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【閑話】どこの恋する乙女も最強

烈歴98年6月16日(行軍2日目) 9時2分 シュバルツ帝国 港湾都市ハンブルグ近海 ポアンカレ船団 旗艦甲板


王国から数日かけた航海の末、タレイランの船団がハンブルグを襲撃しようとする様子を見て、自らの推測が当たったことに安堵したマーガレット・ポアンカレは、船上に用意させた高級な椅子に腰掛け、好物の高級紅茶を優雅に嗜んでいた。


「ふむ。とりあえずは最悪の事態を避けられて何よりだ。パオ少将をはじめとして、皇国の方々に何かあると世界の損害だからな」


そしてマーガレットと同じテーブルに着くことが許されている2人もマーガレットに同調する。


1人はタキシードに身を包み、大きなハットを被っている40代ほどの長身で細身の男


その手には杖を持っているが、それは歩行を補助するものではなく、自らの強大すぎる魔力を制御する魔道具だ。


「ンフフフ!久方ぶりの聖戦…!ワタシの魔術を正義の名の下にぶっ放せるなどこれほど嬉しいことはない。この機会を提供してくれた皇国に感謝の気持ちでいっぱいさ…!」


自らの魔術を放つ機会が滅多にないことから、これから始まる戦いに誰よりも喜びを感じているこの男


 王国に7人しかいない一級魔術師である「七魔」


その中でも世間からは上位に位置すると評価されている。


王国一の爆魔術師


『戦爆葬送』ダイヤ・ミュラトール



「このような命のやり取りに享楽を感じることは女神様への不敬でございます。しかしながらあの船に乗船する者たちは私達の同胞を屠ろうとしている不届者…心苦しいですが露と消えていただきましょう」


シスター服に身を包み、正体を知らなければ美しき聖職者としか見えない。


シスター服からは隠しきれない特徴的な女性の体つきを持ち、その美貌と相まって多くの男性から恋慕を集める罪深き人


魔術大国の王国でも極めて珍しい火・水・風・土の魔術を操るポアンカレの最高傑作とも呼び声が高いこの女性もまた『七魔』の一人



『森羅万象』ジャンヌ・ディルク


そんな2人の同調にマーガレットは更にこの戦いの意味を深めることを言う。


「タレイランや帝国の兄弟喧嘩にはカケラも興味はないが、パオ少将やリアナ少尉の安全が脅かされるならこの魔術、存分に振るう価値はある。それにどうやらリクソンも皇国使節団に同行しているらしい」


「リ、リクソン様が!?」


マーガレットの発言を聞き、椅子から飛び上がるくらいに驚くジャンヌ


「そうだ。シャルル王本人から聞いたから間違いない。これもまた数奇な運命だな」


マーガレットは帝国の内乱に巻き込まれたリクソンのことを言ったつもりだが、ジャンヌの捉え方は違った。


「ええ…ええ!こんな遠い地でも引かれ合う私達は、やはり運命の赤い糸で結ばれています!必ずやリクソン様をお救いし、お褒めの言葉をもらわねば!」


多くの男性から恋慕を集めながらジャンヌが独身である理由はこれだ。


ジャンヌ・ディルクは魔術学校でリクソンと出会って以降、彼に猛烈に恋慕していた。


当のリクソンは重たすぎるジャンヌの愛を躱し続けているが。


そのことは公然の事実で、ジャンヌの様子を見た周りの面々は慣れた様子で涼しく受け流した。




「ンフフ!リクソンとの情事は人目につかないところで頼むよ?なんならタレイランから一隻奪って君たち2人だけの船にしようか?君の魔術なら1人で操船できるだろうね。ンフフ!」


ダイヤは冗談のように言うが、それを聞いたジャンヌの目は本気であった。


「ダイヤ殿…素晴らしい案です!…そうと決まればさっそく鹵獲しましょう!…ダイヤ殿…全て爆撃してはダメですよ?必ず一隻は残すように!」


ダイヤの冗談は真に受け止められ、その様子を見たマーガレットは熱に浮かされたジャンヌの後始末のことを考え、こめかみを抑えながらため息をつく。


「…はぁ…余計なことを言ったか…しかし焚き付けたのはダイヤだ。ダイヤに後は任せた。私はパオ少将から得たデータの検証で忙しいからな」


「ンフフフフ!そんな殺生な…!共に力を合わせて戦いましょうぞ…」


「本音は?」


「もしリクソン殿があの街にいなかった場合、後の事が恐ろしすぎます。助けてください」


「やれやれ…恋する乙女はいつでも最強か…まぁいなかったら王国に帰り、リクソンとの会席の場を責任を持って用意しろ」


「イエスマム」


そんな雑談を交わしながらポアンカレの船団はタレイランの船団に迫る。



蹂躙劇はすぐそこだ。



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