第39話 ハンブルグ海戦④〜海上の交渉
烈歴98年6月16日(行軍2日目) 9時19分 シュバルツ帝国 港湾都市ハンブルグ リアリ・バルカ号
『あー、こちらポアンカレ家の代表、マーガレット・ポアンカレだ。タレイランの船団とお見受けする』
援軍に現れたポアンカレの船団から風の魔術で拡声されたマーガレット所長の声がハンブルグ近海に響く。
あの凛とした声…同じ女性ながら憧れてしまうほど堂々としていた。
その音質はとてもクリアで、ポアンカレの風の魔術師の練度の高さが伺えた。
「ははは!マーガレット公爵本人も来ているのか!ますます熱が入っているじゃないか。いやぁどうなることかと思ったけど、ほぼ無傷で帰れそうだよ。ラッキー!」
ベタンクール都督は、完全に戦況がこちらに傾いたことを確信し、地面に大の字に寝転がって緊張を解いていた。
「これは…ポアンカレとタレイランの交渉ですかい?俺達は入らなくても?」
ジョルジュ大佐がベタンクール都督に問うた。
「まぁ王国の貴族同士の話しだから、皇国は入らない方が無難かもね。パオ少将、拡声魔術は使える?」
「使えるにー」
「よし。じゃあ僕も会話に参加させてもらおうかな」
そう言って、ベタンクール都督はパオがの近くに立ち、パオの拡声魔術を利用して、タレイランとポアンカレに問いかけた。
『あーこちら皇国軍に随行しているボナパルト王家所属 都督リクソン・ベタンクールだ。ポアンカレの援軍感謝する。タレイランの船団に囲まれて危うく帰国できないところだった。さてタレイランの諸君、海の藻屑となる覚悟はできたか?』
ベタンクール都督はタレイランの船団へ強気に言う。
しかし制したのは意外にもマーガレット所長だった。
『勘違いするなよ、リクソン。我々は友人たるパオ少将とリアナ少尉のためにここにいる。間違っても貴様のような気障な男のためではない。何ならタレイランの船団を沈めた後に貴様だけ帝国に置いて帰っても問題ない』
『そんな殺生な!?せめて連れて帰ってよ!?』
『ふむ……なら条件として……あ、ちょっと…待て……『リクソン様ぁぁぁ!!!!』』
唐突にマーガレット所長の拡声魔術を横取りして、甲高い女性の声が響いた。
しかもベタンクール都督の名前を呼んでいるけど…
『ぎょっ!?…ジャ、ジャンヌ…!?』
『はい!あなたのジャンヌでございます!あなたの恋人ジャンヌ・ディルクが迎えに来ました!マーガレット所長が置いて帰っても、私が王国に連れて帰ってあげますわぁあ!!』
きょ、強烈な個性の人ね……カチヤ将軍なみに存在感があるわ……
「にー。リックって恋人いたんだぬん。嫁が欲しいとか言ってたからてっきり独り者かと思ったろん」
「そうね。こんなところまで助けに来てくれるなんて、とても一途な方なんでしょう?素敵な人に見初められてベタンクール都督は幸せ者ですね」
私達は率直な感想をベタンクール都督に言うが、ベタンクール都督は首が千切れる勢いで首を横に振った。
「違う違う違う!!ジャンヌは恋人でもなんでもないって!ただの魔術学校からの同期!それに一途なんて可愛いものじゃない!あれは…執着…!…人の形をした怨念のようなもの!」
うわぁ……女性の好意に対してなんて言い草…
私はベタンクール都督を女の敵と認定した。
「……ベタンクール都督は女性の敵と……リータ殿下とベアトにも共有しておかなくちゃ」
「そうだろんね。恋人に対してなんて素っ気ない。酷い奴ろん」
「漢らしくありまやせんね……もっとどっしりと女性の愛を受け止めなされ」
私達はベタンクール都督に対して集中砲火する。
「君達は勘違いしている!ほんと!ジャンヌは……普通じゃないんだって……!」
まだ見苦しい弁明をするベタンクール都督
そろそろこの不届き者を断罪しないと女神様に怒られちゃう。
「パオ、やっちゃって」
「うい」
『こちら皇国海軍 少将パオ・マルディーニだろん。ポアンカレの援軍感謝する。タレイランよ。交戦の意志がなければ、そのまま帰って欲しいにー。無駄な戦闘は望まないさ。あとジャンヌさん、リクソン・ベタンクールの身柄はあなたに預けるので、王国まで持って帰って欲しいぬん』
『喜んでぇえええ!!』
「パオ少将おおおおお!!??」
パオの一言に天国と地獄にいるかのような声が響き渡った。
そして先ほどから沈黙していたタレイランの船団から応答があった。
『こちらタレイラン家所属 司令官 アデラール・バレだ。こちらに交戦の意志はない。たまたま大陸東海において遠洋航海訓練をしたところ、物資が切れかけたので、ハンブルグに帰港し補給させてもらおうと思っていただけだ。無用の誤解を招いてしまい申し訳なく思う』
「って言ってるろんよ?」
パオが死に体のベタンクール都督に問う。
「嘘に決まっているよね………まぁ僕達もタレイランを滅ぼしたいわけじゃないし、賠償が何か欲しいところだけども…そのまま撤退してくれるならそれに越したことはないね……」
「じゃあそのまま帰ってもらいましょうか」
私はベタンクール都督に確認するが、その前にマーガレット所長から異議が入った。
『そんな嘘を信じるとでも?我々が来なければ、皇国軍は船で帰国できないところであった。そのまま無傷で帰ろうなど虫のいい話があるか』
『し、しかし!本当なのだ!こちらに交戦の意志はない!それになぜ中立のポアンカレがここにいる!?』
『中立?いつの話をしている。我々は皇国軍と同盟を結んでいるのだ。同盟相手を攻撃しようとする敵軍を攻撃するのは立派な集団的自衛権の行使だろう?』
『な!?……い、いや…!皇国軍を攻撃するなどそんなことはせぬ!』
『しかし客観的に見て、貴様らが帝国海軍と相対し、皇国軍の出航を邪魔しているのは事実…それにそんな拡声魔術を使えたのに、帝国海軍と交渉はしたのか?』
『ぐっ……!?』
マーガレット所長の厳しい追及にタレイランの船団のおそらく責任者であろうアデラールは答えに窮した。
そして帝国海軍からも応答があった。
『こちら帝国ハンブルグ領邦軍 自衛隊長のモーリッツ・ハンブルグだ。昨日からそこの船団を相対しているがこちらからの呼びかけには一切応答しなかったため、敵勢力と認識している。我々はこのハンブルグを守ることができれば何も言わない。王国の名高き魔術師集団ポアンカレ家の援軍に最大限の敬意を表する』
『な……!?…』
完全に孤立してしまったタレイランの船団
そしてマーガレット所長から無慈悲な裁決が下る。
『だそうだ。それに私もそろそろうちの研究員達を抑えるのが限界だ。皆貴様らに魔術を放ちたくてしかたがないらしい。そして私もな。愚かなタレイランの者どもよ、帝国の海に落ちるがいい。ああ、大丈夫だ…船が沈んだ後はきちんと拾ってやろう…生きていればな…』
マーガレット所長の発言に、覚悟を決めたアデラールは、自身の兵たちに指示を出す。
『ぐ……!そ、総員構え!目標…ポアンカレの旗艦!…白兵戦に持ち込め!』
『こちらは何でもいいぞ?では、諸君…実験開始だ』
タレイランとポアンカレ
王国の大貴族の船団が帝国の地にて激突する。
その行く末は、この海上にいる誰もが同じ結末を思い描いていた。
リアナ「ジャンヌさんの何が嫌なんですか?」
リクソン「だって彼女いつも僕に付き纏うんだよ?学校では授業も課外活動もクラブ活動も全部僕と一緒!選択授業や学科まで合わせてきた!毎朝僕の寮まで迎えに来て、放課後も迎えに来るんだ!学校卒業後も僕の家の隣に引っ越してくるし…いつまでも付いてくるんだよ……」
リアナ(………私じゃん…)




