【閑話】変わる皇都⑨~燻る火種と皇王派
列歴98年 7月5日 14時19分 1区(皇区)皇宮本殿 特等会議室
皇都セイトにあって最も豪華な建物である皇宮
その皇宮の中央に位置し、偉大なる皇王が居住する皇宮本殿にある特等会議室には、皇王に忠誠を誓う皇都を…政庁を牛耳る華族が集っていた。
会議室というにはあまりにも豪奢な部屋に負けないくらいに高価な衣装と装飾品を纏ったこの皇都で最も裕福な集団であろう。
「して、皇妹派の『リータウン』とやらはどうなっておるのだ?」
飄々として一同に問う肩まで伸びた金髪をしている少年のように小柄なこの老人
パッツィ公爵家当主兼財務大臣 アマデオ・フォン・パッツィだ。
「……忌々しいが、大方の屋敷の建築は終わっているようだ。それに移住希望の華族もかなり多いらしい…」
腕を組みながら神妙な面持ちで答える大柄な体格に、短く整えられた金髪をしている老人
ベラルディ公爵家当主兼宮内大臣 リオネッロ・フォン・ベラルディ
「しかしまだまだ多くの華族がリータ殿下に懐疑的でございます。何せ華族制度を廃止することを明言していますから!そんなことを言う皇族に誰も付いて行きませんよ!」
今にも折れそうなくらいに細い体をし、不健康なほど顔色が悪い黒髪の男
ダレッシオ侯爵家当主兼民部大臣 マウロ・フォン・ダレッシオ
「そうですのぅ。我らのような有能な者ならともかく華族の権威だけで食ってる奴らは決してリータ殿下には与しないでしょうのう」
今にもスーツがはち切れそうなほどふくよかな体を持ち、おっとりと答える茶髪の男
ロカテッリ侯爵家当主兼国土大臣 ウルバーノ・フォン・ロカッテリ
今ここに集まっているこの4人の男たちは、皇王フェルディナンド・フォン・リアビティの権勢を支える皇王派の中心人物である。
皇王派の領袖はフェルディナンド自身であり、次席がベラルディとパッツィだ。
そしてその次にはダレッシオとロカテッリが続く力関係となっていた。
そしてこの4人を目下悩ませているのが、皇妹リータ・フォン・リアビティの皇宮東宮からの移住
移住先として建築している街に、自身の側近であるメディチ公爵家やアンブロジーニ侯爵家を住まわせ、皇妹派の一大拠点を築いている。
その一大拠点…通称『リータウン』には華族だけでなく、海軍の英雄 パオ・マルディーニ少将や最近台頭してきたシリュウ・ドラゴスピア准将も『リータウン』に居を構えるとの噂がながれ、その2人に惹かれて中立派の華族が皇妹派に鞍替えしているという噂も流れていた。
「サルトリオもまさか皇妹派であったとは……昔から何を考えているかわからん奴であったが」
ベラルディ侯爵は皇王派の振りをしていて、実は皇妹派であった外交大臣のサルトリオ侯爵のことを吐き捨てた。
「まぁ奴は皇王派では冷や飯を食っていた方だ。それに外交省などこの戦乱の世では役にも立つまい。対立した国と国は、言葉ではなく剣で語るものだろう?」
パッツィ公爵は裏切ったサルトリオのことを意に介していないようだ。
「それにしても皇都の民は今や皇王様よりリータ殿下の方が王に相応しいと市井で噂しておるようですぞ!」
ダレッシオ侯爵は、今にも倒れそうなほど色が悪い顔で言う。
「放っておけ。王の選定に下賤の民には決定権などないのだから」
ダレッシオ侯爵の心配を一蹴するパッツィ公爵
パッツィ公爵の言う通り、リアビティ皇国の王として戴冠するには、各省庁の長である大臣により構成された『閣議』と軍の最高幹部…通称王家十一人衆で構成される『円卓会議』の承認が必要だ。
そして慣習では『円卓会議』は『閣議』の内容を追認するのみで、実質的に歴代の皇王は『閣議』により決定されていた。
そして『閣議』に参加する大臣は、伯爵以上の華族による相互選挙によって選出される。
つまりこの国の王は伯爵以上の華族達によって実質的に選定されていると言える。
その伯爵以上の華族の支持率は、現皇王フェルディナンドが7割を占めており、2割がリータ、1割は中立派といったところである。
「それにどれだけ中立派が皇妹派に靡こうが数は知れている。我らは悠然と構えていればいい」
「パッツィ公爵様がそうおっしゃるなら…」
「大丈夫なんですのう」
この状況において余裕を見せるパッツィ公爵の姿に、格下のダレッシオ侯爵とロカテッリ侯爵は安堵する。
しかしベラルディ公爵は違った。
「しかし軍部がリータ殿下に掌握されつつある。シリュウ・ドラゴスピアとパオ・マルディーニはもちろんのこと、他も皇妹派に靡くこともあろう」
ベラルディ公爵の危惧にパッツィ公爵は涼し気に応える。
「戦場で剣を振るうしか能がない獣共に何ができよう。知恵が回る者と言えば陸軍のサンディ・ネスターロと、皇軍のレア・ピンロ、海軍のフランシス・トティくらいだ。それらの者たちは現皇王に大きな不満を抱いていない。それにそれぞれ大事な家族がいるだろう?いざとなれば人質にとってしまえばいい」
さらりと恐ろしいことをいうパッツィ公爵だが、その提案に恐れるものなどここにはいない。
この4人はそんな後ろめたいことを山ほどしてきてこの地位にいるのだから。
「……レア・ピンロとフランシス・トティには配偶者と子供がいたが、サンディ・ネスターロに家族などいたか?」
ベラルディ公爵はパッツィ公爵に問うた。
「公式に籍は入れていないようだが、長年一緒に暮らしている女性の存在は確認している。密偵の報告では内縁の妻で間違いないようだ。流石に子どもの存在までは確認できてはいないがね」
「…あのサンディ・ネスターロに内縁の妻が……それが泣き所というわけか」
「ああ、我ら御用達の彼らならすぐに仕事をしてくれるだろう」
パッツィが言う彼ら
それはこの皇都に存在する暗殺や誘拐を一手に担う闇の傭兵達のことだ。
仕事を依頼する際には莫大なお金を要求されるが、その分荒事に関しては間違いない仕事をするため、皇都華族には重宝されている。
「…彼らか……私も仕事を頼もうと思っていたところだ」
ベラルディ公爵の発言にパッツィ公爵は少し眉を動かす。
「ほう?……あぁ…君のところの優秀だった子だね」
「……あ奴はもう私の子ではない…!…従わぬなら消えてもらうまでよ」
「おー怖い怖い。君たちはこんな華族になってはいけないよ?」
パッツィ公爵はダレッシオ侯爵とロカテッリ侯爵に冗談めかして言う。
パッツィ公爵の冗談に2人は苦笑いしかできなかった。
「…ただ彼らに仕事を頼むには少し依頼の内容が小さすぎてな…」
ベラルディ公爵はパッツィ公爵に目を向ける。
それを察知したパッツィ公爵はベラルディ公爵の言わんとしていることが瞬時にわかった。
「……はっは。私にも乗れと?…まぁいい。予算はいくらでもある。何せ私は財務大臣…この国の全てのお金を預かる男だからね。して依頼内容は?」
「皇王様から伺っている。これだ…」
そう言ってベラルディ公爵はパッツィ公爵にメモが書かれた紙を渡す。
その紙には……
・アウレリオ・セレノガード及びその妻と思われる女性の暗殺
・リータウンの破壊工作
・リータ・ブラン・リアビティの暗殺
・ルナ・ブラン・リアビティの身柄の確保
そのメモを見たパッツィ公爵はやれやれといった様子でその紙をダレッシオ侯爵とロカテッリ侯爵にも渡す。
「やれやれ。少し皇都が騒がしくなりそうだ。カイサへ行って涼んでこようかね」
「抜かせ。今皇都を離れたら首謀者が私達と言っているようなもの。しばらく皇都でおとなくしているのだ」
「はぁ、まぁ皇王様自らの依頼であれば仕方がない。さっそく彼らに仕事を頼むとしようか」
「今回は失敗できぬから報酬はたっぷり用意しろ。我らをなめ腐ったあ奴らに目にもの見せてくれよう」
ベラルディ公爵の並々ならぬ決意に、パッツィ公爵は少し呆れ、ダレッシオ侯爵とロカテッリ侯爵は恐れ戦いていた。
そうして事件は起こる。
後にこの事件は「皇都事変」と呼ばれ、後の皇国の政争に大きく影響することになるのであった。




