【閑話】テオドーロ・マストロヤンニという男~不器用な憧れ
俺の名前はテオドーロ・マストロヤンニ
出身はサザンガルドの路地裏だ。
物心ついた時には、親というものがおらず、孤児院にて育った。
幸いにも武術の才が俺にはあったようで、12歳の時に16歳と年齢を詐称し、冒険者になってからは食うことには困ることはなく生きている。
ランクが上がるにつれ、自分の生活だけでなく、孤児院の子供達の食い扶持も面倒を見ることができるようになったから、冒険者稼業様様だ。
でもそんな俺の頑張りを見て孤児院の後輩たちが俺と同じように冒険者を志すようになったのは、困ったものだ。
俺としてはこんないつ命を落とすかわからない危険な仕事より、ちゃんと学校に通い、学を付けて安全な場所でできる仕事に就いて欲しいのだが……
しかし後輩たちは目をキラキラさせて冒険者になりたがるものだから、これは止められないと思った。
それならば俺の目が届くところで冒険者をしておいて欲しいから、クランを作った。
名前は後輩たちに一任した。
…でも名前が…『漆黒の盾』…?
おい…なんか……陰気臭くないか?
俺の戦闘スタイルそのもの?……いやそれは、お前達を守るために、わざわざ両手槍から片手槍と盾に持ち替えたんだが……
え?変更はなし…?…あ、…はい…
そんな後輩たちに導かれるように、冒険者組合からの依頼を日々誠実にこなしていった。
『白銀の剣』のように安定性はないし、『黄金の槍』のように華々しくはないが、それでも日々サザンガルドに住む人のために、どんな仕事も選り好みせず依頼を受けた。
だって、俺の憧れのあの人なら、きっとそうしたから
そう…あの『槍将軍』コウロン・ドラゴスピア様なら!
寡兵で大軍の帝国軍を撃退した逸話に始まり、前線地域の街や村の人達への厚い支援、軍の不正を正すため自らの進退すらも懸けるまさに皇国の英雄…!
いつか冒険者として名を馳せたら、お会いして感謝を伝えるのが俺の夢だ。
あなたの活躍に憧れたからこそ、俺は孤児から立派な冒険者になれたんだと!
そんな思いを胸にサザンガルドで冒険者稼業を頑張って早10年
俺は冒険者ランクの最高峰
Sランクになっていた。
これでコウロン様にお会いした時にも恥ずかしくない人物になれた。
そんな時、俺にとっては衝撃のニュースが入って来た。
『ベアトリーチェ・ブラン・サザンガルドご令嬢婚約!お相手はあのコウロン・ドラゴスピアの孫!』
なんだって!?
あ、あのコウロン様に孫が…!?
コウロン様愛好家の俺調べによると、コウロン様の御身内は奥様と娘さんが1人だったはず…
ということはその娘さんの息子さんということか…!
こ、これは会ってみたい……どんなお人か…?
しかしこのお孫さん、シリュウ・ドラゴスピアさんは、婚姻の許可を皇王に貰いに行くため、皇都セイトへ旅立ってしまったようだ。
………なら付いていこう…!
冒険者稼業はセイトでもできるだろ?
ギルド長のグッチに、俺の所属をセイト所属に一時的に変えてもらうようにお願いして、『漆黒の盾』のメンバーを置いて、俺は皇都へ行った。
引継ぎ?知らん
そして皇都へ赴き、冒険者仲間や軍人を中心にシリュウさんの動向を調査した。
これでもSランク冒険者だからな。
それなりの人脈と金があるから動向を調査するのに、大した手間はかからなかった。
どうやら皇軍・陸軍・海軍の大将直々に勧誘されているらしい…
すげぇな……半端ねぇよ…
一回会って話してみたいな。
皇都に来ても中々会う機会がない。
いや尾行してる際に、すぐ近くをすれ違うのだけども、話しかける勇気がない……
俺もともと超人見知りだし…
でも皇都に来て正解だ。
シリュウさんの活躍をすぐに知ることができる!
どうやらシリュウさんがインペリオバレーナを討伐したらしい!
マジか!?
あれSランク魔獣の中でも3番目くらいに強い奴なんだぜ?
あの『海の迅雷』パオ・マルディーニと一緒に狩ったのか…
マジ半端ねぇ…
え?しかもインペリオバレーナを軍に寄付!?
それにその肉を市井に格安で供給してくれたのか!?
加えて…准将として海軍に入隊…!?
あぁ…もう…だめだ…シリュウ様…すごすぎるぅ…
俺の憧れメーターが振り切った。
よし 冒険者を辞めて、シリュウ様の部下になろう。
善は急げ
さっそくサザンガルドに帰って、冒険者を辞める手続きをするか!
まずは『漆黒の盾』の奴らに説明しないとな
え?辞めるのだめ?
どうして……
冒険者を辞めようとしたが、後輩たちから固く反対されてしまった。
曰く
「シリュウ・ドラゴスピアさんからしたらあんたは他人でしょ。まず面識を持ちなさいよ」
「ドラゴスピア家は華族だよ。華族の騎士になるの?海軍の軍人になるの?はっきりさせておきなよ」
「陰気なテオ兄が雇われるわけないって」
だとさ
最後のは…ただの悪口だと思う。
だがシリュウ様と面識を持つのは確かに必要だ。
シリュウ様は結婚式のためにサザンガルドに来るそうだからその時に会って、部下にしてもらうよう頼んでみよう。
サザンガルドの酒場で飲んでると、とんでもないことが聞こえてきた。
「シリュウ・ドラゴスピアの話を聞いたか?いくらなんでも盛りすぎじゃねえか?」
「コウロン・ドラゴスピアの七光りのボンボンだろ?じゃないと16歳で将軍はありえねえって…!」
アイツら……『白銀の剣』の奴らか…
偉大なるシリュウ様の御偉業にケチをつけやがって……
許さん…!
そんな不届き者は、ボコボコにしておくか
え?俺なんで怒られてるの?
「あんた……何考えてるのよ!…Sランク冒険者になったんでしょうが!素行には気を付けなさい」
だって……あいつら…シリュウ様の悪口言ってたから…
「だってもくそもないよ…テオ兄…」
納得がいかない…
全面的に悪いのは、『白銀の剣』の奴らだ!
『黄金の槍』はシリュウ様の凄さが良く分かっている。
よしよし、彼らは同志だ。
皆、現場がかち合えば彼らには優しくするんだぞ。リーダー命令だ。
ん?サザンガルド本家からの封筒…?
え!?シリュウ様が参加する晩餐会の招待状!?
行く行く!
何が何でもいくぜ…!
つ、ついにお会いできるのか…!
楽しみだ…!
おお…青のタキシードがばっちり決まっている……神々しい…
海軍だから青を意識しているのか……それにしても本当に凛々しく素晴らしい…
階段から下りる足運びだけでも武術の達人と分かる。
まさしく英雄の系譜を継ぐ者…!
あぁ…早くシリュウ様の下で、この力をお役に立てていただきたい…!
………インカンデラ………シリュウ様に……何と無礼な…
よし…殺そう……
こいつは……排除すべき社会のゴミだ。
止めるな…グッチ…!
え?……軍都庁長官のウベルト・ヴェントゥーラ様が出てきた?
この人には色々恩があるから、ここで引いておくか…
運が良かったな。インカンデラめ
それにしても…シリュウ様とお話する機会を棒に振ってしまった…
どうしよう……




