第14話 真夜中の再会~将軍の評価
烈歴 98年 7月13日 23時55分 軍都サザンガルド 3区(華族区)ブラン・サザンガルド邸 庭園
サザンガルドでの僕のお披露目を兼ねた晩餐会を終えた次の日の深夜
僕とビーチェは、滞在しているブラン・サザンガルド邸の庭園のテーブルセットに2人で座り、シュリットが用意してくれた紅茶を飲みながら、人を待っていた。
このテーブルに用意された空席はあと1つ
その席に座る人物とは0時ちょうどに約束している。
その人物をビーチェと雑談しながら今か今かと待っていた。
「………それにしてもこんな深夜での会合をご所望とは…あの方らしくないのう」
「仕方ないよ。話の内容が内容だもんね。僕達としても好都合だ」
「それはそうじゃがのう…シリュウや。此度の件については勝算はあるかや?」
「正直言って1割程度だと思う」
「そんなに低いのかや?」
「そうだね。僕が知っている限りでは……こういう系の話は嫌いだと思うから」
「確かに好きそうではないが、国の一大事じゃよ?…あの方の性格上…突っ込みすぎることはあっても、敬遠するなどあまり考えられないのじゃよ」
「う~ん…責任感の塊みたいな人だから、そういうスタンスを取っているのは本当に不思議なんだけど……それも合わせて聞きたいとは思うね」
「そうじゃのう」
そんな風にビーチェと会話していると、約束していた人物が現れた。
僕らは席を立ち、姿勢を正して挨拶をする。
「お待ちしておりました。コウロン・ドラゴスピア殿」
「ふむ。こんな夜更けにすまんのう。シリュウ・ドラゴスピア海軍准将よ」
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「な~んて…堅苦しい挨拶なんてやめてくれい…!シリュウにそんなに畏まられると寂しいぞい!」
「あははは!一応現役の王家十一人衆の海軍准将として、元皇軍大将のじいちゃんへの正式な就任依頼だからね。形だけでもと思って」
お堅い挨拶もそこそこに、僕とじいちゃんは祖父と孫の顔に戻って、席に着いた。
ビーチェがじいちゃんの紅茶をカップに注いで、じいちゃんに渡す。
「どうぞ。コウロン様」
「うむ。感謝する。ベアトリーチェ嬢」
「いえいえこれくらいは」
「はっはっは!紅茶を淹れてくれたことだけではない。王国や帝国でシリュウを助けてくれたことよ」
「妾は何もしておりませぬゆえ…」
「そんなことはなかろうて。ブッフォンの奴から文をもろうたが、そなたの活躍もきちんと書かれておった。シリュウは本当に素晴らしい伴侶を得たと儂はまた感動したものよ」
「そうなんだよ!ビーチェは最高の奥さんだよ。強いし、賢いし、可愛いしね!」
「ちょっ!//シリュウ…!コウロン様の前で…そんな…嬉しいが恥ずかしゅうて…顔から火が出てしまいんす…」
「はっはっは!仲良きことは素晴らしいことじゃ!世継ぎも心配あるまいな!はっはっは!」
じいちゃんは大きな口を開けて笑うがそれは気が早すぎるだろう。
じいちゃんは一頻り笑った後は、顔つきを軍人の者に戻し、僕の方へ真剣な眼差しを送った。
「シリュウよ。王国と帝国でのことは全て聞いた」
「全て…?」
「そうじゃ。リータ殿下から儂に文が来て、そこには王国や帝国で合った全てのことが書かれておった。シャルル王の暗殺未遂事件のこともな」
「「!!??」」
じいちゃんの言葉に僕とビーチェは驚く。
王国と帝国で対外的に表になっているのは、結果のみだ。
王国ではシャルル王とプラティニ家、ポアンカレ家と友好な関係を結んだこと
帝国ではシュバルツスタットから撤退を成功したこと。
詳細な経緯は、公表されず、皇国の都合の良いところのみ切り取って広報しているからだ。
シャルル王の暗殺未遂事件は、公表されると三国間の外交問題に大きな影響を与えるため、リタさんの判断で闇に葬られていたが…その葬った張本人がじいちゃんにぶちまけたらしい。
「これは…大総督への就任要請の一環じゃな。リータ殿下は自ら秘匿する情報を儂に開示することで誠意を示しておるのじゃろう。まぁ正直これに関しては儂もリータ殿下に好感を持ったがの」
なるほど、じいちゃんの性格を理解しているな。
じいちゃんに対しては搦め手なしで、真っ向から誠実に向き合うのが一番効果的だと孫である僕もそう思う。
「王国と帝国での一件……一連のシリュウの行動を将軍として評価すると………」
ひょ、評価だって………!?
色々無茶したから…しこたま怒られそう……
「満点じゃ。良くやった」
「……ご、ごめんなさい………え?…満点?」
僕はおずおずとじいちゃんの顔を見る。
そこには深い笑みを浮かべているじいちゃんの顔があった。
「満点の理由は簡単じゃ。皆が生きて帰って来た。これに尽きる」
「生きて帰ってくる……」
「そうじゃ。当たり前じゃが戦場に出たら、必ずと言っていいほど人は死ぬ。敵も味方もな。しかし此度の件、あらゆる困難な状況に遭遇しても、シリュウ達が率いた軍に死者は1人もいなかった。これは奇跡のような所業じゃ」
「それは…みんなが頑張ったからで…僕のおかげじゃないよ」
「大事なのは経過ではない。結果じゃ。戦場では結果が全て。頑張ったから負けていい、死んで仕方ないは通用せぬ世界じゃ。生きて帰る……これが何よりの戦果なのじゃよ」
長年戦場にて身を置いてきたじいちゃんの言葉は、深い説得力を持っていた。
「此度の件、様々な場面で選択を強いられたであろう?振り返れば、あの時どうすればよかったのか?無限に問い、省みることはあろう。しかし、結果を出せば、それが正解なのじゃよ」
結果が全て
それは何より単純で、そして重い世界だと思った。
「…シリュウは色んな場面で一番難しい局面を受け持ってくれたのじゃ。あの遠征では誰が何と言おうと妾はシリュウが最大の殊勲者じゃと信じておる。コウロン様も褒めてくださっておるから、胸を張ってくりゃれ」
ビーチェはそう言って僕の手を優しく包み込んだ。
その手からは、温かくそして熱いものが僕の心に流れてきて、僕の心臓の鼓動を速くさせた。
「はっはっは!隙あらばイチャつくのう!お主らは…」
「あっ…いや…!//…これは…」
「し、失礼しました…!//」
慌てて僕とビーチェは繋いだ手を放す。
「いやいや、良いのじゃよ。して夜も遅い。本題に入ろうかのう」
そうだ。ここからが本題だ。
僕とビーチェは居住いを正して、じいちゃん…いやコウロン・ドラゴスピア元皇軍大将に向き合う。
「元皇軍大将にして、皇国の英雄『槍将軍』コウロン・ドラゴスピア殿にお頼み申す。王家十一人衆を束ねる皇国軍『大総督』に就任していただき、弱卒の我らを導いてくださらないか」
僕の勧誘の言葉に、コウロン・ドラゴスピア殿は腕組をして、目を瞑り熟考した。
そして僕はコウロン・ドラゴスピア殿の口が開くのを待つ。
1分…5分…10分……いやどれくらいの時が経ったのか曖昧だが、僕とビーチェは答えを発するのを静かに待った。
そして……コウロン・ドラゴスピア殿が口を開く。
「その答えは申し訳ないが、まだ出ていないのだ」
まだ出ていない…?保留ということか?
「ただ答えを出すためには、我が孫シリュウにこの話をせねばなるまい」
そう言ってコウロン・ドラゴスピア…いやじいちゃんは祖父の顔に戻して、僕とビーチェに語り掛けた。
「話そう。儂が政争に関わらない理由…そして儂の生い立ちと儂の妻…そなたの祖母…シンキ・ドラゴスピア殿との出会いの話をな」
シリュウ「じいちゃんの生い立ち…初めて聞くね」
ビーチェ「コウロン殿は皇国の生まれではないのかや?」
シリュウ「じいちゃんは東方大陸の出身だよ。詳細は知らなかったけどね」




