「いや、そろそろ近いなって思ってね」
僕の言葉にミウが頷く。
「うん、頑張って解決しないとね!」
その言葉に励まされつつ、僕は手の中のおにぎりを口の中に放り込んだ。
荒れた大地を踏みしめ、目的地を目指す。
見渡す限りの緑であった里の裏手の森は既に見る影もない。
視界だけはすこぶる良好なのだが、魔物さえ拒絶する土地の視界がいくら良かろうが全く意味が無い。
進むにつれて大地の濃さというか黒ずみが顕著になってきている。
これが最も濃くなった場所、恐らくはそこに何かがあるのだろう。
「何か嫌な気分なの」
変に生暖かい何かが風に乗って運ばれてくる。
森に住まうダークエルフであるアリアは特に敏感にそれを感じているようだ。
「アリア、大丈夫?」
「うん、平気なの。ミウちゃん」
そんなアリアの様子を横目で確認しながら一歩づつ前へと進んでいく。
しばらく歩くと、荒れ果てた地面にポツンと何かがあるのが見えた。
それは然したる大きさではないが、何故か僕の目を引き付けて離さない。
あれは……何だ?
僕はゆっくりとそれに近づいて行く。
地面の小さな隆起の上にあった『それ』。
黒いゴルフボール大の何か。
だが、『それ』からは嫌な気配が漂っている。
もしかしてこれが――、
「これは何です〜?」
制止する間も無くポンポが『それ』に近づいたその時、事態は起こった。
その球から急激に膨れ上がる黒い何か。
迷っている暇は無かった。
僕はそれに浄化魔法をぶつける。
「ぐっ!」
しかし、その黒い何かはお構い無しに膨れ上がる。
僕はさらに魔力を上乗せする。
僕の魔力が急激に失われていくのが自分でもわかる。
この黒い気を抑えつけるだけで精一杯。
そして、僕の魔力の量は言うまでもなく有限。
せめて皆だけでも逃がすか――。
「カナタ! あきらめちゃ駄目!」
頭の上のミウから叱咤される。
そしてミウが僕の魔法に上乗せして浄化魔法をかけてくれた。
「くうっ!」
膨れ上がる黒い何か。
押さえつける僕とミウ。
いつまで続くかわからない攻防。
だが、この場にはミウもいる。
アリアやポンポも逃げずにこの行方を見守っていた。
絶対に負けるわけにはいかない。
時間感覚がどうにも麻痺している。
時間にして数分、数十分は経っただろうか。
永遠に続くと思われた時間。
しかし、ここで漸く目の前の黒い何かが収束を始めた。
「カナタ! 押し込むよ!」
言われるまでも無い。
僕はありったけの魔力を浄化につぎ込んだ。
その後の事は考えない。
きっとアリアたちが何とかしてくれるだろう。
そして黒い何かが完全収束したのを見届けて、僕の意識は途絶えた。
再び目を開けた時、心配そうに僕を覗き込むアリアとポンポの姿が視界に映った。
無事な二人の姿を見て僕は心から安堵する。
僕の中で色々な感覚が戻ってきた。
どうやら僕は布の上に寝かせられていたようだ。
僕はそのまま立ち上がろうと――。
あれ? 何だ!?
上半身を起こそうとするがうまく立ち上がれない。
「まだ寝てた方が良いの」
先程の戦闘の疲れがまだ残っているのか、思うように力が入らなかった。
――アリアが落ち着いているところを見ると、周りにもう危険は無いのだろう。
そう判断した僕はアリアの言葉に甘えることにした。
ミウは僕の隣で横になっていた。
胸が上下しているので息はしている様子。
多分僕と同じであの後に気絶してしまったのだろう。
とにかく無事でよかった。
暫く経ち、立ち上がる位の力が戻った僕は、改めてアリアから『それ』を受け取った。
『それ』とは例の物体。
だが、既に禍々しい気配は発しておらず、色も漆黒から純白へと姿を変えている。
「もう危険は無さそうなの」
僕が気絶している間にアリアが色々調べてくれていたらしい。
しかし、わかったことはこれがもう危険なものでは無いという感覚的なものだけのようだ。
「だけど……、一体これは何だろう?」
僕は掌の上でそれを転がす。
もちろん、その球が僕の問いに答えてくれる筈も無かった。
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