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第26話 リタが見つめる未来


烈歴98年 6月1日 ボナパルト王城 地下通路


リクソン・ベタンクール都督との衝撃の出会いの次の日、僕はリタさんが王家と行う極秘会談の護衛のため、アウレリオ准将とビーチェと共にこのボナパルト王城の外れの区画にある講堂に、王城の従者の案内で向かっていた。


昨日中にボナパルト王家、プラティニ家、ポアンカレ家、ピケティ家に接触を図ったリタさんは、その日の内に各家から回答を貰っていた。


ボナパルト王家は至急会談に応じるとの回答


プラティニ家は王家とリタさんとの会談後に会談を行うとの回答


ピケティ家は、実務者階級での予備会談を行うとの回答


ポアンカレ家は、パオ・マルディーニ少将が来訪するならいつでも歓迎するとの回答


以上のことから6月1日はリタさんとボナパルト王家で会談し、ピケティ家にはサルトリオ侯爵が、ポアンカレ家にはパオっちとリアナさんがそれぞれ並行して訪問している。


そして僕とビーチェはアウレリオ准将と共にリタさんの護衛として、ボナパルト王家との会談に随行しているのだ。


今僕らが歩いているのは王城内の隠し地下通路で、会談場所の講堂へはこの地下通路を通ってしかたどり着けない中庭のなかにあるらしい。


元々は王族の方が1人の時間を楽しむために作られた中庭だそうだが、時を経て密談を行う場所に変わっていったようだ。


従者の方について行き、地下通路を20分程歩いたところで、地上に出る階段が見えてきた。


地上に上がるとそこは、四方八方が断崖絶壁になっていて、王城の区画の中にぽっかりと空いた落とし穴のような空間だった。


しかしその空間には、色とりどり花が植えられている花壇があり、普通の邸宅のような建物もある。


小さい綺麗な池もあって、水浴びもできそうだ。


そしてなにより存在感を放っているのが、一際大きな講堂だ。


今回の会談場所はここになるらしい。


「こちらでございます」


従者の方に案内されて、講堂に入ると、講堂の中心に会議机が1つと人数分の椅子だけ置かれており、それ以外のものは全く何も置かれていない広い空間だ。


会議机にはすでに王家側の人間だろう、アルジェント王、シャルル王とリクソン・ベタンクール都督が着座していた。


僕らはシャルル王とベタンクール都督の方へと向かって歩くと、シャルル王とベタンクール都督は起立して出迎えてくれた。


「わざわざご足労いただき感謝する。非公式の会談と言うことで誰にも邪魔をされない場所を用意した」


シャルル王が王様らしからぬ丁寧さで感謝を述べる。


「王城内にこんな場所があるなんてお洒落だわ。でもこんな大きな講堂でする必要があるの?」


リタさんはこの空間に感心しつつも、この講堂での会談を少し訝しがっていた。


「密談は広い空間で行うのが王国流ですね。狭い空間だと魔術による暗殺が容易ですし、また風の魔術で密談内容を拾われてしまうのです」


ベタンクール都督が爽やか解説している。


「…確かに、狭い空間なら火炙りにしても、水攻めにしても、土で圧迫させるなど、魔術に溢れる貴国なら危険な場所になるか…勉強になる」


アウレリオ准将が感心したように頷く。


「ですです。なので王国にだだっ広い講堂を持つ貴族は怪しんでくださいね。疚しいことがあります!って言っているようなものですから、ははは」


「……リクソン…それであれば私も疚しいことがあるような言い振りではないか…」


ベタンクール都督の軽口に、苦笑いをするシャルル王


ベタンクール都督はシャルル王の右腕なんだろうが、それ以上の関係性を感じるな。


また機会があれば聞いておこう。


「まぁこんな空間に長居するのもよくないわね。早速始めさせてもらっても?」


「もちろんです。よろしくお願いいたします。リータ・ブラン・リアビティ殿下」


「うふふ、よろしくね。シャルル王、せっかくだし腹を割って率直に話しましょう。私は現皇国の皇王を打倒し、私が皇王に即位する気でいるわ」


「……!?…」


いきなりのリタさんのぶっこみにたじろぐシャルル王


しかしベタンクール都督はニヤニヤと笑っている。


この人の性格がだんだんわかってきた。


図太いぞ。


「事前情報である程度推測していたとはいえ、ご本人からその言葉を聞くとやはり驚きますね。して皇国を獲る目的は?正当性は?」


一転して、真剣な目つきでリタさんを見つめるシャルル王


その顔は国民を見据える王の顔だった。


「あなた達も斥候を放っているから知っているでしょう?皇国は…いや皇都は腐り始めている。国を守るべき王族や華族が民を食い物にしている。民が汗と涙を流し、日々の食べ物を得ているのに、彼らは金貨を流し、自分たちだけこの世の春を謳歌しているわ。私はそんな国絶対に認めない」


「……腐敗を正すと?それだけでは少々ありきたりではないでしょうか?」


リタさんの目的を少々小馬鹿にするように言うシャルル王


実際国を背負うシャルル王からすればリタさんの目的は理想論に過ぎないと感じているのだろうか。


「腐敗を正すのは第一段階よ。私の描く国の将来像はもっともっと先にあるわ」


リタさんが描く国の将来像か…そう言えば聞いたことがなかったな。


「それはどのような国でしょうか?」


シャルル王がリタさんに問う。


「すべての人が平等に、公平に暮らす国よ。武術師も魔術師も、華族も平民もね」


「「「!!!???」」」


リタさんの言葉に驚く僕とビーチェ、そしてシャルル王も目を見開いて驚いている。


アウレリオ准将は知っていたのか、平然な顔をしている。


ベタンクール都督は口笛を吹いて軽い感じで関心しているようだ。


「ひゅ~♪『全民平等論』かぁ~女神教の狂信者以外で、それを大真面目に語る人なんて初めてみたなぁ。凄い人だ!リータ殿下は」


「誉め言葉として受け取っておくわ?でも私をあんな実現不可能な夢を無責任に語る思想家達と一緒にしないでね?私は本気でやるわ」


「……可能なのでしょうか?」


シャルル王が恐る恐る聞く。


「可能よ。少なくともその土壌は皇国にはあるわ。政庁や軍の高官には華族しかなれない法律があるけど、高官に昇格する時に自動的に華族身分を付与する制度を15年前に私が作ったの。それ以降は実力さえあれば、身分に関係なく出世できるという文化が皇国に根付きつつある。その象徴が、ファビオ・ナバロ中将とマリオ・バロテイ少将、パオ・マルディーニ少将、そしてここにいるシリュウ・ドラゴスピア准将よ」


リタさんが力強く言う。


高官に昇格する時に自動的に華族身分を付与する制度があるとは聞いたことがあるが、リタさんが作ったのか。


華族社会の中で、よくそんな制度を成立させたものだ、


凄い行動力だ。


「……皇国の若き将星達ですね……我が国にも若き将軍はいますが、彼らほどの年齢だとリクソンくらいでしょう…」


シャルル王は少し羨ましいそうに言う。


「確かに、その価値観がなければ16歳という若さで准将の地位で迎え入れられたシリュウ君の存在は説明がつきませんね、ははは!羨ましいなぁ」


ベタンクール都督は相変わらず軽い感じで応えている。


「まずは華族身分を条件とする法律は全て改正するわ。そしてゆくゆくは華族制度を廃止する。帝国のようにね。各地方の領主は、世襲制の『領主』ではなく、皇王が任命する『知事』に変える。ゆくゆくはこの『知事』は皇王の任命ではなく、その地域に住む民による『選挙』にて選出する制度に変えたいわね」


おいおいおいおいおい!


ど、どうなってるんだ、それ!?


あまりの革新的なリタさんの政治改革に全く理解が追い付かない。


ビーチェも冷や汗を掻きながら、リタさんの発言を注視している。


「…な!…封建制から中央集権への移行のみならず、普通選挙制の導入まで見越しているのですか!?」


驚くシャルル王


「そうよ?何も驚くことじゃないわ、中央大陸ですでにやっている国があるじゃない」


当然とばかりにいうリタさん


そ、そうなの?


そんな先進的な国が?


「……超大国ユナイテッド…」


呟くように言うビーチェ


「……なにそれ…?」


「この烈国大陸より遥か東に位置する中央大陸の覇者『超大国ユナイテッド』じゃ。この世界で確認されているどの国よりも文明が進んでおり、そして武力・財力共に、どの国も太刀打ちできないと言われておる」


「……そんな国があるんだね…でも烈国大陸にはユナイテッドの国の人は見たことがないような…」


「……ユナイテッドはシュバルツ帝国とのみ国交があるようじゃ」


「……世界はまだまだ広いんだね…この大陸の外か……僕には想像もつかないや…」


僕が世界の広さに慄いていたころ、シャルル王とリタさんの話は佳境に入ったようだ。


「……公平…平等な社会…」


呟きながら、リタさんの言葉を反芻しているシャルル王


そのシャルル王の肩に手を置き、諭すように言うベタンクール都督


「王よ、もういいのでは?それに答えなど最初から決まっていたでしょうに」


「…リク……しかし私は…それでよいのか…」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


ベタンクール都督の臣下らしからぬ激に、はっと目を見開くシャルル王


やはり、この2人はただの王と臣下ではない。


ベタンクール都督の激が効いたのか、何かを決意したシャルル王


そしてリタさんに向き合う。


「…私は…シャルル・アルジェント・ボナパルトは、リータ・ブラン・リアビティ殿下が描く国家像に共感する。これからも良き隣人として、この大陸の民のため、手を取り合っていこうではないか」


「交渉成立ね…!…よろしく頼むわよ」


リタさんの描く国の未来に共鳴したのか、シャルル王は笑顔でリタさんと握手を交わす。


「私も平等な国を夢見る王だ。この国は魔術師と非魔術師との分断が酷く、非魔術師への差別意識が根強い。私の代で、魔術師と非魔術師の公式に生じている身分差は撤回することを目指している」


「公式に生じている身分差?」


僕が素っ頓狂な声を上げてしまう。


「シリュウ准将、この国にはね、貴族と平民という身分の他に、『魔術師』としての身分制度もあるんだよ。魔術師身分は最高が1級で最低が14級、その認定制度はかなり細かいので詳細は省くが、全国民に行われる魔術師測定試験をもとに認定される身分さ。これによって市民階級が格付けされる。早い話が魔術師として優秀な人は良い行政サービスを受けられて、そうでない市民は十分な行政サービスを受けられないということが現実に生じているのさ」


僕の疑問に答えてくれるベタンクール都督


それにシャルル王も続ける。


「一見優秀な魔術師を保護する制度に見えるが、魔術師のその才能は遺伝などの先天的な事由によるものが大きい。生まれによって生き方も決定されるなんて不条理だろう?私はそれを変えたいのだ。魔術師でなくても国のために尽くしてくれる素晴らしい国民はたくさんいる……」


悔しそうに手を握り締めるシャルル王


「私はこの国の王だが、まだ自分の足で立てていない王なのだ。後見勢力はプラティニ家のみで、タレイランやピケティは我らとの確執を隠そうともせず、ポアンカレは中立とは聞こえがいいものの、実際は相手にされていないのだ。この場にリクソンしか同席させていないのも、リクソンしかまだ信に値する直臣がいないのだ」


「……私もたいがいだけど、あなたも難しい立場にいるのね…」


「リータ殿下には申し訳ないと思う。せっかく王家と手を組めたと思ったろうに、こんな弱小の王とはな…」


自虐するシャルル王


卑屈だな…王様なのに、そんなに無力なのか


その辺の権力構造の話しは、僕にはさっぱりだけども、シャルル王の悔しそうな思いは伝わってくる。


「リータ殿下、そなたは皇国を二分する戦をするのであろう。その時はボナパルト王家はそなたを支援することを約する。ただ我が王国も一枚岩ではない。最悪、私が望んでいなくとも王国を二分した戦が行われていることも十分に考えられよう。それでもよろしいか」


「問題ないわ。私が欲しいのは同盟相手じゃなくて、同志だから。この理想に共感してくれる同志よ。あなた達が困っている状況で私たちの勢力からの支援が可能ならばもちろん支援するわ」


「ありがとう…!」


再度固く握手をするリタさんとシャルル王


ベタンクール都督とアウレリオ准将もこの結果に安堵しているようで、少し息を吐いていた。


ビーチェは話の内容が衝撃的すぎて、色々ブツブツと呟いて考えている。


そんな考え込むビーチェも可愛いと思っていると……


講堂の外から何かかすかに音が聞こえた…


ガキィイイイン…!


……何だこの音…そして…何かが風を切る音…


ヒュー……


僕は嫌な予感をして、おそらく何かが来るであろう頭上に向かって龍槍を構えて、大きな声で叫ぶ。


「全員机の下に隠れろ!!すぐに!!!」


「え?」

「なに?」

「なんじゃ!?」

「……これは…まずいな…」

「…リタ!伏せろ!」



各々が僕の叫びに戸惑いや理解など様々な反応を見せるが、もう遅い。


ドゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!


凄まじい轟音と共に、講堂の天井をぶち抜いて、それは現れた。


それはこの講堂の全範囲を埋め尽くすほど、巨大な氷の塊だった。


シリュウ「烈国大陸だけでもお腹いっぱいなのにその外の国までは手が回らないよ」


ビーチェ「シリュウのことじゃからいつかは大陸の外へも行くのではなかろうか?烈国大陸編の次は中央大陸編かや?いや東方大陸もあるそうじゃぞ?」


シリュウ「勘弁して…とりあえずあの氷の塊どうにかしないとね」

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― 新着の感想 ―
平等とかの明治維新のネタを何度か他作品で見たことあるけれど、それが全て良いとは思わないんだよな。 リタは皇国を公国に変える気でしょうか。 フランスの王国に亡命したらいいと思う。
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