【閑話】オルランドの失態
烈歴 98年 7月15日 6時22分 農耕街シエナ東部 シエナ東部丘陵 領邦軍本陣
シリュウ達がカンナヴァロ家第3部隊レーモ・ジョフレ隊長より伝令を受ける数時間前
スタンピードを迎え撃つ主力部隊である領邦軍を束ねるオルランドは、一抹の不安を覚えながら領邦軍と陸軍の陣形を眺めていた。
当初の予定では、オルランド率いる本隊の兵数を厚く魔獣の大群を正面から受け止め、各領邦軍の当主が率いる部隊で本隊の討ち漏らしを討伐する戦略を描いていた。
しかし陸軍からの助力を得られたため、討ち漏らしの討伐部隊を陸軍に委任し、領邦軍は魔獣を堰き止める『盾』の役割を全うするように戦略を変更した。
ただ懸念点は、コンパニ家、トロヴァート家、カンナヴァロ家の嫡男達からの請願により、本軍の兵を彼らが率いる部隊に厚く配置したのだ。
『我らは未来のサザンガルドを守護する者!是非とも機会を与えくださいませ!』
『魔獣なんて何のその!サザンガルド学院で学んだ我々には敵ではありませぬ!』
『今一度ベアトリーチェ様にご再考を…!』
明らかに功に逸った若者たちの意見であったが、オルランドは一蹴できずにいた。
それはベアトリーチェの婚約者の選定において、彼らに不義理を働いたのはオルランドの方であったからだ。
ベアトリーチェの婚約者の選定は、ベアトリーチェの幼少期から行われており、ベアトリーチェと同年代であったコンパニ家、トロヴァート家、カンナヴァロ家、アバーテ家の男子達は、みなベアトリーチェと婚姻を結び、サザンガルド本家に婿入りすることを目指していた。
オルランドも可愛い一人娘の伴侶は、屈強な男であることを望み、彼らの意向を知って、煽るように競争させていたのだ。
しかし結果としては、どこからともなく現れた謎の少年がベアトリーチェの心を射止めてしまった。
そしてそれもベアトリーチェの実父であるオルランドも了承してしまったため、幼少からベアトリーチェの婿となるべく努力をしてきた彼らにとっては、受け入れがたい現実だったのだ。
そんな彼らの心情が痛いほど理解でき、なおかつ自分もその一因であることからオルランドは彼らの請願を一蹴できずにいた。
そして陸軍参謀のサンディ・ネスターロ中将に相談したところ
『いいんじゃないか?彼らの力量はわからないから任せるが、若者に機会を与えるのも組織を強くするためには必要なことだ』とサンディが理解を示したため、当初の布陣の予定より、彼らの配置を重要な場所にし、兵数も厚くしたのだ。
(彼らも無能ではない……サザンガルド学院を優秀な成績で卒業した者達だ…)
オルランドは自らに言い聞かすように心の中で呟いた。
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領邦軍と陸軍が布陣を終え、しばらく
サザンガルド山脈の方角から万を超える魔獣の群れが現れた。
ドドドドドド!!!!
それはさながら大地が蠢くように丘陵を埋め尽くし、布陣する兵士たちに纏わりつくな殺気を放っていた。
「ギャオオオン!!!」
「ガルルルル!!」
「キィー!キィー!」
様々な魔獣の遠吠えが丘陵にこだまする。
そんな魔獣の群れを見てオルランドは安堵していた。
(事前の報告の通り、ほとんどがCランク以下の魔獣…!)
現れた魔獣は比較的対処しやすい中級魔獣以下がほとんどであった。
サザンガルド山脈は険しい生態環境のためBランク以上の魔獣が多く生息する危険地帯であるため、山脈を起点としたスタンピードと聞いてオルランドは危機感を抱いていたが、現れた魔獣は山脈の麓に生息する中級魔獣だった。
(これならこの戦場の1万6千で十分に討伐できる…!)
オルランドは半ば勝利を確信しながら魔獣の群れを迎え撃つため、全軍に指示を出そうと側近に声を掛けようとしたその時
ドドドドドド!!
魔獣を迎え撃つために正面に布陣していた領邦軍の半数の部隊が魔獣の群れの横を突こうとして、迂回するように進軍を始めた。
「なっ!!??どこの部隊だ!?そんな指示は出しておらんぞ!」
オルランドは驚きながら周りの兵士に声を掛ける。
「あそこはどこの部隊だ?」
オルランドのそばに控えていたブラン・サザンガルド家の騎士団長 フランコが兵士に問いかける。
「…はっ!……おそらくはカンナヴァロ家、トロヴァート家、コンパニ家の御嫡男達の部隊かと…」
それを聞いたオルランドは天を仰いだ。
彼らは持ち場を離れ、功を上げようと戦線を勝手に変えたのだ。
歴戦の烈国士であるオルランドにはこの後の展開が手に取るようにわかる。
魔獣の群れを受け止める本軍が貫かれ、大多数の魔獣がシエナ方面を抜けるだろう。
俊敏な魔獣と鎧を着た兵士では進軍速度は倍ほどの違いがある。
抜けた後も魔獣の群れを全軍で追うが、一定時間はシエナの防衛部隊にて持ち堪えてもらう必要がある。
(あそこにはシリュウ殿が……また彼に頼ってしまうとは…)
オルランドは自らの失態をシリュウに尻拭いさせることを申し訳なく思った。
そして今自分ができることに専念することにした。
「陸軍は伝令!正面への防衛に援軍求む!事情の説明は後だ!後から私がしこたま謝っておく!」
「はっ!」
魔獣の群れと独断専行部隊の登場により慌ただしくなった本陣を他所にオルランドは騎馬に跨がり、ブラン・サザンガルドの当主のみが帯剣を許される宝剣を抜いた。
「武働きで少しでも陸軍に誠意を見せるとする!精鋭部隊はついて参れ!」
「「「はっ!!」」」
オルランドは騎馬で丘陵を駆け、魔獣の群れへと飛び込んだ。




