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第2話 謁見の感想会


皇王様との謁見を終えた僕らは、セイトに滞在している拠点であるサザンガルド家セイト政務所の屋敷に戻って来た。


僕とビーチェ、シルベリオさん、アドリアーナさん、シルビオさんの5人とも謁見用の礼服から普段着に着替えて、少し遅めの昼食を取りながら、謁見の感想を語り合っていた。


「どうじゃった?シリュウよ、皇王様との謁見は」


隣に座っているビーチェが僕にさっそく謁見の感想を聞いてきた。


「なんか思ったより気さくな方だったね。華族の頂点に立つ方だから、無礼を働いたら切り捨て御免されると思ってたからさ」


「はっはっは!そんなのは物語の中だけじゃろうて!今代の皇王様は温厚な方じゃからのう」


「そうなんだね。帝国への侵攻に賛成してるからもっと過激な方だと思っていたよ」


「確かにのう…それは妾も不思議に思っているのじゃ」


僕とビーチェが実際にお会いした皇王様と侵攻に賛成している点があまり合致しないと感じ、不思議に思っていると、じいちゃんが僕らの会話に入ってきた。


「それはのう、どうやら皇都の華族達の入れ知恵らしいのじゃ」


「皇都の華族…?」


僕が頭に疑問符を浮かべているとシルベリオさんが解説してくれた。


「皇国を代表する6大華族は知っているな?ノースガルド家、タキシラ家、サザンガルド家は都市を預かる領主華族だ。あとは皇都のベラルディ家、パッツィ家、そしてメディチ家だ」


「聞きなれない名前ですね…覚えられるかな…」


「まぁ、知っておくにこしたことはありんせん。シリュウが覚えてなくとも妾が知っておるから心配するでない」


ビーチェが何気なく言う。


そういう政治情勢とか全くわからないし、立ち回りとかもできないからビーチェに任せることになるだろう。


相変わらず頼りになる奥さんである。


「して、コウロン殿、皇王様に入れ知恵している華族とは?」


シルビオさんがじいちゃんに問う。


「ここ数日皇都で情報収集したところ、どうやらベラルディ家とパッツィ家のようじゃ。メディチ家は侵攻に反対の立場を取っておった」


「…ベラルディとパッツィね…想像通り過ぎて驚きもないわね」


アドリアーナさんが半ば吐き捨てるように言う。


嫌いなのかな、このベラルディとパッツィとかいう華族が。


「そんな想像できるものなのですか?」


僕がアドリアーナさんに聞く。


「そうね、シリュウさんは華族事情にまだ疎いのよね。簡単に言うと華族にも「格」があるのよ。一番大きな指標は皇家から賜る爵位ね。サザンガルド本家当主のシルベリオ義兄さんは侯爵で、うちの人は伯爵の爵位を賜っているわ。ちなみにシリュウさんはドラゴスピア家の当主になったから子爵になっているわ」


爵位 


華族の序列を格付けする最たるものだ。


一番上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士爵の6つがあると聞く。


領地を賜るのが、子爵からだったかな。


男爵は領地は賜らないが、俸禄はもらえたはず。


騎士爵は、皇国軍で将校の地位を賜る際に付随してもらう華族の爵位らしい。


皇国軍の将校は華族しかなれないという決まりがあるが、この騎士爵を賜ることで、実質的に庶民でも将校に昇格できる仕組みになっている。


「そしてベラルディとパッツィ、メディチの3家はいずれも公爵で、一族に皇族の血が入っているのよ。だから華族としての格はこの3家が最高なわけなのよ。この3家はまとめて『御三家』と呼ばれるわ」


「しかし実際は、サザンガルド、ノースガルド、タキシラは侯爵家ではあるものの、皇国の大都市を統治しているゆえに、華族としての力は、御三家に引けに取らないため、御三家にサザンガルド、ノースガルド、タキシラを加えて、6大華族と称されるのさ」


アドリアーナさんとシルビオさんが合わせ技で説明してくれた。


「そこでさっきの『パッツィとベラルディが帝国への侵攻に賛成していることが想像できた』ことに戻るわね。まず御三家と括られるけども、華族としての力は、御三家の中ではメディチが頭2つくらいは抜けているわ」


「え!?そうなんですか?同じ公爵家でもそんなに差が?」


アドリアーナさんの発言に僕は驚く。


「そうよ。まずメディチの財政力は皇国屈指よ。メディチ家はカイサの商人達を完全に取り込んでいるから。芸術に理解があって、新規事業に惜しみなく投資するメディチ家の政治スタンスにカイサの商人達はもうゾッコンなのよ。あそこの当主は豪快で人間的にも好感が持てる人よ」


「へぇ、アドリアーナさんはメディチ家のご当主と会ったことがあるのですか?」


「会ったことがあるもなにも、私の伯父だからよ?」


「え!?」


アドリアーナさんはメディチ家の一族なのか!


「シリュウには言ったことがなかったかや?母様はメディチ分家の長女じゃよ。母様の御父上の兄がメディチ家の現当主じゃよ」


「ほぇ~…初めてお会いした時から上品な方だと思いましたが、皇国屈指の華族の令嬢だったのですね…納得…」


「あらやだ、褒めても何も出ないわよ?まぁ話を戻すとメディチ家が御三家の中で抜きんでているからベラルディとパッツィは面白くないわけね。そこでその二家は巻き返しのために戦争を起こそうとしているのよ」


「…??…華族として力が負けているから戦争を起こす…??」


僕が頭に更に疑問符を浮かべているとシルベリオさんが答えてくれる。


「簡単な話だ。ベラルディの基幹産業は鉄鋼業、パッツィは農業、それも麦の穀倉地帯を有している。鉄に麦…どちらも戦争にはなくてはならない物だ。戦争が起こるとこの二家は儲かるのだよ」


「…でも戦争ですよ?人が死に、土地が荒れる…自分が儲かるために戦争を起こすなんて…理解できないや…」


「シリュウ殿の全くもって言う通りだ。戦争によって死ぬのは我が領邦軍の兵士であり、荒れる土地は我が領民の住む場所だ。皇都でぬくぬくと肥え太っている奴らが自らの私腹を肥やすために戦争を起こすなど領主としては腹が煮えたぎる。戦争の度に、前線都市の復興費用を投資してくれるメディチ家の爪の垢でも煎じて飲ませたいものよ…!」


シルベリオさんが歯軋りをしながら、怒ったように言う。


それもそうだ。


シルベリオさんは王国との前線の拠点となる軍都サザンガルドを預かる領主なのだ。


自らの私欲のために、戦争を起こされてはたまったものではない。


「つまりベラルディとパッツィは戦争が起こると儲かる産業を持っているから、帝国への侵攻を皇王様に入れ知恵して起こそうとしている…と…」


僕がそう整理するように呟く。


「ちなみに陸軍もじゃな、こちらは別の理由がありそうじゃが…」


ビーチェが補足する。


確かにパオっちに見せてもらった『円卓会議』の内容から陸軍は侵攻に賛成派だった。


するとじいちゃんが端的に答えを示す。


「それは簡単な話じゃよ。陸軍大将アレス・デルピエロはノースガルドよりも更に北東、帝国との国境沿いの山村出身じゃからじゃよ。帝国の侵攻に晒され続ける過酷な幼少期だったそうじゃ。帝国との戦いにおいてはアレスより強い想いを持っている者はこの国にはおらぬじゃろうな」


「……デルピエロ将軍にそんな過去が…」


「アレスと共に何度も帝国との前線に立ってきたからわかるのじゃ…あれは憎悪や復讐という単純なものではなかった…そうじゃな…帝国を倒すというより、帝国から取り返すという想いが強いのじゃろうな…」


故郷が今は帝国の統治下にあるのだろうか。


でもその気持ちは僕にはすごくわかるな。



じいちゃんの情報収集した皇都の事情とアドリアーナさんとシルベリオさん、シルビオさんの持つ華族事情から帝国の侵攻への背景が大体詳らかになった。


帝国の侵攻に賛成する勢力はパッツィ、ベラルディと陸軍


パッツィとベラルディは帝国の侵攻による鉄と麦の需要増を狙っている。


陸軍は大将のデルピエロ将軍が帝国への侵攻に積極的である。



そして『円卓会議』にて帝国への侵攻は賛成で可決されている。


侵攻の準備に数か月から1年はかかるだろうからすぐには軍は興らないと思うけど、さっきの謁見で大将同士の合意があれば陸軍、皇軍にも僕が派遣されることもあるそうだから、僕が帝国への侵攻に参加することも全然あり得る。


身を引き締めないとね。



でも


「謁見で気になったところがまだ2つあるんだ」


「2つも?なにかや?」


「1つはアウレリオ准将のことだよ。ビーチェに執拗に求婚していたそうだから、いきなり現れてビーチェと結婚しようとする、僕のことをてっきり目の敵にしていると思っていたんだけど、目が合った時に目を逸らされたんだ。それも何か申し訳なさそうに」


「…申し訳なさそうに?確かかや?」


「……うーん…表情の読み取りが確実とは言えないけど、少なくとも負の感情じゃなかったことは確かだよ」


「…確かに謁見の時は何も発言せずに、奇妙じゃったのう…舞踏会の時はしつこいくらいに妾に話しかけていたのに、あの謁見の時にはまるで妾には興味がなかったかのようじゃ…」


ビーチェも違和感を感じていたのか。


アウレリオ准将……謎の人物だな……


可能であれば、会って話がしてみたいと思った。


「…こればっかりはアウレリオ准将に直接話して聞くしかないか…」


「そうじゃな、あと1つ気になっていることは何かや?」


「……えーと…あの皇妹殿下のことかな…」


僕がそう切り出すと、皆一斉に目を見開いて僕を見た。


「えっ!?何か変なことを言いました…か…?」


僕が驚きながら聞き返すと、シルベリオさんが僕に言う。


「いや…逆に聞くが、シリュウ殿は皇妹殿下をどう見た?初めて会ったシリュウ殿の率直な意見を聞いてみたい」


シルベリオさんがそう言うと、アドリアーナさん、シルビオさん、ビーチェもうんうんと頷いている。


じいちゃんは腕を組んで、黙している。


「…率直に言いますね…?もしかして皇妹殿下って…独特な方と言うか…なんかどっか外れているような感じがしましたね…ビーチェも破天荒な方だと思っていたけど、数言しか喋っていない皇妹殿下の方がよっぽど破天荒に感じました…」


僕はおずおずと皇妹殿下の感想を言うと、皆一様に頷いている。


だよねーって顔している。


「…シリュウ殿から見てもそうか…いや皇妹殿下は中々独特な方でな…悪い方ではないんだが…」


シルベリオさんが歯切れが悪そうに言う。


「まぁ妾も皇妹殿下には敵うまいと自分でも思うのじゃ。五街道を混凝土で整備しようと建議したのが皇妹殿下だそうじゃ。当時はなんて非常識な事業じゃと華族を中心に批判の嵐だったそうじゃが、結局やりきってしまわれた。整備のおかげで街道の移動時間が大幅に短縮され、商人を中心に絶賛じゃったそうじゃ」


「それって先見の明があったってこと?」


「そうなのよ。一部の知識人からは皇妹殿下は先見の明がありすぎて、時代が追い付いていないと言われているわ。でも街道の整備は成功した事業だけども、皇妹殿下の建議で失敗した事業もまた多くあるわ。偶に大成功して、失敗も多くある…非常に評価に困るお方なのよ」


アドリアーナさんが困ったように言う。


「行政の立場からすれば、皇王様の妹と言う立場の方が、思い付きのように事業を興されるのはたまったものではないだろうな。しかもそれが偶に大当たりする…皇妹殿下は商人や学者界隈からは非常に高い評価を得ているが、政庁の役人や皇都華族は毛嫌いしているそうだ。しかしあの美貌ではっきりとした物言いや人当たりの良さで庶民からの人気も高いのさ」


シルビオさんの説明で皇妹殿下がどんな方か大体理解できた。


「そして皇妹殿下の背後にはメディチ家がいるのだ。メディチ家は皇妹殿下の後見人を自称するほど皇妹殿下に入れ込んでいる。皇国最大の華族が後見しているため皇妹殿下の発言は誰も無下にはできないのだよ。もちろんサザンガルド領主であるこの私もな」


「ほえー…聞けば聞くほど破天荒な方ですね…」


「…でも一番破天荒な逸話を聞くとびっくりするのじゃ」


ビーチェがニヤニヤしながら僕に言う。


「これだけ話を聞いているとそんなに驚けるかな?どんな逸話?」



「くっくっく…皇妹殿下には娘が1人おるのじゃが…」


「おるのじゃが…?」



「父親は不明じゃ。ヘスティア神国への留学から帰って来た時に赤子を抱いて帰ってきたらしい」



「へっ…えええええ!」


いや留学中に子供作って帰ってくる!?


それも父親不明!?


華族どころか一般家庭でも勘当必須のやらかしじゃないか!


それも皇族の一員がぁ!?


「当時は皇宮どころか皇都、いや皇国中がひっくり返ったわよ…父親は誰か、どんなに問い詰めても皇妹殿下は明かさない。皇宮も拾い子だと疑ったのだけれども、血族判定機でその娘を調べると、確かに皇妹殿下の血を引いていることが確認されたの…つまり皇妹殿下は間違いなくどこかの男性とその子を成したの」


と、とんでもない行動力だな…皇妹殿下


「その逸話からわかるように、皇妹殿下は自分でこれと決めたことは必ず貫徹するお方だ。ある意味で皇王様より存在感がこの皇都であるやもしれんな」


シルベリオさんが遠い目をして言う。


何か過去に迷惑を被ったのだろうか…


「まぁ私から皇妹殿下に関わる時の助言をしておくわ」


アドリアーナさんから金言をいただく。


メディチ家出身で、皇都の華族事情に明るいアドリアーナさんの助言だ。


しっかりと胸に刻もう。












「皇妹殿下と関わらないこと」







ぇぇ……向こうから絡んできたら無理じゃん……




シリュウ「関わらなければどうということはない」


ビーチェ「フラグがすぎるのう…」

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