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39話「ステラ姫はマジ天使」




「なるほど、カイさんの魔物が到着できれば村のみんなが移動できるようになるって事ですか。相変わらずとんでもねぇスキルですね」

「さすがカイ様です」


 今回の提案をレオンとシルバに話したところ、快く了承してくれた。さらに、レオンは昔ラビリンスへ行った事があるらしいので、到着できれば案内もできるらしい。


「でも、俺達はあんまり活動できないかもしんないですね」

「そうですね。活動するのは村の他の者達が中心となるでしょう」


 レオンもシルバもラビリンスの隣にある獣国ガルドに顔が割れている為、見つかると騒ぎが起こる危険があるそうだ。


「ところで、カイさんの魔物はラビリンスまで辿り着けるんですか?結構な距離がありますけど」

「それはたぶん大丈夫だと思う。前に飛ばした事があるけど、その時も森の端までは行けたから」


 以前、クロウクローを東西南北へ飛ばした事があったが、東(ゼネラル方面)と南(ラビリンス方面)は問題なく森の端まで着くことができた。しかし、北側は巨大な山脈に近づいた瞬間にクロウクローの反応が消え、西側は森の雰囲気が暗くなった瞬間にクロウクローの反応が消えたのだ。

 北と西側はいずれまた調査が必要かもしれない。


「村長やイサメ婆も了承してくれたから、早速ナイトクロウを飛ばしてみるよ。数日以内には着くと思う」

「それは楽しみですね。村のみんなにも伝えておきやすぜ」

「私は、獣国に顔の割れていない銀狼族の中からカイ様の護衛に相応しい者を選抜しておきます」


 銀狼族の特徴は銀髪に犬耳である為、1人2人が歩いている分には髪を染めたちょっとお洒落な獣人が歩いている程度にしか思われないらしい。

 なので、ここはお言葉に甘えてシルバ推薦の銀狼族に護衛を頼むことにしたのだった。









「田中、それって本当なのか?」

「間違いねぇよ。ちゃんと聞いたんだ」


 ナロウ王国の王城内には、日本から強制的に召喚された赤城達のクラスメイト。通称『勇者達』が住むために用意された屋敷がある。そこの一室では、一部のクラスメイトが集まって密談を繰り広げていた。


「あいつら、俺達に『従属の首輪』っていう魔道具を嵌めて奴隷にする気なんだよ」

「マジかよ。翔太達が魔王に捕まってからピリピリしてるとは思ってたけど、そんな事しようとしてたのか……」

「しかも、計画ではそのまま魔の森に連れていって強引なレベル上げをするつもりらしいぞ」

「魔の森って、私達勇者でも命を落とすほど危険だから絶対に立ち入っちゃダメって言ってなかった?」

「だから、俺達の命なんてどうでも良いって事だろ」

「無理矢理呼び出されて、無理矢理戦わされて、そんなのあんまりよ!早く元の世界に帰してよ……」


 『隠密』のスキルを持つ田中という生徒が仕入れた情報を聞き、一部の生徒は怒りに震え、別の生徒は悲しみに暮れた。


「やっぱり、この国の王族や貴族は腐ってやがる。もしかしてステラ姫も……」

「いや、ステラ姫だけはこの話に反対してる様子だった。他の王族や貴族はほとんどが賛同してたけどな」

「やっぱステラ姫はマジ天使だな」


 ステラ姫という人物だけは味方であるという田中の言葉に、話を聞いていたクラスメイトは安堵の表情を浮かべた。


「それより従属の首輪が問題だ。話じゃ貴重な魔道具らしいから数が集まるまで時間がかかるみたいだけど……人数分集まったら、俺達全員奴隷にされるぞ」


 田中の言葉に、再び生徒達は真剣な表情となった。


「やっぱり、逃げ出して他の国に助け求めるのがいいんじゃないか?」

「他の国ってどこだよ」

「ゼネラルは赤城さん達が捕まった国だし、獣国ガルドは獣人以外に厳しいみたいだから、迷宮都市ラビリンスがいいんじゃないのかしら?」

「確かに、あそこなら冒険者の中に隠れて活動できそうだな」

「私達のスキルなら仕事も見つかりそうだよね」

「っていうか、そもそもどうやって逃げるつもり?」


 冷静な女子生徒の指摘によって、緩み始めていた生徒達の表情はまた真剣なものへと変わった。


「田中の隠密スキルなら……」

「言っとくけど、俺のスキルは俺自身と身に纏ってる物の気配を消すだけだから、人には使えないぞ」

「なんだよ、使えねぇじゃん」

「うるせぇ!初めの頃はクソ弱スキルって馬鹿にしてたくせに、今は情報収集に必要だからってこき使いやがって!情報収集だって毎回命懸けなんだぞ!俺だけ逃げ出す事はいつでもできるんだからな!」

「ちょっ、田中落ち着いてっ」

「でも今のは田中がキレるのも無理ないわ。黒田、謝れよ」

「ちっ、悪かったよ」


 異世界という慣れない環境と奴隷にされるかもしれないという絶望的な状況の中で、生徒達のストレスはピークに達しようとしていた。

 また、一緒に転移してきた教育実習の先生は別の場所で隔離されている為、彼らをまとめる大人がいないという現状もそのストレスに拍車をかけていたのである。


「私達を監視してる騎士の人達なんてめちゃくちゃ強そうだし、やっぱり私達だけで脱走するのは無理だよ」

「じゃあどうしろってんだよ?」

「……大柄くんとか黒沼さん達に協力してもらう、とか?」

「はぁ!?」


 女生徒の言葉を聞き、声を上げた男子以外の生徒達も厳しい表情となった。中には怒りに震えている生徒までいる。

 異世界に召喚された生徒はクラスメイトの全員である30名と教育実習の先生の1名なのだが、現在はゼネラルに向かった勇者一行の5名と先生の1名がいない。

 そのため25名の生徒が残されているはずなのだが、この場に集まっている生徒の数は15名だった。

 その理由が、クラスの問題児と言われている『大柄大毅(おおがら だいき)』と『黒沼矢那子(くろぬま やなこ)』とその取り巻き達である。男子と女子のまとめ役であった赤城達5人がゼネラルに捕らえられた事で、赤城達程ではないにしても強力なスキルを持った彼らは、他の生徒とは違う優遇された環境と新たなまとめ役としての地位を与えられたのである。そして、その地位を利用して大いにクラスの輪を乱したのだ。


「俺は大柄のクソ野郎にスキルの実験だって言われて両腕と両足を潰されたんだぞ!『再生』のスキルのお陰で何日も掛かってようやく治ったけど、あいつは謝りもしないどころか『再生するの遅くね?』とか言い捨てて馬鹿にしやがったんだ!あんな奴と組むなら死んだほうがマシだ!」

「私も黒沼さん達と組むのは嫌。黒沼さん達には、元の世界でもずっといじめられてて……こっちの世界に来てからも、訓練に付き合えって言われてたくさん嫌な事された……」


 悲痛な訴えを起こした2人の生徒の言葉に、この場に集まった大多数の生徒が同意を示した。

 確かに脱走の戦力となる強力なスキルを持ってはいるが、性格に問題があるため素直に協力してくれるとは思えなかったのである。


「そもそも、大柄達はナロウ王国にもう籠絡されてるんだ。脱走を手伝ってくれなんて言ったらチクられるに決まってる」

「だよなぁ。この前大柄の取り巻き共が自慢してたけど、あいつら毎晩高級料理楽しみながら可愛い女の子達と遊んでるらしいぜ」

「マジかよ、うらやま……最低だな」

「あんたのうらやま発言も最低だけど、結局どうするの?私達のスキルじゃ脱走には戦力不足よ?」

「ちょっ、ストップ!誰か来る」


 別館には生徒達の監視として執事やメイドが常駐しているため、密談は『加護守(かご まもる)』という男子生徒が『結界』のスキルを使用して外に音の漏れない結界を張り、『阿多利探(あたり さぐる)』という生徒が『探知』のスキルを使用して部屋の外を警戒しながら行っていた。

 そんな中、部屋の外を警戒していた阿多利が人の接近を感じ、密談を中止させたのである。

 加護の張った結界は外からの音は遮断しないため、密談を行っていた生徒達は緊張した面持ちで扉の外の音に耳を傾けていた。


「夜分遅くにすみません。ステラ・テルース・ナロウです。急ぎ相談がありまして伺いました。お時間よろしいでしょうか?」


 ナロウ王国の王族の中で、唯一生徒達の身を案じてくれているステラ姫の突然の訪問に、密談を行っていた生徒達は驚きを隠せずにいた。



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