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第107話 尻尾を掴む

閑話との話数の入れ替えを行いましたm(__)m

「シッ!」


 吹きつけるように息を吐き、黒装束の男たちが僕らの眼前に迫る。

 だが、今回はオークたちもついて来ているので、いつものような前衛不足の心配は無い。

 僕の前には侵入者が一人、通常のものより少し短い剣を逆手に持ち、接近戦を挑んできた。


 無駄の無い動き、しかも正確に急所を狙ってくる。

 いかにも熟練さを感じさせる剣捌きだが、僕も防戦一方な訳では無い。

 その素早い動きの中にも隙を見つけ、一振りで相手を後方に吹き飛ばす。

 ――いや、それにしては手応えが軽い。

 どうやら自ら後方に飛んだようだ。


 僕から距離を取った男は口に手を当てて口笛を鳴らす。

 すると、オークを相手取っていた仲間二人が後方に飛ぶように下がり、彼の元へと集結する。


「はっ!」


 そして目前に迫る敵。

 僕は再び迫りくる剣を正面で受ける。

 だが、その瞬間僕の背筋に悪寒が走った。


 僕はすぐさま後方に飛び退く。

 その感は当たっていたようで、今まで僕がいた場所、そこには二人の男が上空から舞い降りていた。

 決して薄暗いから見失っていた訳では無い。

 恐らく、初めの急接近で意図的に僕の視界を狭めたのだろう。


 しかし、そうとわかれば対応策はある。

 さらには僕が3人引き受けているという事は、必然的に他が手薄になるということ。

 皆の実力を考えれば、それほど時間を待たずに助けが来てくれるだろう。

 僕はそう考え、暫く防御を重点に3人の相手をすることにした。


 身体能力を魔法で強化しながら三人の攻撃をさばいていく。

 まともにやりあっては手数が足りないのは目に見えている為、微妙に位置を移動することにより同時に攻撃できないようにする。

 相手の早さにも次第に慣れてきた。

 フェイントを織り交ぜたトリッキーな動きだが、その一撃は軽い。

 これよりも速く、そして重い剣を相手にしたことがある僕にとっては、さほど怖さは感じなかった。


「カナタ! 手伝うよ!」


 漸く待ちに待った時が訪れた。

 ミウが僕の後方に駆け寄り、男たちに向かって風の刃を飛ばす。

 彼らは防戦を余儀なくされ、後方へと下がる。


 嵐のように吹き荒れる風の刃の一つに足を斬られ、1人の男がとうとう跪いた。

 その瞬間を見逃さず、ミウが畳み掛ける。

 男は更なるダメージを与えられ戦闘不能。 

 これで残りは2人。


 さらに、前方に炎の壁が発現し侵入者一人を包み込む。

 後方にはスタッフを構えたミサキ。

 狭い場所ということで手加減はしてくれているようだ。

 

「ちいっ!」


 最後に残った男の目が悔しそうに歪む。

 これで一対一、ここからは僕の役目だ。

 ここで初めて僕から前に出る。

 剣に雷を乗せ、侵入者と剣を合わせた。


「ぐっ!」


 その反応は顕著に表れた。

 痺れにより侵入者の反応速度が一瞬だが遅れる。

 しかし、僕にはそれだけで十分だ。


 隙が出来た腹部分に剣を叩き込む。

 防具をも破壊する一撃に、侵入者は後方に勢いよく吹き飛ぶ。

 そしてそのまま壁に激突、そのまま頭を項垂れた。

 今度は自ら飛んだわけでは無さそうだ。


「ふぅ……」


 作戦が上手くいったことと被害が出なかったことに対し、自然と安どの息が漏れる。


「お疲れさまなの」


「おつかれ〜」


 ミウとアリアがお互いの健闘を称え合っている。

 警備兵のオークたちもどこか誇らしげだ。


「……最後の仕上げがまだ」


 そう、まだ終わりでは無い。

 僕たちは結果を知るべく地下牢を出たのだった。








 翌日、王都より早馬が到着する。

 馬を乗り継ぎながらかなりな速度で飛ばして来たらしく、着衣の乱れが見て取れた。

 だが、馬を降りる姿は優雅そのもの、なんちゃって貴族の僕と違ってその気品さを匂わせる。

 その顔はどこかで見た事があると思ったら、ペタの村で会った貴族のようだ。


「ターラントと申します。ご連絡を頂いて駆けつけました」


 その貴族は丁寧な立ち振る舞いで僕に挨拶をする。

 僕も失礼が無いようにしなくては……。

 自然とそう思わせてしまうほど立ち振る舞いに嫌みがない。


「長旅ご苦労様です。早速と言いたいところですが、お疲れのご様子。宜しければ風呂をご用意いたしますが……」


 そんな僕の提案にターラント子爵は首を振る。


「いえ、それには及びません。それより、例の件は……」


「はい、ターラント殿に証人になっていただきたいと思います」


「わかりました」


 既に僕が解決の情報を握っていると感じてか、それ以上は何も言わずに黙ってついて来てくれた。

 目指すは屋敷の一室、グラシャス子爵の部屋だ。


 合図をせず鍵を開け、警備兵を伴い無言で中に入る。

 それに驚いたのはグラシャス子爵だ。


「な、何だね! ノックも無しに! 失礼じゃないか!」


 憤慨するグラシャス子爵を尻目に、僕は警備兵に命じて彼を拘束する。


「くっ! どういうことだ! 説明してもらおうか!」


 僕に向かって怒鳴るグラシャス子爵。

 だが、それを無視するかのように警備兵が彼の持ち物を探る。


「ありました!」


 警備兵の一人が目的の物を見つける。

 それは青い球体、魔道具である連絡石だ。

 この連絡石はお互い同士を登録することで通信する事が出来る魔道具。

 僕らは初めに捕らえた者たちから証拠品としてこれを回収していた。

 その時点ではグラシャス子爵が持っている(直接命令している)とは限らなかったため、強引な手段が取れなかった。

 

 だが、今回の捕り物でグラシャス子爵がそれを使っているところを確認できた。

 イデアロードの誇る優秀な監視者のお蔭である。

 そうなれば、後は証拠隠滅される前に捕縛するのみ。


「ターラント殿、これは彼の持ち物から出てきました。証人になって頂けますか」


「ええ、問題ありません」


「違う! 罠だ!! 仕組まれたのです、ターラント子爵!!」


 グラシャス子爵は懸命に弁明を始める。

 しかし、それが出て来たのは彼の懐からであるから、その証明は非常に難しいだろう。

 大事な物は肌身離さず、その用心深さが墓穴を掘った形だ。


「では、後の事をお願いします」


「わかりました。被害の賠償などは恐らく彼の没収された財産から出るでしょう。まあ、多少は時間がかかるでしょうが……」


「それは構いません」


 僕とターラント子爵が会話をしている中、グラシャス子爵が警備兵に連れられて行く。

 数日遅れでやって来るであろう王都の護送車に引き渡す予定だ。


 ふと、後ろに気配を感じ振り向くと、そこにはヘーデルネン男爵が立っていた。

 何が起きたのかおおよそ理解したのであろう。

 何とも言えない表情をしている。


 ちなみに、彼は今回の事件に関わっていないようだ。

 初めは彼が犯人かとも疑ったが、見た目だけで判断してはいけないという良い教訓になった。


「彼が関わっていたのか」


「ええ」


「そうか……」


 それだけを言い残して、彼は部屋へと戻っていった。

 今回の事で出立の延期は解かれた為、明日にでも帰国するのだろうが、出来ればもう少し話をしてみたかったと今さらながらに思う。

 まあ、向こうがそれを望むかは別の話だが……。


 そして数日後、グラシャス子爵とその子飼いを乗せた護送車が王都へと向かっていった。

 これにて一件落着、かな。


 もちろん楽観はしていられないけどね。

 今回の事を踏まえ、僕は警備兵の増員について頭を悩ませるのであった。  


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