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【閑話】腐った皇都の回り方

列歴98年 7月8日 14時12分 2区(華族区)パッツィ公爵家屋敷 当主執務室


「ど、どういうことですか!?」


皇王派の中枢を担う公爵家の当主であり、この国の財布を預かる財務大臣であるアマデオ・フォン・パッツィは、同じ皇王派の部下であるダレッシオ侯爵家当主兼民部大臣のマウロ・フォン・ダレッシオに憤怒の形相で詰め寄られていた。


「落ち着くんだよ。そんなに感情が昂っては、建設的な話もできないだろう?」


いきり立つダレッシオ侯爵を宥めるようにしてパッツィ公爵は言うが、ダレッシオ侯爵は収まらない。


「これが落ち着いていられますか!あなたの言う通り我が家の私兵をリータの襲撃への援軍に差し向けたら、私兵達はリータに取り込まれ、襲撃現場を皇国軍の大将達に抑えられたんですよ!?それに皇軍から皇軍大将のルイジ・ブッフォンの名前で襲撃容疑に関する査問会への召喚状まで出されています!」


ダレッシオ侯爵は、自身の窮状をパッツィ公爵に訴えるが、パッツィ公爵はどこか他人事のように聞いていた。


「まさかあの現場に皇国軍の三大将がいるとはねぇ。それは全く予想外だったよ。シリュウ・ドラゴスピアかパオ・マルディーニが現場に現れれば、軍規違反として皇都警備隊で取り締まろうとしたけど、三大将相手には流石にねえ」


「そもそも!私は今回の計画に反対していました!闇ギルドの奴らなんて信用ならないのです!」


「でも最後には乗ったろう?失敗してからそう言うのは、みっともないよ?」


「…し、しかし!」


パッツィ公爵のあまりにも冷たい物言いに、憤怒するダレッシオ侯爵


そんな2人が言い争いをする部屋に乱入者が乱雑に扉を開けて入って来た。


バンッ!


ダダダダ!


「ひっ!だ、誰だ!?」


扉を開けて入って来たのは数人の皇軍兵士


そして最後に入ってきたのは……


「…邪魔をする…ここにマウロ・フォン・ダレッシオがいると通報があって参じた…」


青色の髪に鷹のように鋭い目つきをした剣を腰に2本携えている将校


「き、貴様は…ファビオ・ナバロ!?」


ファビオの姿を目にしたダレッシオ侯爵は滝のような汗を顔中から流した。


ダレッシオ侯爵とは対照的に冷静に、ファビオの乱入を受け止めているのはパッツィ公爵だ。


そしてファビオは1枚の令状を掲げてダレッシオ侯爵に言う。


「…貴様には…リータ・ブラン・ベラルディ殿下への暗殺の容疑が掛かっている……これがその令状だ……おとなしくついてこい…!」


「ひ、ひぃい!パ、パッツィ公爵!なんとかしてくだされ!」


ファビオの逮捕宣言に、ダレッシオ侯爵はパッツィ公爵に縋り付くようにして懇願する。


しかしパッツィはその手を振りほどくようにして答えた。


「…これはこれは…まさかこんな身内にそんな大罪を犯そうという者がいようとは……今まで気づくことができなくて申し訳ないな」


「は!?わ、私を切るおつもりか!?」


パッツィの明らかな裏切りに、ダレッシオ侯爵は焦燥する。


「切る?これは異な事を……君が皇王様を心酔しているのは知っていたが、勝手に皇王を慮ってこのようなことをしでかすとまでは……いやはや()()()()()()()()()()()()()?」


「…な、…なんだと……」


この瞬間ダレッシオ侯爵は、パッツィ公爵のみならず、自身の親分である皇王からも切られたことを悟った。


そして力なくへたり込むダレッシオ侯爵


「そ、そんな…わたしは……」


信じられないと言う絶望の顔を浮かべるダレッシオ侯爵


しかしファビオは容赦なく自身の仕事を実行する。


「……連れてけ……」


ファビオがそう指示すると、皇軍の兵士がダレッシオ侯爵の両脇を抱え込むようにして連行する。


ダレッシオ侯爵は、ただでさえ悪そうな顔色を真っ白にしながら、今起こっている現実を受け止められずに、ただ虚空を見つめて皇軍の兵士に連れていかれた。


「お仕事ご苦労様だ。流石は『蒼の剣聖』だね」


思ってもないお世辞をファビオに掛けるパッツィ公爵


そんなパッツィ公爵を睨むようにしてファビオは言う。


「……こんな茶番で…済むと思っているのか?」


ファビオの挑戦的な言葉に、パッツィ公爵は涼し気に答える。


「もちろんさ。私の権力を知らないわけないだろう?今回の件はダレッシオ侯爵とロカテッリ侯爵の独断専行……()()()()()()のだよ」


パッツィ公爵は卑し気に笑う。


今回の件は、ダレッシオ侯爵とロカテッリ侯爵を黒幕に仕立て上げ、本来の黒幕のパッツィ公爵とベラルディ公爵は守られる形で処理されると言外に言う。


そしてそれができる権力をこのパッツィ公爵は…いや皇王は持っているのだ。


「……チッ……」


パッツィ公爵の言うことを理解したファビオは舌打ちをしながら部屋を退室する。


そして去り際に一言だけ吐き捨てた。


「……俺は…『剣』ではないぞ……自我を持つ『剣士』だ…」


そんなファビオの一言にパッツィ公爵はおどけたように答えた。


「…おおう?怖いねぇ。肝に銘じておくよ」


そしてファビオは、部屋から退室した。


1人残った部屋でパッツィ公爵は独り言ちた。


「……民部大臣と国土大臣の椅子が空いたか……民部大臣の椅子は守れるだろうが、今の皇妹派の勢いであれば…国土大臣は危ういな…臨時華族会での選挙の仕込みをしておかないとな…それか今の内に国土省の事務管掌規則をいじって権限を縮小させておくか…?」


腹心を2人も失ったにもかかわらず、何事もなかったかのように後のことを考えるパッツィ公爵


こうして皇都は回っていくのだ。


腐った部位を切り離し、頭だけを残して


そんな皇都社会の崩壊の足音は、パッツィ公爵の耳には入ってこなかった。




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