第38話 ハンブルグ海戦③〜最強の援軍
烈歴98年6月16日(行軍2日目) 8時18分 シュバルツ帝国 港湾都市ハンブルグ リアリ・バルカ号
ハンブルグに到着した私達は、ハンブルグの街で一泊しようと思ったが、機能している宿はなく、帝国基地での受け入れも難しいそうだったので、結局停泊中の皇国の船内で一泊した。
パオは兵士達の疲労を考慮して街中での宿泊を優先しようとしたが、実現しなかった。
船内だといつタレイランの船団との戦闘になるかわからなかったからだ。
それでもジョルジュ大佐はじめ多くの兵士は、「結局船の中が1番眠れるんでさぁ!」と気にしていなかった。
そして一晩明かした後、私達は甲板でタレイランと帝国海軍の睨み合いを見つめながらこれからの戦略を立てる。
「ふーむ、タレイランの船は20隻…対する帝国は10隻…そして俺達が人員的に海戦に出せるのはガレオン船のリアリ・バルカ1隻かガレー船2隻でしょうなぁ」
ジョルジュ大佐が現在の人員で戦闘に出せる船の現状を分析した。
「…白兵戦ならまず負けるね。こちらの最大の強みは僕とパオ少将という強力な魔術師がいることだ。タレイランにはおそらくプスキニア・メルセンヌは乗船していない。いたら碌な魔術師がいない帝国海軍はすでに沈んでいるだろう。上級は数人いるだろうが、僕らがいれば魔術戦ならまず負けないだろうね」
「…20隻…ほんとにいけるのかろん?」
「ははは、僕の火と君の風…火計にはもってこいだね。問題は相手の陣形がうまく火が回ってくれる形かなのかだけど…」
「でしたらリアリ・バルカ号より小回りのきくガレー船でいきましょう。幸いにも水の魔術師はパオと私がいます。操船は問題ないかと」
「ここに来てリアナ少尉が水の魔術師として覚醒したのは大きいね。ははは、ならパオ少将とジョルジュ大佐、僕とリアナ少尉で別れて乗船しようか」
「それが良さそうだろん。あの20隻沈めて皇国に帰るじゃもんね」
「ですな。とっとと沈めてしまいやしょう」
パオとジョルジュ大佐は今すぐにでも船を出して、タレイランの船団を沈めたそうだったが、私は待ったをかける。
「ちょっと待ってください。腑に落ちないことがあります」
「お?なんだぬー?」
パオが私に聞くが、私の考えはまだまとまってない…
話しながら答えを探すことにした。
「あのタレイランの船団は、相対している帝国海軍にはかなり有利なはず…なのになんで攻めて来ないのか?そこが引っ掛かっているの」
「何か裏があると?」
ジョルジュ大佐が私に問う。
「おそらく…でもそれが何なのかわかりません。この状況で下手にタレイランへ突撃するのも気持ち悪くて…」
私は必死に考えた。
明らかに有利な状況で帝国海軍に攻め込まない。
「私達が到着する前に帝国海軍を破って、皇国の船を沈没させるのが最高のシナリオじゃないの…?」
私は思考の海で迷子になる。
何かがおかしいのはわかるが、何がおかしいのかがわからない。
そんな私を見てベタンクール都督は答えに行き着いたようだ。
「………なるほど…ありがとう。リアナ少尉、君の疑問でタレイランの真の目的が見えたよ」
「え!?」
「…そもそも帝国海軍なんてないんだよね。あれは正式にはハンブルグ軍だ。帝国軍は海軍と陸軍で分けてないんだ。そして今このハンブルグの静謐さ。おそらくハンブルグ軍のほとんどが海に出ているだろうね」
「つまり…陸は手薄!?」
「参ったね。てっきりバルター将軍がタレイランをやり込めたと思ったけど、これもタレイラン…いやヴィルヘルムの掌の上か。あのタレイランの船団は囮かぁ…いや違うな…お互いがお互いを囮としているのか?…なんて老獪な奴らだ」
「にー!?じゃあヴィルヘルム軍が今このハンブルクに来たら!?」
「ヴィルヘルム軍に十傑がいたら兵が1,000もいたら落ちるだろうね。いやはや…これならシリュウ准将にもこっちに来てもらった方が結果的にも良かったか…?」
ベタンクール都督はしてやられたりという顔で嘆く。
「結果論だろん。あの状況でここまで読めないにー」
「それはそうか…さて、ヴィルヘルム軍の追撃は早ければ今晩に来るだろうね。それまでに僕らはあのタレイランの船団を沈めるか船を諦めて王国に南下するかしかないかな」
「う、海に逃げるのはダメでしょうか…?」
「それも考えたけど北上して、反時計回りに大陸を廻って皇国に帰還する海路しか選択できないね。南下はタレイランの船団がいるから。反時計回りでもいずれはヴィルヘルムが支配する海域を通らなければならない。勝算は薄そうだ」
「じゃあ今日中にあの船団を叩き潰すしかないってわけでっさ!」
「ジョルジュ大佐の言う通りだね。正直港を利用できる僕らは補給の心配がないから長期戦の方が有利だったけど仕方ないか。勝算が五分五分から三分七分くらいになったくらいだろう、ははは!」
「に、2割も下がってるじゃないですか!?」
「そうだね。でもやるしかないだろ?」
ベタンクール都督が鋭い目つきで私達に問う。
「リックの言う通り。やるしかないろん。徒歩での南下も追撃のことを考えると難しそうじゃもん」
パオも覚悟を決めたようだ。
私もここで覚悟を決めなければ。
そう思って私は両手で頬をバチンと叩き気合いを入れた。
「行きましょう……!皇国に帰るために!」
私達はお互いに顔を見合わせ頷きあう。
そしてタレイランと帝国軍が向き合っている方を見る。
するとベタンクール都督が何かに気づいたようだ。
「…ん?……気のせいか…タレイランの船団の向こうに…何か…」
そしてベタンクール届くは手を目の上に当てて、目を細めて遠くを見た。
「……ん〜?…何だ…?……ってえええええ!!??」
その何かの正体がわかったベタンクール都督は素っ頓狂な声を出して驚く。
「ぎゃっ!なんだぬん!?」
「何が見えたんですかい!?」
パオもジョルジュ大佐も何事かと聞く。
「………まさか…いや…ここにはパオ少将がいるから?…いやいやあいつら本気すぎない?」
ベタンクール都督は驚きながら顔を引き攣らせている。
「何が見えたんですか?」
私は率直にベタンクール都督に聞く。
「おめでとう。早い話が僕たちは助かった」
「「「え!?」」」
ベタンクール都督の発言に驚く私達
一体何が見えたのか?
「も、もしかして王国からの援軍ですか!?」
私は期待を込めて言う。
そしてベタンクール都督は首肯した。
「その通り。しかもめったに戦に出ない王国最強…いや海戦においては大陸最強の援軍だよ」
「……まさか……ポ、ポアンカレかろん!?」
パオが髪を逆立てて猫のように驚く。
そして遠くに見えていた何かははっきりと姿を表した。
そこにはタレイランとほとんど同数の船団が現れた。
「ははは!あいつら、パオ少将のことがよっぽど好きらしい!規模は20隻相当!船の数は一緒だがタレイランとポアンカレでは大人と子供くらい魔術師戦力の差がある!僕らはタレイランの船団のために女神に祈りを捧げるだけですみそうだ!」
唐突にハンブルグの海に現れた大陸最強の魔術師軍団
それはこのハンブルグの戦いを終わらせるのに、あまりにも過剰な力だった。




