第19話 シエナ防衛戦②〜最終防衛線
烈歴 98年 7月14日 21時54分 農耕街シエナ 領主館 大会議室
シエナに到着した僕とビーチェは、街の案内人に連れられ、宿に荷物を下ろすやいなや、シエナを防衛する軍議が領主館で行われるということで、マストロヤンニさんと共に領主館へ向かった。
他の漆黒の盾のメンバーは宿に待機している。
どうやら各クランのリーダークラスのみが招集されているようだ。
僕とビーチェには名指しで招集がかかっていたから、冒険者ギルドでこの緊急クエストを受注したことは、どうやらシルベリオさん達にはもうバレてるらしい。
まぁ隠す気もないけど
シエナの領主館は農耕街に調和するような見事な木造の館だったが、調光するシャンデリアや廊下に流れる空気調和設備など至る所で魔道具を使用した機能的な館だ。
確かシエナの領主のエッダ・シエナさんは、タキシラ出身の研究者で、農業における魔術の有用性を研究すべくこのシエナに来たんだっけ
魔道具をふんだんに使用したこの館はタキシラの人だなぁとすごく感じる。
皇都華族のような価値観が古い人間は、このような魔道具に囲まれた建築物を忌避していた。
曰く『情緒がない』『魔道具より材質や建築工法で快適性を追求すべき』だとかを皇都の社交場で耳にした。
それを聞いてそう言うものなのかと疑問に思っていたらビーチェが「魔道具が手に入らない僻みじゃよ。タキシラ製の魔道具は質も良いし最新鋭じゃが、金を積めば手に入るものではありんせん。手に入れる人脈がないんじゃろうなあ」と社交場の時に教えてくれた。
この館の主人であるエッダさんは、タキシラの名高い研究者なので、これくらいの魔道具を手に入れることはわけないのだろう。
そう考えて館の中を案内されているうちに僕とビーチェ、マストロヤンニさんは、とある会議室に案内された。
そこには10数人が着座しており、何人か見知った顔がいた。
「パオっち!?それにマリオ少将も!?」
「にー!?シリュウっち!?なんでこんなところに?」
「シリュウ准将かぁ。こんばんはだぞぉ」
「これはこれは…パオ少将にマリオ少将…ご挨拶申し上げまする」
「そんな畏まらなくていいにー、ベアちゃん」
「んだ」
僕を見て笑顔で喜ぶパオっちに、のんびりと挨拶を返してくれるマリオ少将
そしてパオっちが簡単に状況を説明してくれた。
「オイラ達は、シリュウっち達の結婚式に参列するためにサザンガルドに来たんだけど、王家十一人衆のみんな早く来てしまったみたいろん。それで今回の騒ぎじゃもんね。これはシリュウっちとベアちゃんの晴れ舞台に茶々入れさせてはいかん!とみんな張り切ってるおろろん」
「な、なるほど…ん?…みんな?」
「そう。みんな」
「……つかぬことをお聞きしますが、その『みんな』とは…まさか…?」
ビーチェが恐る恐る聞く。
そしてパオっちの回答は想像通りの想定外のものだ。
「そりゃあ王家十一人衆の『みんな』やもん」
「おぅ………」
「なんと……」
やはり大事になっている…
いや魔獣のスタンピードも大事ではあるけど、流石に皇国が誇る王家十一人衆の全員参戦は、サザンガルド側には嬉しい誤算ではなかろうか。
それに会議室の着座している人を見渡すと、皇国軍の人も何人かいる。
それに見慣れない軍服を着ている人は領邦軍の人だろう。
皇国軍、領邦軍、それに冒険者達との合同作戦になるのだろう。
「今回は陸軍と領邦軍が主軍だにー。多分その説明が領主さんからあると思うろん」
パオっちがそう言うと、会議室の大きな扉が開き、そこから領主のエッダ・シエナさんと従者と思われる人が慌てて入ってきた。
「お、遅れて申し訳ありません!それでは会議の方を始めさせていただきます!」
到着が遅れたことを詫びたエッダさんの言葉を皮切りに、シエナを魔獣の群れから防衛する軍議が始まった。
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「緊急事態とはいえ、このようなお偉方に夜分遅くに集まりいただき感謝申し上げます。皆様のお力で何卒このシエナをお守りくださいませ」
エッダさんは開口一番に立ち上がり一堂に向かって一礼をした。
会議の参加者は領邦軍の方や冒険者クランのリーダークラス、陸軍の将官で構成されていた。
「本会議の進行については、領邦軍の名代としてお越しになられているジッロ・コンパニ様に一任いたします。よろしくお願いします」
そしてエッダさんの右隣に座っていた筋肉隆々の丸坊主の軍服の男性が立ち上がった。
「サザンガルド領邦軍の末席を預かっているコンパニ家当主のジッロ・コンパニだ。この合同軍の総指揮をサザンガルド領邦軍総司令のオルランド・ブラン・サザンガルド殿より仰せつかっている……が……えぇと……お嬢?」
ジッロ・コンパニさんが自己紹介をしたところで、ビーチェの姿を見つけて困惑している。
そりゃそうか…
領邦軍のトップであるオルランドさんから一軍を任せると派遣されたものの、その現場にそのトップの娘がいるから困惑してするに違いない。
そんなジッロさんの困惑をよそにどこ吹く風かのようにビーチェは答える。
「ジッロや、気にするでない。今ここにいるのは『Gランク冒険者ビーチェ』であるぞ」
「は、はぁ…しかしお嬢がこの合同軍を預かる方がいいのでは?」
「それはないじゃろう。妾は夫を差し置いて上には立てんよ。それに我が夫に軍を預けようにも、指揮を預かるより最前線に立つ方がよっぽど良いじゃろうしのう」
ビーチェの発言に、パオっちやマリオ少将、マストロヤンニさんもうんうんと頷いている。
……まぁ?指揮とか勉強中だし?
僕は槍働きで貢献するんだもん。
僕らの回答に納得したのかジッロさんは、話を戻して進行する。
「それでは変わらずこのジッロ・コンパニが進行を預からせてもらいますぞ。このシエナ軍の総戦力はコンパニ家3,000、冒険者軍500、陸軍1,000の総勢4,500名であります。その他の陸軍4,000と領邦軍13,000はシエナ丘陵東部に布陣し、スタンピードとの第一前線を構築しております」
「ふぅむ…主戦力は丘陵に布陣して、妾達は最終防衛線ということかや?」
ジッロさんの説明やビーチェが確認するように言う。
「そうでございますな。魔獣の群れは3万程と聞いております。魔獣は一直線にこのシエナに向かっていることから、丘陵からある程度の討ち漏らしは出るかと」
「……ここシエナは農作物が山のように実っております。特に今の季節は甘い果物が成る季節ですし…その果実の匂いに釣られているかもしれません…」
エッダさんは顔に手を当てて困り顔で言う。
「そこは丘陵の主力部隊を信じるしかありませんな。我らはこの街を守ることに専念せねば。しかしここにはマリオ・バロテイ少将にパオ・マルディーニ少将、シリュウ・ドラゴスピア准将と皇国が誇る猛者がおります。不幸中の幸にしてはあまりにも幸運ですぞ」
ジッロさんが笑みを浮かべながらそう言ってくれる。
頼りにされているのは嬉しいねぇ
「はい。その幸運は本当にしみじみと感じております。しかしまた多くの冒険者様からのご助力ももちろん感謝申し上げます」
「いいって、いいって!ワタイらも稼ぐ好機だからね。それにこんな猛者達と共に戦場に立てるのはまたとない機会だし、漲ってくるよ!」
快活に答えるのは『黄金の槍』のクランリーダーのカタリナ・ジュンティさんだ。
カタリナさんの発言に他の冒険者達も首肯していた。
どうやらこの中ではカタリナさんが一番な格上らしい。
「ではその稼ぐ機会を提供させてもらおう。布陣は我がコンパニ家がシエナの街の東部門付近に布陣する。そしてさらに東部に陸軍に布陣してもらい、冒険者達はさらに東部…最前線にて魔獣を迎撃してもらいたい」
ジッロさんはシエナ東部付近の地図を広げて、駒を置いて陣形を説明した。
シエナ東部はいくつかの棚田や果樹園があるものの街道を中心としてなだらかな平原になっており、戦闘しやすそうな地形には地図の上からは見えた。
並びで言うと
シエナ|コンパニ家 | 陸軍 | 冒険者 ←魔獣
となるようだ。
「問題ないね。前線の方が好きに動けるしね!」
「……俺達も…異論ない…」
この場における最高格の冒険者であるカタリナさんとマストロヤンニさんが作戦を了承したことで他の冒険者も頷いて作戦に賛同の意を示した。
「では明日明朝にはこの陣形で布陣してくれ。今日は遅いから明日に備えて休んでも構わない。我がコンパニ家で東部方面を哨戒しておく」
これでシエナ防衛について話がまとまった。
いよいよ明日は決戦の日だ。
さっさと魔獣の群れを片付けて、ビーチェとの結婚式に備えないとね!
僕はそう思って宿に帰ろうと立ち上がると、パオっちとマリオ少将は鎮座したまま動かない。
「あれ?どうしたの?」
僕が2人に声を掛けようとすると、ビーチェが引き攣った顔で言う。
「………お二人とも……目を開けたまま寝ておられる……」
…………お目付役がいないとこうなるのか……
リアナ「私もパオに付いてサザンガルドに来ています!今回はサザンガルドでお留守番していますよ!」




