第15話 卒業試験
烈歴 98年 7月14日 0時23分 軍都サザンガルド 3区(華族区)ブラン・サザンガルド邸 庭園
じいちゃんの生い立ちを聞いた僕とビーチェは終始呆気に取られていた。
あまりにも生々しい生い立ちの逸話の数々に、僕とビーチェに注がれていた紅茶はとっくに空になっていて、僕らは緊張も相まって喉と唇がカラカラになっていた。
「……かつての東方大陸の皇帝を殺めてこの大陸に…?……じいちゃんはとんでもない人だと思っていたけど、今日の逸話が一番強烈だよ…」
「…じゃのう……生い立ちは謎多きコウロン・ドラゴスピア殿の知られざる幼少期……想像の遥か上じゃて…」
僕達の若干引き気味の反応を見て、じいちゃんは苦笑いをする。
「くははは…じゃろうのう……この話を知るのはおそらくこの大陸で6人じゃのう…」
「6人?」
「儂とシンキ……娘のマリアとその夫のタラン…ルイジ…」
「母さんと父さん…それにおばあちゃんに、ブッフォン大将?」
「そう…そして儂のこの大陸での恩人…ハヤブサ・ウエスギ殿じゃ」
「ハヤブサ・ウエスギ?」
どこかで聞いたような…そう考えてるとビーチェの目が見開いていた。
「ハ、ハヤブサ・ウエスギ大将…ですか…!?」
身を乗り出してじいちゃんに聞くビーチェ
「はっは!さすがベアトリーチェ嬢…古の将軍にも明るいのう」
ビーチェの知識の深さにご機嫌に笑うじいちゃん
「ビーチェ、知ってるの?」
「知ってるも何も、シリュウより若い14歳にして王家十一人衆に就任した伝説の陸軍将軍じゃよ…まさかコウロン様の恩人だとは」
「おおう…それはすごい人だ…爺ちゃんはどういう風に出会ったの?」
「この大陸に辿り着いた時は、儂が東方大陸から出奔して2年が過ぎた時じゃ。中央大陸にて細々と暮らしていたが、大変な戦乱に見舞われたため、比較的情勢が落ち着いていると噂で聞いたこの西方大陸…烈国大陸へと船で渡ったのじゃ。そして最初に行き着いた街…カイサで儂を軍人に登用してくれたのが当時既に30手前にして陸軍の大将であったハヤブサ・ウエスギ殿なのじゃ」
「だからじいちゃんの事情を知っているのか」
「そうじゃ。儂の佇まいを見て、できる奴だと見込まれ、あれよあれよのうちに軍人に登用してもろたわい。この大陸での身元保証人にもなっていただいて、頭が上がらぬのう。はっはっは!」
「そして妾達がよく知るコウロン・ドラゴスピアの伝説に繋がるのですね…コウロンという名前はやはり…?」
「…この大陸での戸籍を登録する際に、シンキからコウ一族の姓『コウ』とそれまでの儂の名『ロン』を合わせた名前を名乗るように言われての。そこからは『コウロン』として生きておる。後に将校に昇格する際に、姓を時の皇王様に賜ったのじゃ。『其方の槍は龍をも貫くであろう』ということから『ドラゴスピア』の姓を賜った」
「なるほど…」
じいちゃんの人生を簡単にではあるが聞かせてもらった。
それでも僕はいまいちピンときてない。
「じいちゃんの生い立ちは聞かせてもらって嬉しかった。でもそれが大総督の就任を迷うこととどう関係あるの?」
「簡単な話じゃ。どんな理由があろうとかつて一国の君主を殺めた儂のような不届き者が国の軍事を左右する職につくべきではない」
「でも皇軍大将にまで就任したんじゃ?」
「皇軍は良くも悪くも国の行く末を左右せぬのじゃ。皇王様の手となり、足となる。確かに重要な軍ではあるが、あくまで皇王様を戴く組織じゃ。儂のような空っぽの人間にはちょうど良かった。ただただ皇王様の言う事を聞いていれば良いのだから」
「う〜ん…そういうものなのかな…」
「そうじゃ。だから今さら儂のような人間を当てにするのではない。其方ら若い才ある者達がリータ殿下を導けば良いのじゃ」
じいちゃんは寂しそうな顔をして言う。
でも今の軍は皇軍、陸軍、海軍と歩調が異なる組織が並立している。
リタさんの目指す国家には、軍の統一が必要で、それを為すためにはじいちゃん…コウロン・ドラゴスピアの存在はうってつけなのだ。
「…でも…!」
僕がじいちゃんの説得を続けようとすると、ビーチェのが手で制する。
「……シリュウや。今日はもう遅い。一度場を改めようではないか。コウロン様もそれでよろしいでしょうか?妾達はまだまだサザンガルドに滞在しまする。ぜひ膝を突き合わせてお話ししとうございます」
「……ほんとに聡いのう。そなたの言う通りじゃ。真夜中の問答ほど無意味なものはない。今日はお開きにしようぞ」
そう言ってじいちゃんは席を立つ。
そして僕に向かって言う。
「シリュウよ。大総督の就任受けるには2つ条件を出そう。どちらかでも達成したならば、大総督の就任を受ける」
「……条件って何?」
「1つは、儂に仕合で勝つ事。いつも通りの稽古ではない。全身全霊を懸けた本気の勝負じゃ」
「もう一つは?」
「サザンガルド滞在中に何でも良い。武威を示せ。しかしただの武威ではダメじゃ。武闘大会の優勝でも圧倒的な優勝でないと認めん」
「その2つね…」
「一丁前に儂に仕事をしろと迫るのじゃ。それくらいできる猛者の言う事でないと聞けんのう!はっはっは!」
じいちゃんは笑う。
なるほど……これがじいちゃんの卒業試験ってところか。
それを乗り越えた先に、リタさんの目指す未来がある。
「わかったよ。必ず達成してみせる」
「期待しておるよ。『銀龍』殿」




