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第4話 ブラン・サザンガルド家への帰還

烈歴 98年 7月11日 20時13分 軍都サザンガルド 3区(華族区)ブラン・サザンガルド家 邸宅


夕方にサザンポートを出発した僕達は、日もすっかり暮れて、晩と深夜の間の時刻の頃に、ビーチェの実家ブラン・サザンガルド家に到着した。


サザンガルドに馬車で入った時は、数か月前に過ごしたこの街に「帰って来た」という気持ちがあり、僕にとってもこのサザンガルドという街は、故郷のようになっているのだと思った。


サザンポートからサザンガルドへ向かう馬車の中では、カルロ君に僕達が過ごした皇都の話や王国と帝国での遠征の話をしていた。


カルロ君は目をキラキラさせて、食い入るように聞いてくれるので、僕もビーチェもつい饒舌に話してしまう。


もちろん僕が帝国の皇帝陛下の血を引いていることや王国でのシャルル皇子襲撃事件など公にしていないことは話してはいない。


カルロ君に一通りの話をしたところで、僕達を乗せた馬車は、ブラン・サザンガルド邸に到着した。


「旦那様、奥様、到着しました」


馬車の御者を務めてくれていたドラゴスピア家の家令ブルーノが、馬車の扉を開けて報告してくれる。


「ありがとう、ブルーノ。今日は早めに休んでね」


「お心遣いありがとうございます。しかし我々は客人ではありませんので、ブラン・サザンガルド家においてもしっかりとお勤めさせていただきます」


ブルーノはにこやかに笑いながら言う。


いやいや休んでください。


僕が念を押そうとするとビーチェの手が制した。


「まぁこういうことは経験豊富なブルーノに任せるがよい。新興のドラゴスピア家の使用人が、主人と奥方に随行し帰省して、同じように歓待を受けることなど、外聞が悪いからのう」


ビーチェがブルーノの肩を持つようなことを言う。


「まさに。むしろ我々は旦那様のお顔に泥を塗らぬよう皇都に居る時よりも励まねばなりません」


ブルーノは長旅の疲れも見せずに、より一層働きます宣言だ。


タフだなぁ…


「ほぇ~。そういうものなのか……まぁブルーノに一任するよ。でも無理だけはしないでね?慣れない土地だろうし。使用人の皆にも言っておいてね」


僕はブルーノの姿勢に感心しつつも、無理はしないようにと言う。


「ありがとうございます。しかとお伝えしましょう」


そう言ってブルーノは僕らに一礼して、馬車や荷車に積んでいる荷の下ろし作業の指揮を始めた。


そして僕らは邸宅の正面の門扉の前に立った。


「う~ん!懐かしいなぁ!ここを旅立ってから2か月近く経つのか…」


このサザンガルドを発ったのは、5月の初旬の方だった。


「妾もこんなに家を空けたのは初めてじゃから、不思議な感覚じゃのう…」


「そうなんだ?」


「うむ。妾はずっとサザンガルドで過ごしていたからの。学校も家から通っていたのじゃ」


「学校!サザンガルドにある名門の『サザンガルド学院』だっけ?」


「そうじゃそうじゃ。まぁ明日の晩餐会では妾の『学院』の同窓生や恩師も参加する予定じゃ。また紹介させてくりゃれ」


「楽しみにしているよ。ビーチェの友達かぁ…会うのは初めてだから緊張するよ」


「……そんなにシリュウが緊張するほどの奴らでもあるまいよ…」


ビーチェは、明日会う同窓生の顔を思い浮かべたのか、少しげんなりした顔で言った。


何でそんな顔になるの


バーン!


そんな風に門扉の前で話をしていると、サザンガルド邸宅の正面玄関の扉が勢いよく開いた。


「ベアト!」「ベアトリーチェ!」


そこにはビーチェの実の父であり、サザンガルド領邦軍のトップであるオルランドさんと、ビーチェの実の母であり皇国最高峰の大華族メディチ公爵の姪であるアドリアーナさんがいた。


2人とも扉を開けるやいなや、こちらの方…というよりビーチェの元へ駆け寄った。


「父様!母様!」


ビーチェもオルランドさんとアドリアーナさんの方へ駆け寄り、お互いに接近するように駆けていく。


そして3人は再会の喜びを分かち合うように、抱きしめ合った。


「ベアト…軍に入ることも驚いたが、帝国での一件は流石に肝が冷えたぞ……無事で良かった…」


「あなた本当に無茶するわ……私達の心臓をいくつ潰すつもりなのよ…」


オルランドさんもアドリアーナさんも心底安心したような表情で、目に涙を浮かべながらビーチェを抱きしめていた。


それはそうか。


帝国での一件は下手すれば、命はなかったかもしれない程の危機だったからだ。


娘が軍に入ったと思えば、入って早々、部隊全滅の危惧があった事態に巻き込まれれば、気が気でなかっただろう。


「いやぁ……それは申し訳ありんせんが…妾が悪いわけではなかろうて…」


ビーチェは少し困惑しながらも、抱きしめて嬉しそうにしていた。


ひとしきり抱きしめ合った後に、オルランドさんとアドリアーナさんが僕の方に向き合う。


「シリュウ殿、久しぶりだ。娘を守ってくれて本当にありがとう。それにこんなに早く王家十一人衆になるとは……驚きでいっぱいだよ」


オルランドさんが握手を求めながら言う。


僕は差し出された手を握り返しながら答える。


「いえ……僕の任務にビーチェを巻き込んでしまい、心配させてしまいましたね。すいません…」


そんな僕の謝罪にアドリアーナさんが僕を抱きしめながら答えた。


「シリュウさん…本当にありがとう。うちの不肖の娘が皇国を守る英雄の妻だなんて、夢を見ているようよ…」


「いえいえ!そんな英雄なんて大それたものじゃないですって!それに僕がいつもビーチェに助けられているんです。僕が頑張れているのもビーチェの献身的な支えがあってこそです」


「ふふふ、そう…またお話聞かせてちょうだい」


「そうだな、今日はもう遅い。食事は用意させてある。使用人達も含めて食べるといい」


おお!ご飯!


ブラン・サザンガルド家のご飯は美味しいんだよね!


「やった!ビーチェ!早速食べに行こう!お~い!皆もご飯食べよう~!」


食事を用意しているというオルランドさんの気遣いにテンションが上がった僕はビーチェだけでなく、ドラゴスピア家の使用人達にも声を掛けた。


そしてドラゴスピア家の使用人達の荷下ろし作業を手伝っていたカルロ君がいつの間にか、僕の隣に来ていた。


「僕も義兄様と姉様とご一緒したいです!」


「もちろんだよ!ドラゴスピア家の使用人達も紹介したいしね」


「…シリュウ殿が雇った使用人達…確かに気になるね」


「シリュウさんが雇った子達だもの。きっと普通じゃないわよ」


アドリアーナさんが若干穿った見方をしているが、大体僕が原因なので黙っておく。




そして改めてブラン・サザンガルド家の邸宅を一望した。



オルランドさんにアドリアーナさん、カルロ君がいるこの家に



僕達は帰って来たんだ!



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