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最終話 船出は最愛の人と共に


僕だけでなく、ビーチェも共に海軍に勧誘するというパオっちの提案に乗ることにした僕とビーチェ


パオっちはその返事を聞いて足取軽く去っていった。


その姿とは対極に、レアさんはフラフラとした足取りで病室を後にした。



「……妾が言うのもなんじゃが…本当に良かったのかや?」


「…ん?どうしてそう思うの?」


「……シリュウの志は戦乱の終結じゃろう?なら皇王様に近い皇軍や侵攻を是とする陸軍の方がその志を果たせると思うて……今更じゃが……」


「なんだそんなことか、大丈夫だよ。僕は戦乱の終結を目指しているけど、別に帝国や王国を滅ぼしたいわけじゃないから」


「……つまり統一ではなく和平交渉で終結すると?」


「それも1つの手段だとサトリの爺さんから学んだ。不思議だったんだよ。こんなに100年近く戦争はしているのに各国間で貿易は続いているのだから」


「……確かに…つまりシリュウは海軍に入隊することで他国を知ろうと?」


「ビーチェが入りたそうにしてるのが1番だけどね。でも航路を守護し、貿易船の護衛もしている海軍は他国に行くこともあるとパオっちが言っていたからね。良い機会だと思った」


ここ数日パオっちが海軍の仕事について教えてくれて、その中で1番僕の気を引いたのが任務で帝国や王国という他国にも行くことだ。


この烈国での争いはほとんどが陸戦であり、海戦での記録もあることにはあるが、陸戦に比べればかなり少ない。海軍は各国とも保有はしているが、現在では海賊から民間船を守ることが主な任務になっているそうだ。


そして海で遭難や難破すると、国籍関係なく救助するのが海の掟なのだそう。


その文化もあり各国間の海上での関係は基本的に友好的で、他国の港町に行っても、針の筵にはならないのだとか。


皇国でもカイサには王国の人間が、タキシラには帝国の人間が、多少なりとも出入りしているようだ。


つまり海軍に入ることで帝国と王国をよく知ることができると僕は考えた。


そして他国を知り、和平を結ぶべき友人か、滅ぼすべき敵かを見定めたい。


まだまだ知らなければならないことがこの世には多すぎるのだ。


「まぁビーチェと大陸を駆け巡るのも楽しそうだしね、ついてきてくれる?」


「もちろんじゃて……妾の愛しい旦那様……」


そう言って僕らは見つめ合いどちらからともなく顔を近づけ、その距離を零にした。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




その次の日、僕が海軍への入隊の意思を示したことで、海軍大将のゾエさんと中将のフランシスさんがパオっちとともに病室へ訪問してきた。


「お前さんよお!よく海軍に入るって決断してくれたねぇ!歓迎するさね!」


「………君ほどの人物が海軍に来てくれるなんて……参謀としても嬉しい限りだ……」



豪快に笑うゾエ大将と弱々しくもはっきりと伝わる喜色を含んだ声色で言うフランシス中将


パオっちは後ろで両手でvサインをしている。



「いえ、こちらこそよろしくお願いします。それにしてもビーチェも一緒になんて中々凄いことを思いつきましたね。僕もビーチェも驚きましたが、決め手になりましたよ」


「あ〜それはフランシスの提案さね。お嬢ちゃんの慧眼に目をつけたのさね」


「……それだけじゃない…実は鉄甲船の売却の交渉の際にシルビオ・フォン・サザンガルド氏からベアトリーチェ嬢のことを聞いてね……海が好きだと聞いたんだよ……これは海軍にうってつけの人材だと…… 」


「……いやはや流石はフランシス中将…妾の泣きどころを突かれてしまいました…」


「……そんなつもりはないさ…僕としても2人のことを考えた結果の提案さ…君たちは仲が良い夫婦のようだし、離れるのは辛いだろう?……その気持ちはよくわかるからね…」


意外だった。


海軍の参謀ともあろう方が好きな人と一緒にいられない辛さに共感してくれるなんて


僕もビーチェも目を見開いて驚いていた。


「……フランシス中将にも奥さんがいるのでしょうか?」


ビーチェがフランシス中将に聞くと、ゾエ大将が当然のように言う。


「何言ってんだい?ここにいるじゃないか」


「……え?」


ゾエ大将の言うことを飲み込めていない僕もビーチェでも、この場にはビーチェとゾエ大将しか女性はいない……つまり……



「お二人って夫婦だったのですか!?」


僕が驚きつつも尋ねる。


「あれ?言ってなかったさね?」


「聞いてないですよ!?でも姓が違いますよね!?」


「……僕の本名はフランシス・ブロッタ、いつも名乗っているトティは僕の実家のものだよ。その方が色々都合が良いからね……」


「……やはりあのトティ商会でしょうか?」


ビーチェがフランシス中将に聞く。


「……サザンガルドの者なら流石に知ってるか…」


「ビーチェ、知ってるの?」


「……トティ商会はカイサの大商会の1つで、カイサを仕切っておる合議制組織『会合衆』の構成員の1つじゃ。商都カイサにおける支配者の一角じゃろうて」


ほぇー そうなんだ。


そして相変わらずのビーチェの博識ぶりに感心する。


「……僕は元々商人なんだよ……けどゾエさんと出会って海軍に入って…結婚したってわけさ……」


「こいつはこう見えてなかなかの火属性の魔術師でねぇ!それを見越して勧誘したんだが、裏方も優秀で側近に取り立てたんさね!しかも料理や掃除とかアタシが苦手の家事も得意でねぇ、公私ともに手放せなくなったのさね!はっはっは!」


すごい話だな。


それに僕とビーチェが夫婦で入隊して、公私混同だと非難の目で見られることも覚悟していたが、No. 1とNo.2が夫婦なら、なんか大丈夫そうだ。



「……だから入隊しても大丈夫だよ…2人はずっと同じ船にのることになるだろうね…」


「それはありがたいんですが僕の階級って…」


「お前さんは『准将』さね、お嬢ちゃんは『少尉』さね」


うっそだろ!?


准将ってなんだよそれ…


「……僕高すぎません?ビーチェと逆でいいですよ…」


「何言ってるさね!それにいきなり艦隊を率いるわけじゃないさね!」


「そうなんですか?」


「……海軍は大まかに2種類の役割がある…戦闘員と航海員だ…戦闘員はその名の通り戦闘を主にする。航海員は船の航海や船の整備、造船などを担当する海の専門家だ……シリュウ殿は戦闘員としての役割を期待しているんだ…もちろん…両方ができるに越したことはないけどね…」


フランシス中将が説明する。


なるほど 確かに海のことを知らない僕がいきなり艦隊なんて率いることは土台無理だ。


それは専門家達に一任して、戦闘を頑張ればいいのか。


「いずれは戦闘員も船について学んでもらうさね。それに准将という地位もやりすぎじゃないさね。パオと共に最前線で戦うんだからね」


「そうなんですか?」


「そうするつもりさね。お前さんはパオと共にいる方が、お前さんを活かせるし、パオもお前さんがいることで、最大限の力が発揮できるだろうね」


「……オイラとシリュウっちは最強……無敵…!」


「……シリュウ殿はパオと同じ役職の『特務武官』として配置する予定だ……パオは海戦では無類の強さを誇るが、魔力耐性がある敵に対しては打つ手がなく、また白兵戦になるとパオが討ち取られる可能性も出てくる。ここを補強するための武術師のシリュウ殿なんだよ…」


なるほどね


僕の役割はパオっちの弱いところを補うということか。


でもまた知らない言葉が出てきた『特務武官』ってなんぞや


そもそも海軍の組織自体あんまり知らない。


入隊すると決めているのに、何て情けないことだ。


「……海軍の組織についてご説明いたただいても?」


僕はおずおずと手を挙げて聞く。


そしてフランシス中将が説明してくれるようだ。


「…もちろんだよ…少し長くなるよ……まず海軍には基地が3つある…セイトにある『海軍本部』と『カイサ支部』と『タキシラ支部』だ……これらの基地で勤める人達は俗に『内勤』と呼ばれる。それと対になるのが、艦隊に所属して、実際に海上での任務をこなす『外勤』と呼ばれる船員達だ……シリュウ殿は…艦隊に所属してもらう『外勤』になる……最も『内勤』の者は文官か、怪我等で『外勤』ができなくなった者、家族を優先して安定した生活を求めた者が中心だ。海軍の花形は『外勤』の艦隊所属だよ……」


なるほど


海軍と言えども、船上で働く人だけでなく、それらを支える人達も当たり前だけどいるのか。


「おおよそ『内勤』は4千人くらいさね。海軍本部が2千人くらいで、各支部が千人くらいさね。『外勤』は第一艦隊から第三艦隊まで全部含めて6千人くらいかね?海軍は大体1万人くらいさね」


「そ、そんなにいるのですか!?すごい……」


あまりの人数の多さにびっくりする。


そして目の前にいる3人はその大組織を率いる3将なんだな…


改めてとんでもない人達を接しているのだと畏れ多くなる。


「そんなことないさね。陸軍は10万人くらいいるからね。皇軍は精鋭で数が絞られているから5千人くらいかね?」


「……妾は意外と少ないと思うたのじゃ。サザンガルド領邦軍でも3万はおるからのう。内勤を除けば戦力は6千人しかおらぬ…王国と帝国と事を構えるには少ないと感じるのじゃ…」


「…はっはっは!正直な嬢ちゃんだねぇ!…でも嬢ちゃんの言う通りさね。本当は船と『外勤』の人数を増やしたいんだが、海に出す人の育成には時間がかかるのさ。あと国家間の海戦は戦闘員の頭数の勝負じゃないさね…」


「……魔術師ですかや?」


ビーチェが確信を持って聞く。


「そうさね。それも質だよ。1人の圧倒的な魔術師が数千人が乗った艦隊を沈めるなんて珍しい話じゃないさね。そしてうちにはパオがいる。実は魔術大国の王国でもパオ程の魔術師はそうはいないさね。そして王国は帝国との戦争に必死だから、優秀な魔術師はそっちにいくさね。だから王国海軍にはそこそこの魔術師はいるが、パオには敵わない。ここ数年王国との海域が安定しているのは、パオの抑止力が大きいさね」


う~ん すごいな パオっち


だから僕をパオっちと共に置きたがるのもわかる。


「…パオっちは戦略を左右するほどの魔術師ってことですね…」


「…そのとおりだ……パオがいなければ戦略を根本から見直すほどの戦力だ……そしてこちらは何よりも守らなければならない人物……ゾエさんよりもね……」


おっとその発言は参謀としては正論だけど、夫としてはどうなのだ。


しかし当のゾエさんは爆笑している。


「はっはっはっは!相変わらず面白いねぇ、アンタは!…その通りさね…アタシの命とパオの命ならパオの命の方が重いさね!」


特に否定もせず、そして不機嫌になることもないゾエ大将


まぁお二人は夫婦なのだから、お互いにツボがわかっているんだろうな。


いい夫婦だと思う。


「……話を戻すよ…『外勤』の艦隊は第一艦隊から第三艦隊がある…セイト所属の第一艦隊…カイサ所属の第二艦隊……タキシラ所属の第三艦隊だ…シリュウ殿はパオと同じく第一艦隊に所属する『特務武官』としての役職をお願いする予定だ…」


「なるほど。あと階級と役職って違うのですか?」


僕は初歩的だろうけども、聞かずにはいられなかった。


「『階級』はあくまで位さね。実際の仕事内容は『役職』で決まるさね。例えばアタシは『大将』で役職は『海軍長及び第一艦隊総督』さね。そしてフランシスは『海軍本部長及び第一艦隊参謀』さね。パオは『第一艦隊所属特務武官』って感じさね」


ゾエ大将が説明してくれる。


階級の他に、実際に任せられる仕事を明確にした役職があるのか。


「じゃあその『特務武官』って言うのは?」


「戦闘員の中で特に戦闘に優れたものには『武官』の役職を授けるさね。戦闘における位と思ってくれていいさね。簡単に言うと『戦闘がめっちゃできる人』さね。『武官』は一番上を『特務武官』として、『一級武官』から『三級武官』まで定めているさね。海軍全体では『特務武官』はパオしかいないがねぇ」


特務武官って、6千人もいてパオっちしかいないのか!?


「……それって僕に勤まります…?」


不安になりながらゾエ大将に聞く。


「何言ってるさね!十分さ!特務武官の任命目安は色々あるが、Sランク魔獣の討伐もその1つさね!あんたは、特務武官の資質をもう示したんだよ!」


う~ん でもパオっちと協力しての討伐で、僕一人の力じゃないからなぁ…


「……どうせ自分1人の力じゃないから…とか考えてるんじゃろ?」


ビーチェに心を読まれる。


思っていたことそのまま言い当てられて僕はびっくりする。


そんなに僕のことわかってくれるなんて。好き。


「……よくわかったね…?」


「シリュウのことなら何でもわかるのじゃ。それにSランク魔獣なぞ2体目じゃろう?十分にその資質を示しておるよ」


「…へぇ!噂には聞いていたがエクトエンドの皇帝猪を狩ったってのも本当なんだね?」


「…事実でございますよ。討伐の現場には妾もいて、しかとこの目で見ておりますゆえ…」


「…そんな現場にいるなんて嬢ちゃんも肝が据わっているね……」


「…シリュウの傍より安全な場所なぞございませんので」


「……凄い信頼感だねぇ…!いやはや嬢ちゃんも大したもんだよ。優秀な人物を2人も同時に登用できるなんて今回は本当についてるねぇ!」


ゾエ大将がビーチェのことを褒める。


そうだろ。そうだろ。僕の奥さんは凄いんだ。



「……話をまとめると…シリュウ殿は、階級は『海軍准将』で役職は『第一艦隊 所属 特務武官』だ……そしてベアトリーチェ嬢は、階級は『少尉』で役職は『第一艦隊 所属 特務武官 補佐』になる…それでいいかな?」


フランシス中将が整理して、僕達の待遇を提示する。


「……特務武官補佐とは、具体的には何をすればよいのでしょうか?」


ビーチェがおずおずとフランシス中将に聞くが、代わりに答えたのはゾエ大将だ。



「簡単に言えば、シリュウの世話だよ。…『武官』と言うモンは一癖も二癖もあるような奴らばかりでねぇ……一人で生きていけないような奴も珍しくない。でも戦闘においては一級品だからそいつらを補佐する補佐官というのを特別に認めているんだよ」


武官は一癖も二癖もあるって酷い言い様だ。


でもパオっちを見てると否定できない。


今は退屈なのか手で蝶々を作って、病室に羽ばたかせている。


「そのような役割なら妾を置いて他の者には勤まりませんね。謹んでお請けします」


ビーチェが笑顔でゾエ大将とフランシス中将に頭を下げる。


それに続いて僕も言う。


「…色々ありましたが、海軍でお世話になります。よろしくお願いします」


そしてゾエ大将、フランシス中将、パオっちが笑顔で応えてくれる。


「もちろんさね!よろしく頼むよ!」


「……心強い……要望があれば何でも言って欲しい…可能な限り応えよう…」


「……シリュウっち!…ゲットだぜ…!」



病院に笑顔の華が咲き誇る。



そして僕は決意を新たにする。


ここは終着点ではなく、通過点だ。



僕の立身は海の上から、最愛の人と共に始まるのだ。



 

これで2章完結です!

数話だけ閑話を書いて、3章に移ります!


3章は謁見から始まり、海軍での初任務を書く予定です!お楽しみに!

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