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第37話 ハンブルグ海戦①〜リアナの覚醒

烈歴98年6月15日(行軍1日目) 帝都シュバルツシュタット 郊外 帝都東街道


帝都でリータ殿下達と別れた私は、パオとベタンクール都督と共に、先行したジョルジュ大佐と合流すべく、帝都の西に広がるハンブルグへ至る街道を疾走していた。


私は自身の風の魔術で加速するパオに抱き抱えられている。


ベタンクール都督は魔術で加速するパオと同じ速度を涼しい顔をしながら自身の脚力のみで疾走している。


で、出鱈目ね…


パオもそう思ったのかジト目でベタンクール都督の方を見て言う。


「……にー。この状態のオイラに素の脚力でついてこれるのかろん?出鱈目だぬん。そんなのシリュウっちぐらいだけと思ってたんじゃもん」


「ははは、僕からすればそんなに効率が良く加速しているパオ少将の方が出鱈目だけどね。とんでもない魔力操作性だ。さぞポアンカレもご満悦だったろう」


「ぎょっ…ポアンカレ…ね…ぐふっ」


パオがポアンカレ家での二日間を思い出して、俯いて咳き込む。


パオにとってあの二日間はとてもしんどいものだったから…


だって隙あらばポアンカレの研究員達がパオのことを揉みくちゃにしてるんだもの…


「…その様子だと酷い目に遭ったようだね…僕も経験があるからわかる…あいつら魔術のことになると良い意味でも悪い意味でも見境がないからなぁ…」


それはベタンクール都督の言う通りだった。


そして良い意味での見境のなさも知っている。


「それにしてもよく二日も行ったね?1日は休暇だったろう?無理して行くこともなかったのに」


ベタンクール都督が不思議そうに聞く。


確かに1日はリータ殿下の指示で行ったけど、2日目は私達の意志でポアンカレを訪問していた。


その理由は……



「それは私のせいなんです…」


私は申し訳なさそうに手を挙げて自白する。


「え?そうなの?」


ベタンクール都督が意外そうに聞き返した。


「にー。リアナのせいじゃないろん。オイラもお願いしたから」


パオはそう言ってくれるが、2日目はパオは付き添いだったのだ。


「私の我儘なんです…ポアンカレでパオのついでに私も魔力測定してもらったら、私に水の魔力に適性があることがわかって、二日間かけて魔術を使えるように特訓してもらってたんですぅ…」


「へぇ!それは凄いじゃないか、僕と変わらない年で魔力覚醒か…さぞポアンカレの奴らは興奮しただろうね」


ベタンクール都督の言うように私の測定結果が出た時の研究員達の興奮は尋常ではなかった。


「こ、この年齢で魔力覚醒だと…!?しかも汎用性抜群の水じゃないか!?」

「皇国でも魔力測定はしているはず…その時に引っ掛からなかったことの要因は…!?」

「き、きみ!!最後に魔力判定をしてからの生活様態を教えてくれ!」


それはもう蜂の巣をつついたような騒ぎだった。


あれやこれやと私の生い立ちや学園での活動内容、機密を話さない範囲での軍での業務や私生活のことまで詳らかに聞き取りをされた。


非常に恥ずかしかったが、聞き取りは女性研究員だけだったし、研究員達の目の輝きはあまりにも純粋無垢だったため、私はできる限り誠実に答えた。


そしてその聞き取り内容もポアンカレの最新研究の一助になったようで、そのお礼と言わんばかりにポアンカレの研究員達は私に余すことなく魔術を使用する秘伝を伝授してくれたのだ。


「…ちなみに…リアナ少尉がその年で魔力覚醒した理由聞いても?」


「ええ、隠すようなことではないみたいなので。私は16歳の頃からパオとずっと一緒にいたのでその影響で、私の体内魔力が増大したそうです」


「ほう…それは色々と興味深いね…」


私の聞き取りからポアンカレが結論付けたのは、長年常にパオと一緒に行動したことにより、パオの魔力が私の魔力に影響して増大したというものだ。


私は15の頃にパオと出会ってから常に一緒にいたのだ。


最初は委員長として、パオを指導するために、その後はパオに恋して、他の女に奪われないように行動を常に共にしていたのだ。


その影響で強大なパオの魔力に私の魔力が共鳴し今26歳にして私は魔術を行使できるほどの魔力を有していたのだった。


そして水の魔力が覚醒したのは、私が小さい頃からずっと海近くで生活していたこと。


父も母も海軍基地で働いていたし、私自身も軍学校から海軍入隊まで常に海に関わってきたから間違いないだろうとのことだ。


「……なるほどねぇ…魔術師一族に魔術師が生まれやすいのは遺伝ではなく、幼少の頃より常に魔術師が身近にいるから魔力が覚醒しやすくなるのかな…これもポアンカレの研究成果か…いやはや実に興味深いなぁ」


ベタンクール都督は、私の話を聞いてニヤニヤ笑いながら思考の海に飛び込んだ。


この人は王国随一の火の魔術師だったはず…


ポアンカレの理論が正しければ、この人の人生はどんなものだったのだろうか…


まさか火の中で生まれたんじゃない?


私が怪訝な目でベタンクール都督を見つめていると、ベタンクール都督は、私の思考が読めたのか笑いながら答えた。


「ははは、火山の火口から生まれたなんて逸話は持ってないよ。まぁ幼少期に火が身近であったことは認めるけどね」


「ふへぇ…ほんとなのかろん…」


ベタンクール都督の回答にパオも驚いて言う。


「流石はポアンカレね…だから魔術に関しては最先端を走っているだけのことはあるわ」


「それは間違いないね。魔術師だけの戦力なら間違いなくポアンカレが王国一だ。僕と同格の魔術師が後3人もいるからね」


「え!?さ、3人も!?マーガレット所長だけじゃないのですか!?」


「ノンノン、むしろマーガレット所長はその中なら3番手さ。ダイヤ・ミュラトール、ジャンヌ・ディルク…どちらも王国屈指の魔術師さ。まぁ変人だけどね」


「にー。その2人もリックにだけは言われたくないだろうねん」


「辛辣だなぁ、パオ少将は!ははは!」


大きく口を開けて笑うベタンクール都督


ベタンクール都督もとんでもない魔術師なことは聞いているけどこの人と同じくらいすごい魔術師が3人も擁しているなんて、改めて凄いところにお世話になったのだと私は痛感した。



そんな話をしていると、前方に行軍している集団の背を捉えた。



あれはジョルジュ大佐率いるハンブルグへの先行帰還部隊だ。



私達は帝都を出発して、約半日でジョルジュ大佐の部隊と合流することができたのだ。





リクソン「ずっと普通に会話してるけど、リアナ少尉はずっとパオ少将にお姫様抱っこされてるんだよ?それを隣で見せ続けられる僕の気持ちわかる?」

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