第15話 アウレリオの事情
烈歴98年 5月25日 海軍旗艦船「リアリ・バルカ」号 船上
サザンガルドへ帰還するシルベリオさん達を見送った僕らは、翌日王国に向かう船の上にいた。
午前中は、海軍本部にて皇王様から皇妹殿下ことリタさんに親書を渡す儀礼をしていた外交使節団壮行会が行われた。
皇王様の挨拶とリタさんの演説を経て、僕らは王国へ向かう船へ乗り込んだ。
使節団の方は、旗艦船のガレオン船「リアリ・バルカ」号と、その護衛船である海軍のガレー船、第一艦隊1番船から4番船に分散して乗船するようだ。
皇妹殿下とその近衛隊は、リアリ・バルカ号に(長いからバルカ号か旗艦船って皆言っている)、乗船している。
実務者レベルの外交官はガレー船の方に乗船しているようだ。
また僕は使節団100人で、皇軍の近衛隊が50人、海軍はパオっちの部隊50人、僕の部隊30人、旗艦船の部隊200人、ガレー船それぞれに50人で、小計200人、総勢630人と思ったが、これに加えて、航海を支える航海士や船医、武装の手入れをしてくれる鍛冶師、料理人や商人も乗船する。
僕が乗るリアリ・バルカ号は、下手な華族の屋敷よりも全然大きく、旗艦船はさながら小さな街を1つ乗っけたようだった。
ちなみに僕とビーチェに割り当てられた船室は、本当にリタさんの船室の近隣だった。
僕達の船室の隣には、パオっちとリアナさんの船室があり、その隣にはアウレリオ准将の船室があるようだ。
ちなみにパオっちとリアナさんの船室は別々に割り振られているが、リアナさんがパオっちとの同室を強硬に主張したため、リアナさんに割り振られた部屋は空き室となり、予備の医務室となるそうだ。
リアナさん強い。
「リタさん…ほんとに権力振りかざして、僕らを近くに置いたんだね…」
「あの方はやると決めたらやるお方じゃ。どうにもなるまいて」
僕とビーチェは、甲板で潮風にあたりながら、雄大な海を2人で眺めていた。
すでに出航してから数時間が経っており、僕達海軍は航行のため働いている人達を除けば手持ち無沙汰状態だ。
使節団の方は、王国と帝国との会談の最終確認に忙しいらしく、リタさんもその指揮を執っている、
ダニエル中尉からも指示を仰がれたが、特に指令は下りていないので、僕の部隊の人は好きに過ごすようにと指示を出している。
これから長い航海になるのだ。
夜番もあるだろうし、休めるときに休んでおいて欲しい。
「そう言えば、メディチ公爵が追加してくれた物資って何だったの?」
僕は思い出したように、ビーチェに聞いた。
「どうやら食料のようじゃよ」
「食料?それって十分に積み込んだんじゃない?」
「航海計画では、行きの分だけ積み込み、帰りの食糧は帝国や王国に帰港した際に、補充する予定じゃったそうじゃが、フランシス中将は念のため、帰りの分も積み込んだらしい」
「へぇ~帰りに王国や帝国に帰港できないかもしれないって考えたのかな」
「今回は宣戦布告するわけではないじゃろうし、危険性は低いじゃろうが、フランシス中将は念のためにそうしたようじゃ。それにメディチ公爵から存分に予算をもらったから、良い食料が多く積まれておるぞい」
「おお、長い船旅だけども、食事に困らないのは嬉しいね。特にお肉とか」
「それも大量に積まれておるぞ。良かったのう」
「まぁなかったらなかったで海の魔獣を狩ってくるだけなんだけど」
「……それをサラッと言えるのはシリュウだけじゃろうて…」
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王国への航海はびっくりするぐらい順調に進んだ。
まず僕があまり船酔いしなくなったのだ。
これは旗艦船が非常に大きい船のため、ほとんど揺れないのと、天気が良好なため、波も大きくないのも大きかった。
それに僕も海軍に入って、何回か日帰りの近海航海をしていたおかげで、船上に慣れていた。
初めての船ではあんなに地獄を見たのに、人間不思議と慣れるもんだな。
道中の魔獣もそこまで大したことがない魔獣ばかりで、部下の兵士が体が鈍らないようにと積極的に戦闘していた。
僕も参加しようとしたが、ダニエル中尉からは「魔獣がかわいそうです…」となぜか魔獣の立場に立たれて止められた。
解せぬ。
初めての日を跨ぐ航海だったので、僕も夜番をやってみた。
夜番は、深夜中も航行を行う船の進行方向や周囲を警戒する役割だ。
ダニエル中尉からは「将校がやる仕事ではありませんよ…」と制止されたが、海軍兵士としては僕は新人なので、海軍兵士としての基本的な仕事を一通り見ておきたかったので、当番の兵士と共に一晩ともに寝ずの番をした。
当番だった兵士とは雑談もして、打ち解けたこともあって、有意義な時間だったと思う。
そんなこんな海軍兵士としても仕事を学びつつ、順調に航海を行っていた。
そしてある晩に、リタさんから話があると言うことで、船内にある会議室のような部屋へビーチェと共に行っていた。
そこにはリタさんの他に、アウレリオ准将とスーツを着た壮年の男性、そしてパオっちとリアナさんがすでに着席していた。
「シリュウちゃん!いらっしゃい!さぁさぁお座りなさって!」
「こ、皇妹殿下、参上するのが遅れてしまい申し訳ありません」
僕がそう言い、ビーチェとともに待たせてしまったことに対して頭を下げる。
「あらやだ、ここはもう畏まらなくていいわよ?身内しかいないし」
身内しかいない?
どう言うことだろう?
パオっちとリアナさんは僕達にとっては身内のようなものだが、アウレリオ准将とは会話もしたこともなく、むしろアウレリオ准将がビーチェに求婚していたことで因縁めいたものを僕は勝手に感じている。
そしてそこのスーツを着た男性は初対面だった。
僕が誰だろうとその男性を見ると、男性はにこやかに笑いながら、自己紹介してくれた。
「お初にお目かかる。私はライモンド・フォン・サルトリオだ。外交大臣にして、侯爵の地位を賜っている。今回の外交使節団の責任者を任されてしまった哀れな男だよ」
「なによ。まるで貧乏くじ引いたみたいに。私に付き従って王国と帝国と外交できるなんて涙が出る程の栄誉でしょう?」
「おお、皇妹殿下のおっしゃるとおり、自分が不憫すぎて涙が出そうです…」
リタさんの突っ込みに、役者が演劇をするような口ぶりで、答える。
外交大臣にして侯爵…アンブロジーニ侯爵と同格の人だ。
軍で言えば大将相当の人になるほど尋常じゃなく偉い人だな。
「こちらこそ初めまして。皇国海軍准将のシリュウ・ドラゴスピアです」
「噂はかねがね聞いているよ。君も皇妹殿下の被害者だったね。皇妹殿下の御指名により今回の護衛団に選ばれてしまったのだ…私たちはいわば同志…!皇妹殿下被害者の会を共に立ち上げようぞ!」
そういって、さらに大仰な演技で僕に手を伸ばすサルトリオ侯爵
………この人、本当に外交大臣?
「ちょっと!シリュウちゃんが私の被害者なんて、そんなわけないでしょ!シリュウちゃんを困らせることなんてしないんだから!」
ん?ん~?
それは聞き捨てなりませんよ?
リタさん
むしろ困った回数の方が多いです。
お茶会の直前招待に、浴場への突撃、同衾指令など、余罪はたくさんありますよ?
リタさんとサルトリオ侯爵の掛け合いを見て、話しが進まないと思ったのか、アウレリオ准将が会話に割って入った。
「皇妹殿下、お話があるのでしょう?さっさと終わらせましょう。私は海軍…ましてや庶民の人間と同じ空間にあまりいたくはありません」
居丈高にそう言うアウレリオ准将
その言い振りに、リアナさんが少しむっとしている。
パオっちは気にしていないのか、リアナさんのお腹を揉み揉みしている。
何してるんだよ…今はやめときなさい…部屋に帰ってからしなさい。
ビーチェもあきれ顔で「こやつ変わっておらぬのう…」と呟いている。
僕もその言い振りに少し腹が立ったが、リタさんが意外な言葉で制した。
「リオ…それもういいから。あんたはこの任務を成功させて、ベラルディから独立するんでしょ?なら無駄に敵を作ることはもうやめなさい。シリュウちゃん達はあんたの味方になってくれるわ」
「……こ、皇妹殿下…!?」
驚くアウレリオ准将
しかしその言葉の意味はわからない。
どういうこと?
ビーチェもリアナさんも僕と同じように疑問符を頭に浮かべている。
パオっちは相変わらずマイペースに、今度はリアナさんのお尻をさすっている。
リアナさんに怒られるぞ……と思ったらリアナさんも満更でもない顔をしている。
だめだ…このバカップル…早く何とかしないと…
「……愚かな公爵家に生まれた哀れな男児の喜劇な悲劇……それを終わらせる時が来たんだ」
サルトリオ侯爵の言ってることで、更に混乱した。
誰か説明してくれ
「……失礼ながら、アウレリオ准将は庶民の方に対して、非常に厳しく接しており、また華族でないと冷遇することもままあると妾は聞き及んでいます。いえ、実際に目の当たりにしたことも多々ありますが……それは偽りの姿であったと…?」
ビーチェが恐る恐る聞いた。
するとアウレリオ准将の代わりに、答えた。
「そうなのよベアトちゃん。この子ベラルディの飼い犬みたいなものでね、主人を欺くためにそう演技しているだけなの。そうしないと実家でほぼ人質状態になっているリオのママが酷い目に遭うかもって怯えてるの」
「…ちょっ…!リタ…!?……そんなことまで…言うのか!」
「当たり前でしょ。この先私達にシリュウちゃん達の協力は必ずいるわ。信頼してもらうには、こっちから腹を割らないといけないじゃない?」
「……はぁ…もう好きにしてくれ……済まなかったな…君たち…」
「い、いえ……何が何だかわかりませんが…」
僕は相変わらず自体が呑み込めていないが、ビーチェも同様だった。
「……アウレリオ准将はベラルディ公爵分家の4男…それに母君は第二夫人の方では…?確か伯爵家の出身のはずで、人質になるような立場の方ではないはず…」
「………まぁ一から話すよ…まず僕の母はベラルディ公爵分家当主の第二夫人ではない」
「「「「!!??」」」」
僕とビーチェとリアナさんは目を見開いて驚く。
さすがのパオっちも予想外の告白に、驚いた表情で、アウレリオ准将の顔を見た。
「……僕はベラルディ公爵の隠し子さ…母は公爵家に奉公していたメイドだった…が…若干13歳の時に僕を産んだのさ」
シリュウ「てかパオっちはなんでリアナさんのお腹を揉み揉みしたり、お尻をさすっているのさ。それも皇妹殿下の目の前で」
パオ「にー。なんだかリアナは朝から調子が悪そうだろん。特にお腹とお尻を痛そうにしているから痛みを和らげようとさすっているにー」
ビーチェ「リアナ……それって……」
リアナ「……違うの……最初はそうだったんだけど…パオから触れてくれるなんて嬉しくて…痛みが引いても治ったって言えなくて…」




