第6話 サザンガルドの勢力図①~『軍都庁』『領邦軍』『周辺都市』『冒険者組合』
フォン・サザンガルド家に挨拶に来たところ、サザンガルドの現況とビーチェの僕に知られたくない厄介事について、サザンガルド領主であるシルベリオさん自らが僕に説明してくれることとなった。
「まずはそうだな…サザンガルドの主な勢力について話しておこう」
「主な勢力?」
「そうだ。主に6つの勢力があり、『軍都庁』『領邦軍』『周辺都市』『冒険者組合』『経済界』『学校園』だ。」
「ほ、ほう……」
6つもあるのか…覚えきれるかな…
「まずは行政の中心である『軍都庁』だ。これはサザンガルドにおける『政庁』のようなもので、サザンガルド一帯を統治する行政機構だ。『軍都庁』には『総務局』『警察局』『土木局』『財務局』『文教局』『市民局』『軍政局』がある。シルビオは『総務局』の長である『総務局長』だ。私の後釜として、行政を学んでいる。ピエールは『財務局』の一職員として勉強中だ。まだ入庁間もないからな」
「お役所ってことですね。それにしてもシルビオさんその若さで局長なんて、やはり凄い人ですね…」
「……16歳で海軍准将になっているシリュウ殿には敵うまいよ…」
「……ははは……」
シルビオさんの反論に僕は苦笑いで返す。
シルベリオさんが更に説明を続ける。
「軍都庁は、領主付きの組織だ。『軍都長官』はウベルト・ヴェントゥーラという男でな。長年サザンガルドに仕えている我が領自慢の行政家だ。今晩の晩餐会にも招待しているからその時に紹介しよう」
「『軍都長官』……『宰相』みたいなものですかね…」
「言い得て妙だ。サザンガルドの内政を一手に担ってくれているという点では間違いない」
なるほど…ウベルトさんか…今日会えるの楽しみにしておこう。
「次は『領邦軍』だな。これは我が弟のオルランドをトップにして、各武家が所有する軍で成り立っている。ブラン・サザンガルド家を筆頭に、アバーテ家、カンナヴァロ家、コンパニ家、トロヴァート家の4家で構成されている。特にトロヴァート家は王国との国境沿いである『フォース砦』を守護する由緒正しき皇国の名門だ。『フォース砦』のコルラード・トロヴァート隊長は、『門都』ノースガルドを守るガスパロ・フォン・ノースガルド公爵と並んで『皇国の守護者』とも称されている」
「おお!あのノースガルド公に並ぶとは…凄いお方なのでは?」
「サザンガルドが誇る武人であることは間違いない。この方も今晩の晩餐会に招待しているから楽しみにしているがいい」
「はい!」
王国との戦線を預かる『皇国の守護者』か…!
どんな人か楽しみだ。
「大方気付いているとは思うが、軍都庁はフォン・サザンガルド家が、領邦軍はブラン・サザンガルド家が統治しており、両者の関係も良好で、関係性に課題らしい課題もない。あと『周辺都市』間の関係性も問題ない」
「『周辺都市』?」
僕が頭に疑問符を浮かべているとビーチェが解説してくれる。
「サザンガルド周辺の衛星都市じゃよ。田園都市ハトウ、宿場街リーゼ、軍港街サザンポート、農耕街シエナ、鉱山街テラモじゃな」
「ハトウは良く行ったね。サザンポートも何回か行ったけど、後の街は初見だな。」
「まぁ休暇中に回ろうて、時間もあるじゃろうし」
「そうだね」
ビーチェとともに周辺都市周りか…とても楽しみだ。
そんな風にビーチェとの予定を楽しみにしていると、シルベリオさんう~んとした困り顔になる。
「今言った『軍都庁』『領邦軍』『周辺都市』においては、さしたる対立等はないのだが、残った勢力が問題でな…」
「え~っと…残っているのは『冒険者組合』に…『経済界』、『学校園』ですっけ…?」
「『冒険者組合』と『経済界』については、私の方から説明しよう。仕事柄、関わることもあるのでな」
シルビオさんが手を挙げて言う。
「『冒険者組合』は、シリュウ殿もご存じの通り、民や華族、行政機関や軍、商会等様々なところから依頼を受注し、報酬を貰う冒険者の組織だ。冒険者組合の運営や依頼の受注と報酬の調整を行う『ギルド』と実際に依頼を請け負い報酬を貰う冒険者達の互助組織である『クラン』がある。このサザンガルドには主な大規模クランが3つあるのだ。領邦軍や軍都庁、そして華族や大規模商会を顧客とする『白銀の剣』、『鍛冶組合』や『商業組合』等の『経済界』を顧客とする『黄金の槍』、一般市民を顧客とする『漆黒の盾』が主だな…そしてこの3つのクランの仲が悪く、度々些細なことで揉め事を起こすのだ…」
「仲が悪い…?」
「『白銀の剣』は華族や大商会との取引が多く、エリート意識が強いのだ。他のクランのメンバーを蔑む発言をしていることの目撃談も多い。私も彼らと取引をしたことはあるが事あるごとに『黄金の槍と漆黒の盾は、下賤な奴らも多いから、うちのみと取引しましょう』と言われるな…」
「……武人の風上にも置けない奴らですね…」
義に厳格なじいちゃんが聞いたら、ぶっ飛ばしに行きそうな集団だな。
「…ただ実力は確かなのだ。軍都庁も領邦軍も白銀の剣に依頼することが多いのは、彼らの依頼の達成率に安定感があるからなのだ。そのぶん依頼料は割高ではあるがな」
「う~む…確かに軍や役所からすれば、多少依頼料が高くても安定感のあるクランに依頼したいと思っちゃいますね…」
「…まぁ妾は好かぬがのう……けっ…」
ビーチェがやさぐれている…何で…
「…それがベアトリーチェの厄介事の一つだ。『白銀の剣』の若きクランリーダーの『バルトロ・インカンデラ』は、ベアトリーチェの婿の座を狙っていてな……玉の輿でこのサザンガルドで成り上がることを考えていたのだろう。オルランドがベアトリーチェに当主教育を施すと公言した時にも、変わらずオルランドに縁談を申し込んでいたようだ」
シルベリオさんが溜息をつきながら言う。
なんだ、その不届き者は
ビーチェを出世の道具にしようとしたのか。
「シルビオさん、そいつどこにいますか?」
「待て待て待て…!目に光が宿っていないまま、立ちすくむんじゃない!…武に疎い私でも殺気を感じるぞ…」
「え~。だってビーチェを利用して成り上がろうなんて奴は串刺しにしないと」
「…シリュウが…妾を大事に想ってくれておる…ぽっ//」
「あまり面白くないのはわかるが、落ち着くのだ…」
シルビオさんにそう言われて、僕はビーチェの頭を撫でながら、何とか落ち着きを取り戻す。
そして僕はそのバルトロとやらの話を聞いてピンと来た。
「ん~…なるほど。ビーチェの厄介事が見えてきましたね。そういえばビーチェはサザンガルドに連なる一族で唯一の未婚の女子なのか…」
僕がそう言うとスザンナさんが肯定した。
「シリュウさんの言う通りです~。サザンガルドの各勢力は、サザンガルド一族との縁を確かなものとするために、ベアトリーチェを娶ることに一生懸命だったのですよ~」
「なるほど…ではそんな不届き者が他にも?」
僕がまた目の光を消しながら、シルビオさんの方に向いて聞く。
「…そうなのだが…それは順序立って説明しよう。まずはクランの説明の続きだ」
そういってコホンと咳払いをしてシルビオさんはクランの説明を続けた。
「『白銀の剣』と対抗しているのは『黄金の槍』だ。こちらは魔獣討伐を得意としている。魔獣の素材をサザンガルド中の工房や商店に供給してくれているクランだ。このクランは自由で実力主義な風潮が強く、出自に関わらず登用しているのが特徴だな。クランリーダーの『カタリナ・ジュンティ』も戦争孤児だそうだ。彼女の槍捌きは中々のものだぞ?今回の武闘大会の『女傑の部』の優勝候補筆頭だ」
「ほぇ~…『女傑の部』の優勝候補者か…てっきりビーチェがぶっちぎって優勝すると思ったけど」
「そう言ってくれるのは嬉しいのじゃが、カタリナは確かに強者じゃよ。妾もサザンガルドを出る以前まではとても敵いやせん」
「え!?そうなの?」
サザンガルドを出る前でもビーチェは僕の目からみても相当な強者だったのに…
「しかしあれから妾も強くなった。連日ヒルデガルドに特訓してもらった成果を見せる時よ!」
ビーチェはふんす!と意気込んだ。
ビーチェは帝国から帰国後は暇さえあれば、ヒルデガルドと稽古をしていた。
同じ女性の剣士として学ぶものも多いそうだ。
そんなビーチェの頑張りが報われるといいな。
「うん!頑張ってね!…それにしても黄金の槍か…僕と相性が良さそうだな」
僕がそう言うと、シルビオさんが首肯する。
「シリュウ殿の言う通り、黄金の槍はシリュウ殿の活躍に憧れている者も多い」
「え?そうなんですか?シルビオさん」
「そうだとも。この前カタリナとも会話をしたが、『早くシリュウ殿に会いたい!』と言っていたな。槍の極意を聞きたいとか」
「う~む…僕としては嬉しいけども教えられることなんてあるのかなぁ…」
僕はじいちゃんの教えの通り体を鍛えて、槍を振るっているだけだからなぁ
「まぁ彼女も今晩の晩餐会に来るさ。そして『漆黒の盾』だが、ここはなんというか掴みどころがないクランなのだ…クランリーダーの『テオドーロ・マストロヤンニ』も……こう言っては何だが…陰気な人間でな…まともに会話をしたこともない。噂では盗賊や他国とも繋がりがあるとも言われている」
「…ぇぇ……そんな怪しいクランが良くやっていけますね…」
「良くない噂があるだけだからな。幸い依頼に関しての揉め事などは報告されていない。依頼料は3つの依頼の中で一番格安で、一般市民からの依頼が多い。しかしここ数か月は良く『白銀の剣』と揉めているが…」
「……それは妙じゃのう…漆黒の盾は良くも悪くも白銀と黄金には関わらぬクランだったと思うがのう…」
シルビオさんの報告にビーチェは眉を顰める。
「ベアトリーチェの言う通りなのだが、ここ数か月はむしろ漆黒側が白銀側に突っかかっているようなのだ。酒場で楽しく飲んでいた白銀のメンバーが漆黒のリーダーであるテオドーロにいきなり殴られたなんて話もあるくらいだ」
「……好戦的すぎるでしょ……大丈夫なんですか…そのテオドーロという人は…」
僕が心配して言うと、シルベリオさんが渋い顔で言う。
「……領主の私としても悩みの種なのだ。3つのクランはそのどれもがサザンガルドになくてはならぬクランだからな。関係性が良好にあるに越したことはない。争いの結果、いずれかのクランがサザンガルドを去ることもそうだが、抗争になって死者が出るなどは最悪だ。早めに収めたいところではあるのだが…」
「黄金と白銀はもともと考え方の違いで仲が悪かったからです~。しかし最近は漆黒が白銀に絡むようになって、黄金と白銀の対立に拍車がかかっていますので、3つのクランの仲がこじれているのですよ~」
シルベリオさんもスザンナさんも困ったように言う。
「ひぇ…大変ですね…」
「そうなのだよ…シリュウ殿。その3つのクランの板挟みになっている『ギルド』のトップであるギルド長の『チェリオ・グッチ』氏は、いつ見ても渋い顔で怒っているよ」
「そのギルド長でも収めるのが難しいのかや…大変じゃのう」
「ほんと、サザンガルドの現状は中々厄介だね…」
「シリュウ殿……話はまだ続くぞ?」
シルビオさんが、苦笑いしながら言う。
「え?」
「次は『経済界』と『学校園』の対立の話だな」
まだあるんすか……
シリュウ「何か揉め事多くない?サザンガルド」
ビーチェ「大都市にはそれだけ多くの思惑があるのじゃよ」
シルビオ(今現在の揉め事の中心は、シリュウ殿だと言わない方が良いのか…?)




