第2話 会計役!君に決めた!
列歴98年 6月27日 9時55分 皇都セイト 2区(華族区)サザンガルド家セイト政務所 応接室
ビーチェから力強く「登用しに行くぞい!」と言われたものの、僕とビーチェは相も変わらず政務所にいた。
「外に出て家令と会計役を捕まえに行くんじゃないの?」
僕はそうビーチェに聞いた。
するとビーチェは余裕のある感じで答える。
「ふふふ、実は会計役の候補は事前に見つけておってのう。今日の10時にこの屋敷に来てもらう手筈になっておる」
「ええ!いつのまに…」
恐ろしく早い手際
僕でなきゃ見逃しちゃうね
皇都に帰って間もないのによく会計役なんて見つけられたなぁ
僕が感心しているとメイドのシュリットが応接室にノックして入ってきた。
「お嬢様、来客でございます!」
「おお!来たのじゃ!ここに通すのじゃ。茶を人数分頼めるかや」
「承知しました!」
どうやらその会計役の候補が来たらしい。
そしてシュリットが戻り、その人物を応接室に案内してきた。
「し、失礼します!」
緊張した声色で一礼しながら応接室に入ってきたのは僕と同い年くらいの黒髪の女の子…って…
「トスカじゃないか!久しぶりだね」
「お、お久しぶりです!シリュウ様!ベアトリーチェ様!本日はお招きいただきありがとうございます」
現れたのは以前皇国捕鯨祭前夜祭の時に知り合った商業省に勤めるルイーゼ男爵のご令嬢、トスカ・ルイーゼだ。
「苦しゅうないぞ。妾達は友人、そんなに畏まらないでくりゃれ」
「あはは、ありがとうございます。でも今回の遠征で活躍されてまたシリュウ様とベアトリーチェ様が遠い存在になったみたいで」
「そんなこと気にしなくていいのに。僕らこの皇都で気軽に話せるの人ってまだ少なくて、トスカは貴重なその1人だから仲良くしてよ」
「私でよければ!それで今日は何用でしょうか?」
「え?」
トスカは本日招かれた理由を知らないようだ。
ビーチェの方を見てみると、それはそれは悪い顔で微笑んでいらっしゃる。
おいおい…悪戯がすぎるんじゃないか…
そういえばビーチェは元々こういう人だったな。
「あー、ビーチェさん?ご説明を」
「うむ。トスカよ。今日はそれはそれは大事な話があってのう…」
「な、なんでしょうか…」
ニタニタと不気味に笑うビーチェ
それに恐れ慄く哀れなトスカ
「おめでとう。トスカをドラゴスピア家の会計役に任命しようぞ」
「えっ」
小さく驚いて何を言っているのかわからないような顔をするトスカ
そんなトスカに僕はトドメを刺す。
「トスカ!君に決めた!我がドラゴスピア家の財布は君に預ける!」
「えええええええええええ!!!!!」
顎が外れる勢いで驚き絶叫するトスカ
「な、なんでなんでなんで!?私には荷が重すぎますぅ!巷で話題のドラゴスピア家の使用人に私が!?」
「ただの使用人じゃないぞ?家令に次ぐNo.2の会計役じゃ。おめでとう!」
「ひょええええ!」
なにかの名画のように手を頬に当てて叫ぶトスカ
なんかもうごめん…
「どうじゃ?シリュウよ。妾達が信頼できる会計役じゃ。商業省の役人であるルイーゼ男爵の子とあって算術と経済、会計の知識は同年代で抜きん出ておるそうじゃぞ」
「へぇ!そうなんだ。さすがだね」
「そ、それはあくまで同年代の中だけですぅ…」
「トスカは謙遜しておるが、トスカが通うのは皇都の名門『セイト学園』で、その学力は学年で上から数えて五指に入るほど。その若さでお父上の事業の手伝いもしておるそうじゃ」
「学園に通いながら凄いね。うちの会計役も学園生活の合間でこなしてくれたら嬉しいな」
「そんな片手間みたいに言わないでください!ち、父に相談しないと決められませんよぅ…」
トスカは半泣きになりながら、へたり込んで僕達に上目遣いで言う。
しかしビーチェは容赦ない。
「お父上からは既に了承を得ておるぞ?娘がドラゴスピアの会計役なんて誇らしいと涙を流して喜んでおった」
「ひゅっ………」
やはり外堀は埋められている。
トスカに逃げ道はなさそうだ。
そして僕達に確認するように言う。
「むしろ私でいいのですか?栄えあるドラゴスピア家の会計役なんてそれこそ皇都どころか皇国中の会計士がこぞって応募しそうなものなんですが…経験豊富な会計士も雇うことも難しくないでしょうに…」
トスカは自分が会計役を務めることに役者不足を感じているようだ。
しかし僕ははっきりと断じた。
「そんなことないさ。やっぱり家計を預かってくれる会計役は信頼できる人に任せたい。トスカなら安心して財布を渡せるよ」
「あ、ありがとうございます!」
礼を言うトスカ
しかし僕達はトスカに伝えておかなければならない。
「でもこれだけは言っておくね。僕達はただの華族じゃない」
「へっ?ドラゴスピア家ならそうでしょうが…」
「違う。そういう意味じゃないんだ。僕達は皇都をひっくり返そうとしている」
「えええ!!??」
「早い話がドラゴスピア家は皇妹派だ。皇王派と皇妹派の争いは知っているだろう?」
「は、はい。皇都華族では常識ですね。………もしかして!?」
「そうだ。僕達はリータ殿下を本気でこの国の王にするつもりだ。政争にも巻き込まれるかもしれない。だから家で雇う人は信頼できる人しか雇えない。それも会計役ならなおさらだ」
「その点トスカは信頼がおける。妾達の威を借りるような愚行もせぬと信じておる。その会計の知識も周囲の評判はすこぶる良かった。妾達と共に茨の道を歩んではくれぬか?」
「シリュウ様…ベアトリーチェ様…」
トスカは僕達の目を見つめながら考えている。
そして答えを出す。
「ただの下級華族の子の私が、皇都をひっくり返そうとする家の中心人物なんて…まるで物語に入ったみたいでワクワクしちゃいます…!」
「……!じゃあ…?」
そしてトスカは立ち上がり、綺麗なカーテシーを披露しながら言う。
「トスカ・ルイーゼ、今この時よりシリュウ・ドラゴスピア様、ベアトリーチェ・ドラゴスピア様に忠誠を捧げましょう。よろしくお願いします、旦那様、奥様!」
ベアトリーチェ「まずは会計役ゲットじゃ!」
シリュウ「当てはトスカのことだったんだね。でも家令は難しくない?」
ベアトリーチェ「それはそう…」




