閑話 ミサキの想い
今回はミサキ視点です。
イデアロードを騒がせた事件も一段落し、街は活気を取り戻しつつある。
その熱気を肌で感じつつ、私はイデアロードの大通りを歩いていた。
事の発端は師匠からの一言だった。
「ミサキちゃん。時には気持ちを形にすることも大事よ。プレゼントなんかどうかしら?」
その師匠の発言に、私の心は雷にでも打たれたかのように痺れた。
考えてみれば、カナタと出会ってからプレゼントなんてあげた事が無い。
感情表現が乏しいことを自覚している私にとって、これ以上ないアピールになるのではないだろうか。
そう思い、現在行動に移しているところである。
「……師匠、感謝」
既にイデアロードを立った師匠に感謝の念を抱きながら、商店街に向かって歩を進める。
食べ物の美味しそうな匂いにも惹かれるが、今日の私の目的はそれでは無いのでスルー。
形に残る物であること、それが重要だ。
先ず手始めに、イデアロードで人気の雑貨屋に寄ってみることにした。
ここは品揃えが良いと評判の店で、ギルドの受付嬢であるマリアンの実家でもある。
彼女は事あるごとにカナタにちょっかいをかける要注意人物だが、その店に罪がある訳では無い。
私は目的の物を探すべく、勇んで店の中へと入った。
「いらっしゃいませ!」
中年というには少し老けた女性が私に微笑みかける。
目元などが似ていることから、恐らく彼女の母親なのだろう。
しかし、私は特に気にかけるでもなく店の商品の物色を始める。
「あの、何かお探しでしたら言っていただければ、私もお手伝いいたしますが――」
「……必要ない」
対話は苦手。
ゆっくり自分自身で探させて欲しい。
「わかりました。何かあったら遠慮なく声をかけて下さい」
私の不躾な言葉にも笑顔が曇ることなく、その女性は引っ込んでいった。
少し悪いことをしたかもしれない。
だが、これは私の大事な大事な一大イベント。
他人の手を借りるものでは無い。
隅々まで店内を物色すること約一時間、良さそうな物はいくつか発見できたが、どうもしっくりこない。
洒落たアクセサリーなども置いてあるけれど、これらもどうも違う気がする。
仕方が無いので何も買わずにそのまま店を出ることにした。
「ありがとうございました。またお越しください」
先程の女性は、そんな私にも深くお辞儀をして見送ってくれた。
品物自体悪くなかったので、通常の買い物の時にでもまた寄ることにしよう。
その後、数件の店を回るが、どこも同じ様で未だこれはという物に巡り会わない。
やはり王都まで足を延ばさないと駄目なのだろうか――。
そんなことを考えていた時、ふと薄汚れた看板が目についた。
そこに書かれていた内容に私は目を奪われる。
「これだ!」と直感的に思った。
私は迷わずその門を潜った。
「いらっしゃいませ!」
中にいた少女が出てきて元気よく私を出迎える。
私はただ一言、
「……あれ、出来る?」
そう言って、表の看板を指さした。
「はい、勿論です! ありがとうございます!」
その元気すぎる少女に案内され、私は奥へと入っていった。
――思えば、カナタには色々なものを貰った。
それは物では無く、あたたかい何か――。
女神様に導かれ、初めてカナタに会った時のことは今でも鮮明に覚えている。
一目でわかった。
この人に出会うために私は生まれてきたのだということを――。
時が過ぎてもその印象が変わる事は無い。
それまで目に映っていた灰色の景色が、色鮮やかな景色へと移り変わる。
ミウ、アリアといった初めての仲間にも出会えた。
女神様の言っていたことは正しかった。
これまでの何も無い人生を捨てずに良かったと心から思う。
そして、私は店を出た。
受け取りは明日、その日が待ち遠しい。
後日、満を持してカナタにそれを渡す。
「ありがとう! ミサキ」
「……いい」
初めは驚いていたが、カナタは笑顔で受け取ってくれた。
言葉でもっと色々と伝えたいのに、それが出来ない自分がもどかしい。
でも、きっとカナタはわかってくれている筈。
それを信じよう。
そしてその日から、洗面台に置かれた不格好なコップが二つ。
青と赤のごつごつしたそれは、見る人が見ればただのガラクタかもしれない。
でも、私にとっては違う。
初めてのお揃い、そして私の初めての心を込めた作品。
願わくば、同じようにいつまでも隣にいられますように――
次話から本編に戻る予定です。




