第104話 犯行
お待たせ致しましたm(__)m
「良からぬ輩ですか?」
僕はキマウさんに聞き返す。
「はい、新人の冒険者が数組、何者かに襲われております。幸い命には別状は無いようですが……」
キマウさんが目を伏せる。
その様子から、命だけは何とか助かったという惨状のようだ。
「……犯人は?」
ミサキがキマウさんに問う。
「目下調査中ですが、今のところはまだ……。ただ、ガラの悪い連中が何組か街に入ったのが確認されています」
「――見た目だけで判断するのはあれだけど、調べてみる必要はありそうですね」
「はい、既に調査は行っています。それとあと一つ」
「あと一つ?」
「外壁に破壊活動の跡が見られました。幸い破壊には至っておりませんが、注意は必要かと」
そちらは無事で何よりだ。
イデアロードを囲む外壁は、高ランクの魔物を想定して僕とミウが苦労して作ったもの、そう簡単に壊れてしまっては困る。
だが、これも許容できない問題なのは確かだ。
「わかりました。また何かわかったら教えてください」
「はい、了解しました」
キマウさんが部屋から退出した後、僕は先程のことについて考える。
「ミサキ、どう思う?」
「……貴族の嫌がらせ?」
ミサキが首を捻りながら答える。
うん、今のところそれ位しか思いつかない。
冒険者に恨まれる覚えはないし、さらには街の破壊活動となると――、発展しているこの街を妬んでの犯行とか。
こんなことを真っ先に思うのも、今まで碌な貴族に出会っていないからだろうけどね。
「それと冒険者を狙ったっていうのが気になるね。たまたまこの街に多い新人冒険者に当たっただけなのか、それとも――」
「……警備を増やす必要がある」
ミサキの言うことはもっともだが、今は現状の人数でやり繰りするしかない。
警備隊の募集は既に行っているが、まだ採用までには至っていない為だ。
だからといって、ここで慌てて採用するのも考えもの、別の問題が起きかねない。
「鍛冶場も忙しそうだったしなぁ……」
ここに来ての人数不足。
急激に発展した街の弊害ともいえる。
「ミウが警備するよ!」
「私もするの!」
ピッと小さな手を挙げるミウ。
アリアもそれに続き、ミサキが無言で頷く。
「どうやら、それしか無さそうだね」
この日から、僕たちによる街のパトロールが決定した。
本日の訪問団の案内はキマウさんに任せて街へと繰り出す。
明日には王都に帰る訪問団、元々予備日であった今日の予定はそれ程詰まっておらず、午前中だけを使っての街の案内のみである。
キマウさんなら十分に案内役を果たしてくれるだろう。
「さて、どうするか」
「カナタ、ギルドに行ってみよう!」
ミウの提案通り、先ずはギルドへと向かうことにする。
もちろん、新人冒険者についての情報を聞くためだ。
「おう、そろそろ来る頃かと思っていたぞ」
僕たちの来訪を待ち構えていたギルドマスターに連れられて奥の部屋へと入る。
ソファーに腰を落ち着けた僕らに渡されたのは一枚の紙。
「こいつらが被害に遭った3組の冒険者だ。ここの訓練を受けていたパーティーで、どうやら3組ともその帰り襲われたらしい」
「……狙い撃ち?」
「考えたくないが、恐らくはな。折角冒険者も増えて来たってのに……、くそったれが!」
ギルドマスターが悔しそうに言葉を吐き捨てる。
そんなギルドマスターに僕も言わなければならない事がある。
外壁の破壊活動の件だ。
「何だと! ……ってことは、同じ奴の犯行だとすると、ただのギルドへの嫌がらせじゃねえな」
「……ええ」
ミサキが頷く。
「そういう訳で、暫く僕らがパトロールしようかと思っています。それと、緑の旅団はまだこの街にいますか?」
「ああ、恐らく夕方あたりに戻ってくるはずだ。あいつらにも協力してもらうのか?」
「はい、信頼のおける実力者となると、あの人たちしか思いつきませんので」
「わかった。早めに戻るようなら引き留めておいてやるよ」
「ありがとうございます。それと、今日の特訓は――」
「夕方には終わらせる予定だ。また夜道に襲われたんじゃ敵わねえからな」
僕たちは夕方また来ると言い残してギルドを出る。
続いて向かったのは街の入り口。
そこではオークが二人、常駐警備として街を守っている。
「カナタさん、ご苦労様です。例の件ですか?」
その内の一人が僕の接近に気づき話しかけてきた。
「ええ、一応現場の話も聞きたくてね」
手間の省けたことに目の前の彼が第一発見者だったらしく、その時の状況を詳しく説明してくれた。
時間にして真夜中、大きな爆発音が外から聞こえる。
相方を門に残して一人でその様子を見に行ったところ、外壁から煙が上がっていた。
幸いなことに外壁は無事のようだが、周りには人の気配は無く、後から集まってきた警備兵も特に何も見ていなかった。
外壁の上を警備していたオークも、特に何かの接近には気づかなかった――。
「要は手掛かり無しってことか」
「面目ない」
「いや、人数の少ない中やっているのだから仕方が無いよ。それに幸い被害は無かった訳だしね」
申し訳なさそうに頭を下げるオークを慰めつつ、僕らは現場へと向かう。
そして辿り着いた襲撃箇所、その外壁には確かに焦げ跡のようなものが付着していた。
「さすがカナタと作った外壁だね。全然壊れていないよ!」
嬉しそうに振られたミウの尻尾が、僕の後頭部にぺしぺしと当たる。
「ちょっとだけひびが入っているね。どれ、直しておくか」
地面の土を使って、ひびを補強するかのように魔法を使う。
ほんの数秒もしないうちに外壁が元に戻った。
「これでよし、と」
この位の攻撃なら心配する必要は無い。
警備は街の中を中心にしよう。
そんな事を考えながら、僕は街の中に戻っていった。
日が沈みかける頃、僕たちは再びギルドを訪れる。
その奥に設置されているテーブルにはジンさんたちの姿があった。
「やあ、カナタくん。何となく察しはついているが、用事って何だい?」
いつも通りの穏やかな口調で話しかけて来たジンさんに、僕は事の顛末を話す。
「――要は、私たちに街の警備をして欲しいということかな?」
「はい、一ヶ月契約ということで、一日金貨一枚では如何でしょう」
「ふむ……、皆はどう思う?」
「う〜ん。お金は良いけど、その間は拘束されるのが面倒だなぁ」
ペールさんが怠そうに首を捻る。
「さらに滞在中は風呂付きの家を提供します。それと美食亭の夕食もつけますよ」
僕は更なる特典を付け畳み掛ける。
「ジン、受けましょう!」
その特典に飛びついたのはシアラさんだ。
その両目はキラキラと輝いている。
そんな仲間二人の様子を見たジンさんは僕に一言、
「少し三人で話し合うので待ってもらえるかな」
僕が頷くと、ジンさんは二人を引き連れてギルドの外へ。
僕たちはその答えが出るのををじっとギルドの中で待った。
数分後、戻ってきたジンさんから正式に依頼の受諾を伝えられる。
後方には勝ち誇った表情のシアラさんと、悔しそうな顔をしているペールさんの姿があった。
どんな話し合いだったかは知らないが、あえて言うなら「女は強し」といったところだろうか。
「まあ、しょうがねえ。受けたからにはちゃんとやってやるよ」
僕の顔をみて、ペールさんがため息をつきながら呟く。
そして、僕たちは詳しい分担を話し合うべく、ギルドの奥の部屋を借りるのであった。




