【閑話】来るは魔獣の大波、対するは皇国の誇り
烈歴 98年 7月14日 10時23分 軍都サザンガルド 3区(華族区)フォン・サザンガルド邸 大会議室
シリュウ達がコウロンと真夜中の会合をした翌朝
フォン・サザンガルド家の本邸の会議室では領主であるシルベリオと領邦軍を預かる弟のオルランド、そして領邦軍の司令官クラスが、サザンガルド一帯の地図を並べて、喧々諤々の議論をしていた。
「コルラード殿からの報告は!?」
普段は温厚なオルランドも危機的状況に焦りを覚え、口調が荒くなりながら、部下たちに報告を促した。
「はっ!今朝の報告ではシエナの真東のサザンガルド山脈麓に魔獣の大軍を発見とのこと!その数おおよそ3万!魔獣の群れが到着するのは明日の朝の見込み!」
「シエナ付近に魔獣が3万…!?大丈夫なのか…オルランド!」
領主であるシルベリオが領邦軍の総司令であるオルランドに問うた。
「すぐ向かわせられる領邦軍は…カンナヴァロ家…コンパニ家の計6千だろう…アバーテ家はリーゼ方面に派兵しているし、サザンガルド家の兵は結婚式に向けた警備と武闘大会の準備に回していて、現場に向かわせるには隊を再編成する必要がある…」
「たった6千で3万もの魔獣が止められるのか?」
「魔獣の構成にもよるが、サザンガルド山脈の平均的な魔獣たちが3万ならまず無理だろうね。魔獣狩りのエキスパートである冒険者たちの助力は必須だ」
「ならすぐに冒険者ギルドに緊急依頼として要請しよう」
「頼むよ。特に『白銀の剣』『黄金の槍』『漆黒の盾』の助力は不可欠だ。念入りに依頼しておいて欲しい」
「わかった。それでも戦力は足りなそうだな…」
「本当に……サザンガルド家を再編成したとしても1万……計1万6千だ…Bランク・Aランク魔獣の3万の群れなら全然足りない…」
「……シリュウ殿とコウロン殿に助力願うしかなかろう…」
「……それしかないかな…もうすぐ結婚式を控えるシリュウ殿にこのような負担はかけたくないが…」
「彼なら頼まなかった時の方が怒るだろうな」
「だね…仕方ない…シリュウ殿とコウロン殿に協力を要請「その必要はないぜ~」
オルランドの発言を遮ったのは、いつの間にか会議室の入り口に立つ茶髪の軽薄そうな男
「…き、貴殿は……サンディ・ネスターロ中将…!?…ど、どうしてここに!?」
シルベリオは唐突に現れたサンディの姿を見て驚く。
「いやぁ。俺もシリュウ准将の結婚式に招待されているからな~。少し早めに到着して陸軍の仕事を片付けておこうと思って、領主様にご挨拶に来たってわけさ~」
「……お久しぶりです。サザンガルド領邦軍を預かるオルランド・ブラン・サザンガルドです」
オルランドはサンディに向けて丁寧に挨拶をする。
身分で言えば、オルランドとシルベリオの方が6大華族であるがゆえに遥か格上なのだが、王家十一人衆は別格なのだ。
それに目の前にいるのは、皇国軍最高の参謀であるサンディ・ネスターロ
オルランドは軍人としては遥か格上のサンディに対して最大限の敬意を払っていた。
「そんなに畏まらなくていいぜ。お互い楽にしよう」
「配慮感謝する。……してその必要はないとはどういうことか?」
シルベリオはサンディに問うた。
「はっはっは!そりゃ~可愛いシリュウ准将のために一肌脱ごうという大人がここにいるからな」
「まさか…サンディ中将自らスタンピードの対応にご助力いただけるので!?」
サンディの申し出にオルランドは身を乗り出して聞く。
それもそのはず。
サンディはあの帝国相手に戦線を押し上げる稀代の名軍師
その知恵をこの状況で借りられるなんて願ってもないことだ。
しかしサンディの答えはその上を行った。
「俺だけじゃないぜ。ほら、ここにもいっぱいいる」
サンディはそう言って扉の向こう側の廊下に顔を向ける。
そしてその廊下からは、私服姿ではあるが、常人ではないオーラを纏った8人が会議室に入って来た。
「にー。シリュウっちの結婚式を邪魔する魔獣なんてオイラが蹴散らすろん!」
「パオ…無茶はしないでくださいね。私も微力ながらお力添えします。」
「……魔獣の群れ…!……斬り放題だな…!…血が滾る!」
「たくさん働いた後の飯はきっとうまいぞぉ」
「おいルイジ!久しぶりにどっちが多く狩るか勝負しようぜ!」
「アレス…今の私ではアレスには到底敵わないさ」
「弱気さね、ブッフォン将軍よぉ!軍を率いる者なら背中で見せないとねぇ!」
「ゾエさんは……少し…前に出ない方が良いと思う…」
「王家十一人衆の皆様方…!?」
そこにはシリュウを除く王家十一人衆9人が勢ぞろいしていた。
シリュウの結婚式に招待したとはいえ、王家十一人衆の面々がここまで揃うことなど『円卓会議』でしかない。
一般人…いや大華族でも見ることが難しい光景がそこには広がっていた。
「さあて…サザンガルド家の皆さん…俺達王家十一人衆9人が全力で協力する。シリュウ准将の結婚式までには終わらせるぜ?」
つい先ほどまでの絶望的な状況から絶対に何とかなるという安心できる状況に激変したことで、シルベリオとオルランドはただただ乾いた笑いをすることしかできなかった。
王家十一人衆は一人一人が一騎当千の猛者
武が得意ではないと公言するレアやフランシスでさえ、Aランク魔獣を軽く狩る。
ファビオに至っては、一夜にしてたった一人で千を超える魔獣を討伐した逸話も持つ。
王家十一人衆の助力があれば3万の魔獣の群れなど恐れるに足りない!
「……シリュウ殿は…つくづく凄い星の下に生まれているな…」
「…そのシリュウ殿に嫁ぐ我が娘も…大概だがね…」
地図を眺めて作戦を話し合い始めた王家十一人衆を見ながら、シルベリオとオルランドはシリュウとベアトリーチェの行く末を案じていた。




