第19話 シエナ防衛戦③〜走馬看花
烈歴 98年 7月15日 8時14分 農耕街シエナ東部 シエナ防衛部隊本陣
シエナ領主間での軍議から一晩
宿にて一夜と明かした僕とビーチェ、そして『漆黒の盾』のマストロヤンニさん達は、シエナ東部の建築された防衛部隊の本陣にて、今日の戦いの最終確認をしていた。
「僕らは最前線だっけ?」
「そうじゃな。まぁシエナの東部はなだらかな丘陵地帯じゃから、明確な前線などなかろうて」
「確かにね。ここから東から魔獣の大群なんて来たら流石に守る防衛線が横に広がりすぎてて、この人員では守れないんじゃない?」
「総勢4,500名……コンパニ家の部隊の半分…1,500は街の防衛に当たるじゃろうし、実質的に戦線に出られるのは陸軍の1,000と冒険者500の合計3,000程度じゃろうな」
ビーチェの言葉通りに、コンパニ家のいくつかの中隊が街の東部に布陣していて、陸軍の中隊5つくらいがその前に横陣を敷いている。
冒険者達はクラン単位で、思い思いの布陣を敷いていた。
その布陣の最前線にはSランク冒険者カタリナ・ジュンティさん率いる『黄金の槍』とSランク冒険者テオドーロ・マストロヤンニさん率いる『漆黒の盾』が布陣していた。
黄金の槍は、30人程の部隊を横一列に並べて、それが5列ほど重なる形で布陣している。
布陣している冒険者はみんな槍を装備しているため、槍衾を形成して魔獣を迎え撃つようだ。
対して、『漆黒の盾』はマストロヤンニさん一人を突出して前線に配置して、その後方にクランメンバーを鶴翼の陣で配置している形だ。
そしてクランメンバーの得物も剣、槍、弓、二刀、弩など統一感がなく、黄金の槍と対照的だった。
そんな冒険者達の布陣を眺めつつ、僕は僕専用超絶美人参謀のビーチェに聞く。
「なら僕はどこに行ったらいいかな?」
「想定される敵は、これよりさらに東部の領邦軍と陸軍の合同軍の討ち漏らしじゃろうから、戦場の中央付近に待機して、危なさそうな戦局に援軍に行く遊軍が良いじゃろう。パオ少将とマリオ少将もそう動くみたいじゃ」
「そうなの?」
「うむ。早朝にリアナと話しての、北側はパオ少将、南側はマリオ少将が援軍するそうじゃ」
「なら僕は中央付近に居て臨機応変に動こうかな~」
「そうじゃな。油断はできんが、今のところそこまで大きな戦にはならぬとは見ている……合同軍に何かなければの…」
「…………何か嫌な予感がするよ…」
「なぁに。その予感も将軍としての危機管理能力の高さじゃ。備えておくに越しておくことはあるまい」
「だねぇ~。これが片付いたらいよいよ結婚式だね」
「うむ!面倒事をさっさと片してしまおうではないか。かっかっか」
何かに備えると言いつつも、この戦場においては危険な気配はしない。
僕とビーチェは互いに緊張を解きながら、雑談をしつつ魔獣の討ち漏らしがこの戦場に現れるのを待っていた。
そして待機してから2時間ほどが経ち、周囲の陣からも『そろそろ昼食でも取るか~』など緊張感のない会話が聞こえてくるこの戦場に
「で、伝令!!伝令!!ジッロ殿はいずこに!!??」
切り裂くような叫び声にも似た必死な問いかけをする馬で駆けてくる領邦軍の兵士が東部から現れた。
「どうしたんだい?そんなに慌てて、ジッロ殿は東部門の本陣だよ」
最前線に布陣していたため、いち早くその伝令兵士と話をしたのはカタリナさん
「感謝する!!重要な伝令のため、君達の中でクランの責任者がいれば本陣に来ることを勧める!!では失礼!!!」
そう言い残して伝令の兵士は、シエナに向かって馬で風のように駆けて行った。
この緊張感のなかった戦場に張り詰めた空気が一気に流れる。
「……とりあえず妾達も行った方がよかろうな」
「だね。マストロヤンニさんとカタリナさんも行く?」
「……無論…お供します」
「だね。流石にあーれはヤバイ気がするしねぇ」
何か只事ではない雰囲気を感じ取った僕達4人は、馬でこの軍の総大将を務めるジッロさんの元へ急いだ。
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烈歴 98年 7月15日 10時16分 農耕街シエナ東部 シエナ防衛部隊本陣
僕達4人が本陣についた時には、本陣に設置された大型の木机に将官クラスの人が集まっていた。
伝令の方もすでに机に着席しており、どうやらジッロさんの到着を待っていたようだ。
この場には僕とビーチェ、マストロヤンニさんとカタリナさん、そしてパオっちとリアナさん、マリオ少将とそのマリオ少将の補佐官であるヴィート・アレッシ中佐もいた。
ヴィート・アレッシ中佐は昨日初めてお会いしたが、なんというか超普通の人…という印象で、自ら「僕は凡人なんで名前なんて覚えなくても大丈夫ですよ…」と卑下するほどだった。
しかし脳筋兵士だらけの陸軍においては、普通の頭脳を持つヴィートさんは『知識人』に分類されるらしく、脳筋の王であるマリオ少将のお付きを入隊からさせられている苦労人だそうだ。
そしてジッロさんがシエナの方から領主のエッダさんと共に現れた。
「すまない。シエナの住民の不安が広がっていたため、私自ら住民の方に戦況の説明と心配ない旨を流布していたところだ」
「私の不徳の致すところで、ジッロ様のお時間をいただき申し訳ございません」
そう言って、着席する2人
「君はカンナヴァロ家の隊長ではないか。君程の人物がどうした?」
ジッロさんが伝令の兵士に尋ねる。
そして伝令の兵士の方が応える。
「はっ!カンナヴァロ家第3部隊 隊長のレーモ・ジョフレと申します!重要な伝令につき私が!」
「一体どうした?」
「………ここより東部の陸軍、サザンガルド家、コンパニ家、カンナヴァロ家、トロヴァート家で構成される領邦軍が展開するシエナ丘陵東部にて、魔獣の大群約3万と2時間ほど前に接敵しました…!」
接敵の報告をするレーモさん
ただそれだけで重要な伝令として隊長クラスを派遣するのか?
僕はそう疑問に思ったが、それを一瞬で解決する報告をレーモさんが行う。
「………サザンガルド家、カンナヴァロ家を中心とした領邦軍を盾に陸軍が魔獣を殲滅する作戦を決行しましたが……領邦軍が総崩れとなり、魔獣の大半が戦線を突破しました…約1時間後にこのシエナ戦線へ到達する見込みです……」
「!!!???」
ぜ、前線が総崩れ…!?
どういうことだ!?
衝撃の報告に一同は眼を見開いて驚く。
「どういうことじゃ!?うちの倅は何をしてやがる!」
机をドンと叩き憤慨するジッロさん
息子さんは前線部隊に参加していたのか。
「サンサン率いる部隊だにー!?そんなことあるのかいや!?」
パオっちは信じられないことが起こったかのように驚く。
「ふざけんじゃないよ!普段偉そうにしてるくせに肝心な時に役に立たないなんてねぇ!!」
カタリナさんは憤慨している。
「……サンディの作戦に穴はないぞぉ。たぶん命令を無視した奴がいたんだろぉ?」
マリオ少将は少し険しい表情になりながらそう呟く。
そして伝令のレーモ隊長が頷く。
「…マ、マリオ少将のおっしゃる通り……領邦軍の嫡男様達の部隊が、持ち場を離れ魔獣の群れに奇襲をしかけようとし、全体の陣形が崩れ、穴が空いたところを魔獣の大群に破られました……」
おいおいおいおいおい!
何をしてるんですか…嫡男さん達…
「………バカモンが!!功を焦ったな…!!」
ジッロさんが先ほどの倍くらいの力で机を叩く。
「……はぁ…シ、シエナはどうなりますかぁ……私達が丹精込めて広げた農園…民の暮らしはぁ…」
エッダさんは涙目になりながら不安を隠しきれずに言う。
そうだよね。
不安になるよね。
エッダさんだけじゃなく、今この状況を知らないシエナの人も不安に思っているはずだ。
今できることをするんだ。
シリュウ・ドラゴスピア!!
バチーン!!!
僕は自らに気合を入れるように頬を思いっきり叩く。
その音でこの場の空気が一瞬止まり、僕の方に注目が集まる。
「そいつらへの文句は終わってから言ってやろう。今はシエナを守ることを考えるんだ。ここにはパオ・マルディーニ、マリオ・バロティ、カタリナ・ジュンティ、テオドーロ・マストロヤンニ、ベアトリーチェ・ブラン・サザンガルド、そしてシリュウ・ドラゴスピアと一端の人物が揃っている。魔獣の群れくらい敵じゃない」
僕がそう言うと、この場にいる人の目つきが変わった。
「そうじゃ。我が夫はあのインペリオバレーナを討伐し、ロロ・ホウセンをも退けた天下無敵の武術師じゃ。魔獣の大群なぞ恐れるに足りん」
ビーチェが僕の肩に手を置きながら言う。
そしてジッロさんの目も怒りから未来を見据える目に変わった。
「……失礼した。戦線を練り直そう。とにかく……こちらは数で劣るため、戦線を広げるのは悪手だ」
ジッロさんが机に広げた地図を見つめながら言う。
「でも固めたら、領邦軍に陸軍、冒険者と普段交わらない面子で戦うろんよ?連携とれるかにー?」
「そうです。広げることは悪手ですが、固めることもまた悪手となりえます」
ジッロさんの発言に、パオっちとリアナさんが言う。
「それもそうだな……どうするか」
ジッロさんが地図を冷や汗を流しながら見つめる。
パオっちもリアナさんもビーチェも同じように考えている。
その中でマリオ少将のお付きのヴィート・アレッシ中佐が挙手をして発言する。
「あの~……その魔獣の大群からシエナに通ずる道の中で狭い場所ってありませんか?」
「狭い場所……前線からシエナまでの間に小山ほどの大きな丘陵が2つある場所があるな。ここから馬で10分程度の場所だ。その間の場所は、狭い箇所は馬車3台分程度の幅しかないな」
ヴィート中佐の質問にジッロさんが応える。
「ならそこを塞げばいいんじゃないですか?」
「塞ぐ…?どうやって…?」
ヴィート中佐の発言に的を射ていないジッロさん
そして全てを理解してビーチェが笑う。
「かっかっか!ヴィート中佐よ、妙案じゃ」
「…妙案というかそれしかないような…」
「いやいやこれはマリオ少将のお付きであるお主だからこそ浮かぶのじゃろう。領邦軍にはその発想はありんせん」
ビーチェはヴィート中佐の肩をバンバンと叩きながら言う。
「どういうことですかい?お嬢?」
「簡単な話よ」
「その道を一騎当千の猛者で塞ぐのじゃろ?」
走馬看花:物事を表面的にしか見ず、真の意味を理解していないこと
陣形の意味を理解せず功を焦った領邦軍のお坊ちゃまたちのことですね~




