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【閑話】変わる皇都⑧〜トスカの困惑した学園生活

列歴98年 7月5日 8時19分 3区(学園区)セイト学園 正門前


どうも 皆さん こんにちは


カッリスト・ルイーゼ男爵の娘のトスカ・ルイーゼです。


私は下級華族の娘らしく、普段は学園に通い学問に勤しみ、休日や晩は晩餐会やお茶会に顔を出して、華族の社交界に繰り出し、合間合間で父の事業のお手伝いをしているどこでもいる華族令嬢をしていました。


ええ、ついこの間までは



今の私はただの下級華族の娘ではありません…



それが証拠に、学園に登校すると…




「トスカお姉様!おはようございます!」

「ルイーゼさん、おはよう。今日も綺麗だね、今日のお昼は僕とどうだい?」

「トスカ様のご登校よ!道を開けなさい!」



つい先日まで私に見向きもしなかった学園の中心人物…いわゆる一軍という人々が私に構うようになり、挙げ句の果てには派閥の長のように祭り上げるのだ。



というかお姉様と言ったそこのあなたは、私より上級生ですよね?


どうしてこうなった……



いや理由ははっきりしている。



私がドラゴスピア家の会計役に就任したことが、皇都中に広まったのだ。


ドラゴスピア家と言えば、皇国の英雄コウロン・ドラゴスピアが立ち上げ、10年の時を経て、孫のシリュウ君が引き継いだ伝説の名門


そして引き継いだシリュウ君はインペリオバレーナの討伐や帝国からの撤退戦の成功と世に出てから破格の軍功を挙げ続けている今や皇都で飛ぶ鳥を落とす勢いのある武将だ。


それに私達と変わらない年齢であることから、皇都の若者には絶大な人気を誇っていた。


軍人を志す男の子はシリュウ君のように功績を上げたいとか、玉の輿を目指す女の子はシリュウ君のような人物を世に出る前に捕まえたベアトに弟子入りしたいとか、ここ最近の話題の中心は決まって若きドラゴスピア夫妻のことなのだ。


そんなドラゴスピア家の家令に次ぐ会計役に就任した学園内での私の株が知らぬところで爆上がりしたようで、あれよあれよといううちにこんな状況になってしまった。



たった数日で華族子息令嬢が多数在籍するセイト学園のスクールカーストの頂点付近まで来てしまった……



「はぁ……ただの男爵令嬢なのに…」


「何をおっしゃいますか。あなたはこの学園の皇妹派の筆頭です!」


側にいた同学年のアンブロジーニ侯爵の三女ベルタ・フォン・アンブロジーニ嬢が言う。


「いやいやいやベルタ様の方が圧倒的に格があるお方じゃないですかぁ!?」


ベルタ様は皇妹派の筆頭であるメディチ公爵の右腕、商業大臣のオレスト・フォン・アンブロジーニ侯爵の御息女だ。


商業大臣の娘と商業省の出先機関の長の娘……その身分は天と地ほどの差がある。


さらには商業省の中で存在する最大派閥の長であるアンブロジーニ侯爵とその派閥の末席にすぎない私の父では力関係は比べる気にもならない。


「いいえ。わたくしなど所詮父の威光により人が集まっているにすぎません。それに皇妹殿下とも直接声をかけられる間柄ではございませんもの…それに比べてトスカ様はドラゴスピア家の会計役として皇妹殿下から直々に激励されたそうじゃないですか!」


はい…その後もちょくちょくお茶会に呼ばれてます…


「それに公の場にめったに現れない『皇都の妖精』と称されるルナ殿下ともお会いになったとか…!」


はい…ベアトと一緒にリータ殿下のお茶会に行くと必ずいますので、ルナ殿下の希少感はもうそこまでありません…



「さらにさらにあのメディチ公爵とも直接事業のお話をされているとか!」



屋敷の権利関係での調整をリータウンの運営者であるメディチ家と打ち合わせをする必要がありまして…


でもメディチ家側の窓口がメディチ公爵本人だなんて聞いてませんよおおおおおおお!!


毎回胃が痛いのを我慢して打ち合わせに行ってる私をもっと労って…


幸いメディチ公爵様は非常に良いお方なので、逆に「急に私と打ち合わせなんて不憫なのねん…気に病まないのねん…」と気を遣わせてしまうほど……



「うぅ…にしても学園内の派閥の形成なんて私は求めてませんよう…」


このセイト学園は華族子息令嬢が多数在籍しているため、生徒達は自然と親の派閥の影響を受けて、それぞれの派閥を形成していた。


私は下級華族の令嬢ということもあり、派閥の勧誘など受けたこともないが、ここ最近はあらゆる派閥が私を取り込もうと必死だった。


このベルタ様も同学年の商業省を父に持つ子息令嬢で派閥を形成していたのだが、私を取り込むのではなく、私の下に入ることを公言してトスカ派を勝手に作ってしまったのだ。



学園内でそこそこ影響力のあるベルタ様のこの差配により、私を派閥に勧誘する勢力はなくなったが、変わりにベルタ様の下にいた生徒達が私を長として担ぐようになり、私はいたたまれない学園生活を送っている。


「トスカ様はドラゴスピア家の会計役としてのお仕事が忙しいでしょうから、学園内の派閥争いはわたくしにお任せを!」


そう言って小さな胸を張るベルタ様


正直学園内の派閥争いなど、今の私に取っては子どものおままごとのように感じて、どうでも良かったのでベルタ様に任せられるのは都合が良い。


えっ?なんでおままごとに感じるかって?


そりゃあドラゴスピア家(まだサザンガルド政務所が本拠ではある)にいると、やれリータ殿下やメディチ公爵、パオ・マルディーニ少将に、陸軍のサンディ・ネスターロ中将までご来訪され…この間は御用商会にどうだとソウキュウ商会のアルビーナ・イマイ会長自ら営業に来られておりました。


ええ、それはもう刺激的な毎日を過ごしました。


ね?学園内の派閥争いなんて可愛いものでしょう?


私は遠い目をしながら、学園の空を見る。


そんな私を見てベルタ様は勘違いをした。


「その目は学園の頂上を見据えておられる…!ぜひ皇王の息子率いる皇王派の派閥を超える勢力を築いてみせましょう!」



ああ、もうなんか、よろしくお願いします。



以前の私なら飛び上がって驚くだろうが、私は意に介さない。


だって私が仕える主は、息子どころか皇王本人を打倒する気なのだ。




会計役の私が息子程度で怯えていてはままならない。



そう思って、目の前の生徒達が居並ぶ花道を通りながら、私は校舎に入った。



飛び交う歓声や勧誘の声、誹謗中傷はもう鳥の声のように聞き流し、放課後からしなければならない仕事のことをぼんやりと考えていた。







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