第41話 ハンブルグ海戦⑥〜パオの企みと怒り
烈歴98年6月16日(行軍2日目) 12時48分 シュバルツ帝国 港湾都市ハンブルグ 埠頭
圧倒的な魔術の力でタレイランの船団を殲滅したポアンカレ家は、戦闘終了後にハンブルグに寄港した。
そして今は皇国軍とハンブルグ軍そしてポアンカレの幹部の面々が、ハンブルグの埠頭にて一堂に会していた。
「ふむ。読み通りだ。パオ少将とリアナ少尉の危機と思い、馳せ参じた。無事で何よりだ」
淡々とした表情で何気なしに言うマーガレット所長
「とんでもなく助かったにー。感謝するんよ」
「ありがとうございました!マーガレット所長!」
「なに、君たちはポアンカレ魔術研究所の名誉研究員だからね。助けに来るのは当然さ」
優雅にほほ笑みながら私達の方に手を置くマーガレット所長
そんなマーガレット所長にお礼を言いたい人達はまだいた。
「名高きマーガレット・ポアンカレ公爵とお見受けする。私はハンブルグ自衛隊 隊長のモーリッツ・ハンブルグだ。このハンブルグの領主の甥にあたる。経緯はともあれ、我々の街はあなた方に救われた。最大限の感謝の意をここに示そう」
そう言って、膝をつき、敬礼の礼をするモーリッツ隊長とその部下達
「私達は君たちを助けたつもりはない。私達の行動で君達が勝手に助かっただけだ。幸運だと思っておくがいい。感謝は不要だ」
「しかし帝国軍人として命を救われたのに何もしないというのは矜持に反します。何卒お礼をさせてください」
「ふむ…ならば補給をさせてもらおうか。費用については勉強してもらえると助かる。魔術の研究に資金はいくらあってもいいものでね。できれば航行費用を節約したかったところだ」
「勉強どころか無償で行いましょう。おい……ポアンカレ家の船団に補給を行え!至急だ!」
モーリッツ隊長は大きな声で部下達に催促をする。
「それは重畳…では甘えるとしよう」
「ええ、それに今日はハンブルグにて皇国の方もお泊りになってはどうでしょう。戦闘でお疲れでしょう。我が街で疲れを癒してから出航なされては…?」
モーリッツ隊長は厚意で提案してくれている。
しかし私達にはヴィルヘルム軍の追手が迫っているのだ。
いち早くハンブルグを出航しなければならない。
そう思って、パオからそんな言葉が出ると思っていたが、パオは険しい顔をしている。
「…パオ…どうしたの…?」
「……マーガレット所長…頼みがあるよ」
「ほう。パオ少将から頼みとは…何かね?」
「もう一戦付き合ってくれないか?」
「「「「!?」」」」
パオの発言にこの場にいた全ての人が驚く。
「パ、パオ少将!?何言ってるんですかい!?早く船で皇国に帰りやしょう!」
「そ、そうよ!今は身の安全が優先よ?それにもう一戦って…どこと?」
「……追撃してくるヴィルヘルム軍だね」
ベタンクール都督がそう言う。
そしてこの人今の今までいなかったのに、急に現れてきた。
なぜかは、ベタンクール都督の腕にしがみ付いている虹色の髪をしているシスター服の女性の存在が全てを物語っていた。
この人がジャンヌ・ディルク…
おそらくジャンヌさんから逃げ回っていて捕まって観念してこちらに来たのだろう。
「…どういうことだ?リクソン、説明しろ」
マーガレット所長がベタンクール都督に問う。
「この帝国は皇帝と第二皇子が次期皇帝の選定でバッチバチにやり合っているんだよ。そして第二皇子がしびれを切らして20万の大軍で帝都に攻めてきた。その状況で慌てて僕らは昨日帝都から逃げて来たんだよ。だからその第二皇子の追撃がおそらく明日あたり来るんじゃないかなと予想している。数はだいたい1000くらいだろう」
ベタンクール都督が現在の戦況を推測しながら説明する。
「…1,000程度なら…このハンブルグには1,500の兵がおります!地の利を考慮しても必ず勝てるでしょう」
モーリッツ隊長は力強く言う。
「相手に十傑が1人いても…?」
「な!?……第二皇子の十傑なら…ロロ・ホウセン…フィリップ・ラーム…ミロ・クローゼ…ロタ・マテウス…エゴン・レヴァンドフスキ…ヒルデガルド・ラーム…その誰が来ても…厳しいですな…」
モーリッツ隊長は顔を下向かせて言う。
「十傑全員の特徴を聞いてきた。この状況で現れるのは十中八九ロタ・マテウスとやらだろうね」
ベタンクール都督は飄々として言い切る。
「なんでわかるろん?」
「消去法さ。まずロロ・ホウセン…相手にとっては切り札だろう?僕達程度の追撃には出さない。そしてフィリップ・ラーム、この人物は第二皇子の十傑の中で唯一と言ってもいいほど頭が切れる人物らしい。そんな人物が最重要地点である帝都からは動かないだろう。そしてミロ・クローゼ…どうやら義に厚い武人らしい。そんな人物が追撃なんて任には向かないだろう?…残ったロタ・マテウスは弓の達人でなおかつ経験豊富な将軍らしい。追撃任務にはぴったりだ。来るのはおそらくこいつだ」
わずかな情報からそう推測するベタンクール都督
こういうところを見ると流石は王国の王家の最高軍司令官をやっている人なんだと思う。
「ふむ…この男の軍略に関する予想は外れた試しがない。間違いなく正だろう。つまりパオ少将はこのロタ・マテウス率いる1,000の軍勢と戦うため、我らにまた力を貸して欲しいと」
「そうさ」
力強く言い切るパオ
その表情は覚悟とともに怒りのような感情も感じられた。
「ふむ……他の誰でもないパオ少将の頼みだ…受けてあげたいが理由を聞かせて欲しい。この状況では船でさっさと出航し、逃げるのが上策だ。それでもなおその帝国の一軍と戦いたい理由はなんだ?」
マーガレット所長は私達全員を代弁するようにしてパオに問う。
「オイラはヴィルヘルムが許せない。帝都に外交に来たオイラ達を多数の軍勢で取り囲む卑怯者だ。そして何より……リアナを泣かせた!」
「…!?パ、パオ……」
確かに私はヴィルヘルム軍が迫っていることを帝城で聞いた時に不安に押しつぶされそうになって泣いてしまっていた。
そのことにパオは心を痛めて、そしてヴィルヘルムに対して大きな怒りを覚えていたの…
そしてパオは更に言葉を続けた。
「ここにはマーガレット・ポアンカレ、ダイヤ・ミュラトール、ジャンヌ・ディルク、リクソン・ベタンクール、そしてオイラと最高の魔術師が5人もいる。オイラ達5人でヴィルヘルム軍1,000を蹴散らして、一矢報いたいんだ!」
「……!?……5人で挑むのか…?」
マーガレット所長は驚きつつも冷静にパオに問う。
「そうさ、これはオイラの我儘だ。部下は巻き込めない」
「…待ってくだせぇ!パオ少将だけに任せるわけには…!」
「…ジョルジュ…ここは引いてくれ。それに…文字通り巻き込んでしまうよ?」
「…!?」
パオは本気で魔術を放つつもりなんだ。
だから中途半端な実力の味方は邪魔になるんだと暗に言っている。
「でも我らなら巻き込める…と?」
マーガレット所長は目を鋭くしてパオに言う。
「『七魔』ほどの魔術師なら問題ない。それに魔術をぶっ放すいい機会だろん?」
「……くくく……!…はっはっはっは!…確かにそうだ…最高の魔術師5人で1,000人と戦闘する機会などめったにない…!…このような希少な戦闘のデータを取らないわけがないな!」
マーガレット所長は大きく口を開けて笑う。
「つまり…?」
「乗ったよ、パオ少将。ただ一つお願いがある。」
「何だぬん?」
「君の本気を見せて欲しい」
「問題ない。そのつもりだ」
「ならば契約成立だ!モーリッツ殿…予定が変わった。今宵は一泊させていただこう」
「もちろんでございます…!それに憎きヴィルヘルム軍を叩いてくれるなどまるで英雄でございます。我らにできることがあれば何なりと…!」
「それならお願いがあるろん」
そうしてパオとモーリッツ隊長とマーガレット所長は明日ヴィルヘルム軍を迎え打つ算段を話し合い始めた。
そして途中から蚊帳の外だったベタンクール都督は苦笑いしながら言う。
「……あれ?…僕も勝手に戦力に組み込まれてない?……僕…戦うなんて言ってないんだけど…」
「あら?まだ説得が足りないのかしら…ジャンヌさん…聞いてくださる?実はベタンクール都督は…」
「はい?何でございましょう…?」
「待った待った待った!?何を言うつもりだ!?言うこと聞くから何も言わないで!?」
(。´・ω・)ん?
今なんでもって言った?
「なら明日の戦闘はパオともに参加してくれますね?」
「……はい…」
諦めて項垂れるベタンクール都督
その様子を見てジャンヌは心配そうにベタンクール都督を慰めた。
「おいたわしや…リクソン様…リアナ少尉と言いましたか、あまりリクソン様にご負担なことを強いることはやめてほしいのです…」
膝をついて上目遣いで私に懇願するジャンヌさん
この人は私によく似ている。
だからどう攻めたらいいのかも手に取るようにわかる。
「いえご負担なんてありません。何せ明日はジャンヌさんもベタンクール都督と共に戦うのです。ジャンヌさんと共に戦うことができるなんてベタンクール都督によって負担でも何でもありません。ああ、お二人の相性は物凄く良いと聞いております。ジャンヌさんの配置位置はベタンクール都督の隣しかありえませんね」
「おいいいいいいいいいい!」
ベタンクール都督の悲鳴が響くが無視だ。
それと対照的にジャンヌさんからは歓喜の声が上がる。
「もっちろんでございます!!リアナ少尉はよくわかっていらっしゃいますね!私達仲良くなれそうです!」
「はい。私もジャンヌさんとは親近感を覚えます。私も婚約者のパオとは学生の頃からの同期で…つい最近プロポーズされたんです…10年越しに…」
「まぁ!なんて素敵なことでしょう!詳しくお聞かせください!ぜひ参考にさせていただきますわ!」
「もちろんです。私もジャンヌさんには幸せになって欲しいと勝手ながら思っていますから!」
「リアナ少尉……!(*´Д`)」
そうして私とジャンヌさんは意気投合して、固い握手を交わした。
今ここに固い乙女の同盟が結ばれたのだった。
リクソン「出会ってはいけない2人が出会ってしまった…」
リアナ「ジャンヌさん、あれは照れ隠しなのです。どんどん攻めていきましょう」
ジャンヌ「はい!とても勉強になりますわ!」
リクソン「」




