第99話 蜥蜴族 VS ぽんぽこ族②
とうとう99話。
読んで下さっている読者様に感謝です。
「上手くいってるみたいだね」
「……ええ」
里全体を眼下に見下ろしながらミサキが答える。
「ミサキ凄いね〜。これは思いつかなかったよ」
「……えっへん」
ミサキは、ミウの褒め言葉にわざとらしく胸を反らした。
確かにミウの言う通り、これには僕も思いつかなかった。
里全体を見下ろしている僕たちだが、特に魔法か何かで空中に浮かんでいる訳では無い。
その足はしっかりと地を踏みしめている。
ただ、その大地がイデアだというだけ。
そう、僕たちは上空に浮かぶゲートから戦況を見守っているのだ。
「あっ、危ないの」
ぽんぽこのピンチにアリアが矢を放つ。
その矢は見事に蜥蜴族に命中、ぽんぽこはその場からまんまと逃げ果せた。
そして彼が向かう先は里の南側、その正面にある柵に体当たりするかのように飛び込む。
しかし、そのまま柵と正面衝突するかと思いきや、ぽんぽこの姿は幻のようにその場から掻き消えた。
「うん、バッチリみたいだね」
「……ええ、余程のことが無い限り大丈夫」
実は、ぽんぽこが今飛び込んだ南側の柵は幻であり、本物の柵はもう少し後方にある。
それにより出来たスペース、そこにはぽんぽこ族が出番を待つかのように身を潜めていた。
当然、僕たちにはその姿が見えている。
ミサキが上空からぽんぽこ族に合図を出す。
数人のぽんぽこたちは、それを見て行動を開始。
その傍らでは、別の場所にアリアが合図を送っていた。
「そっちは危険なの」
アリアの合図に従い、進路を変えるぽんぽこ。
その数分後、その場所を蜥蜴族が通り過ぎる。
上空から見下ろしているため、僕たちは全ての戦況を把握していた。
ルールのあるゲームならば正に反則そのものだが、これはゲームでは無い。
一人の犠牲者を出さない為には、必要であり有効な手段なのだ。
ぽんぽこたちは必ず何人かで行動し、その中の一人が上空で僕らの合図を確認する。
その指示に従い、里に張り巡らせた罠を起動、蜥蜴族たちにダメージを与える。
そして、決して深追いはしない。
危なくなったら逃げる、どうしても逃げ切れないときは僕らが上空から魔法でフォロー。
それにより、これまで一人の犠牲者も無く戦闘を乗り切っている。
「カナタ、出て来たよ!」
とうとう蜥蜴族の親玉が動き出したようだ。
その横には赤い鱗の蜥蜴がいる。
何か特殊な個体だろうか?
「ちょっと様子を見るか」
犠牲者を出さない事が最優先事項。
用心に越した事は無い。
「……ええ、任せて」
ミサキは地上部隊に合図を送った。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「合図です〜」
「よし、プランBを実行せよ」
隊長であるマサルの指示に従い、所定の位置に散らばるぽんぽこ。
その行動は迅速にして的確である。
「発射です〜」
合図と共に放たれた設置式の弓。
細い丸太のような矢が蜥蜴族を襲う。
「シャーザ様!!」
盾持ちの蜥蜴族が前に出てシャーザを庇う。
強烈な衝撃と共に鈍い音が響いた。
「いたぞ! あそこだ!」
矢の軌道からぽんぽこたちを見つけた蜥蜴族は、仲間の仇とばかりにぽんぽこたちに迫る。
「待て! 早まるな!」
制止するドルト。
しかし、その指示は一足遅かった。
勇んで前進した蜥蜴たちを巨大な落とし穴が襲う。
そしてその真上からは巨大な岩が――。
巨木から落とされた岩に蓋をされるかのように押し潰された蜥蜴族。
その様子を悔しそうに見つめるドルト。
劣勢の中、ただ一人戦況を冷静に見つめてはいたが、思う様に事が運ばない。
「ファイアボール!」
ぽんぽこたちに向けて、ドルトは五発の火の玉を放つ。
ぽんぽこはミサキの指示通り、無理はせず一目散に逃げだした。
「くそっ! どうなってやがる!」
シャーザは怒りに身を任せ、ぽんぽこに向かって突進。
しかし、その行く手を炎の壁が阻む。
「何処だ、何処にいる」
思考を張り巡らせ、辺りを見回すドルト。
しかし、探している気配は見当たらなかった。
「プランAに移る」
「了解です〜」
蜥蜴族の前にぽんぽこたちが姿を現す。
その数はおよそ三十、現存する蜥蜴族の六倍。
ぽんぽこ族の神出鬼没な攻撃により、既に蜥蜴族はそこまで数を減らしていた。
「とうとう姿を現したな。手こずらせてくれた礼に、一瞬であの世に送ってやる!」
シャーザが槍を構える。
腕には血管が浮きだし、さらにはねじりが加えられ、今まさに最高の一撃が繰り出されようとしたその時――、
「シャーザ様!!」
その身体に覆いかぶさるドルト。
そしてそのまま防御魔法を展開する。
ドルトは見たのであった。
ぽんぽこたちが持っていた赤い物を――。
(あれは爆鉱石、しかも、あれは不味い!)
爆鉱石――衝撃を受けると小爆発を起こす鉱石。
ただし、それはあくまで小爆発、マトックでたまたま小突いてしまっても「ぽんっ!」と軽く弾ける程度だ。
だが、魔法に造詣があるドルトにはわかってしまった。
それが有り得ない純度だということを――。
ぽんぽこは両手に持ったそれを蜥蜴族に向かって一斉に投げ込む。
次の瞬間、大嵐でも吹き荒れたかのような大爆発が起こった。
蜥蜴族の悲鳴も、その大きな爆音に包まれて聞こえない。
巨大神殿の柱のように空に向かって吹き上がる炎は、恐らくイデアロードからも目視できたであろう。
一瞬の嵐が静まり、ぽんぽこたちは装着していた耳栓を外す。
煙が晴れ、爆発の中心が見えてくる。
跡形も無く吹き飛んで何もないであろうと思えたそこには、唯一つ黒い塊が存在していた。
暫くして、その塊がピクリと動く。
息を飲んで見守るぽんぽこたち。
その黒い塊がひび割れを見せる。
そして、そこから脱皮するかのように現れたそれは、紛れもないシャーザであった。
ドルトと盾を持った親衛隊、彼らは身を挺して自らのボスを守ったのだ。
だが、さすがに無傷とはいかない。
既に満身創痍、虫の息である。
そのシャーザに向かい、マサルが近づく。
ぽんぽこたちはその姿を黙って見守る。
「蜥蜴族のシャーザ。何か言い残すことはあるか?」
問いかけるマサルにシャーザは答えた。
「戦闘に明け暮れ、そいて戦闘で散っていく。我が生涯に悔いなし」
そして、そのまま目を閉じる。
「そうか――。では、来世でまた会おう。来世では味方であると願っている」
マサルはシャーザの胸元に短剣を突き刺した。
こうして、蜥蜴族とぽんぽこ族の戦闘は、ぽんぽこ族の完全勝利にて幕を下ろしたのであった。
上空にて事の成り行きを見守っていたカナタ。
嬉しい筈なのだが、その表情には複雑な感情が見て取れた。
そのカナタの背中をミサキが軽く叩く。
「うん、わかってる」
カナタたちはぽんぽこたちを祝福するべく、ゲートから飛び降りるのであった。
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