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第29話 ノースガルドに至る道④〜森の中の迎撃戦


烈歴98年6月16日(行軍2日目)  7時13分 シュバルツ帝国 ラインハルトの森


「ウホホオオオオオ!!!!」


早朝にラインハルトの森に入って早二時間


森の中の行程では序盤のはずだが、いきなりこの森の主と思われる強大な魔獣に出会した。


「ひいいい!で、でかい!」

「うろたれるな!対魔獣陣形を組め!」


兵士達に動揺が伝播しそうになるが、ジーノ大尉の命令で隊列に乱れは生まれない。


こういう時に経験豊富な将校の存在は本当にありがたいね。



僕は前に出て、隊列を庇うように槍を構える。




その大きさは3階建ての建物くらいあり、胸には隆々の筋肉が激しい主張をしている。


体毛は薄紫をしていて、その眼光は真っ赤に染まっている。


こいつが王猿か


Sランク魔獣とヒルデガルドは言っていたが、そこまでの圧は感じない。


僕も経験を積んだからかな?


「Sランクの割に弱そうだと思ってそうな顔ね」


顔に出ていたのか、ヒルデガルドに見抜かれる。


「なんでわかるの…」


「首を傾げて不思議そうにしてるからよ…誰でもわかるわ…まぁそれは合っているのだけど」


「どういうこと?」


「そいつはSランク魔獣でも、帝国の中では最弱扱いされてるわ。剛力もあるし、凶暴性も普通の魔獣とは桁違いだけど…そいつ単体ではAランク相当よ」


「こいつ単体では…?」


僕がそう疑問に思っていると、周りの木々が一斉に揺れる。



ガサガサガサガサガサガサ!!



「そいつは猿の王。多数の猿型魔獣を統率する森の主よ」


ウキャー!

ウキー!

キャッキャ!!!


そして僕らの周りを取り囲むように無数の猿達が現れた!



「くっ…!」


これだけ多くの魔獣が現れたら、非戦闘員達を守りきれない!


「ヒルデガルド!ここは僕に任せろ!君はリタさんのところへ援軍に!」


「承知…最後尾への援軍は?」


「中央が片付いたらでいい。親玉はこいつだろ?雑魚ならどれだけいてもビーチェ達は負けない」


「わかったわ…そいつを討伐したら首を周囲の猿に見せびらかしなさい。そうすれば猿たちは逃げるはずよ」


「わかった!武運を祈る!」


「そっちこそ!」


そう言い残してヒルデガルドは馬で隊列を逆走していった。


「シリュウ准将!ご指示を!」


ジーナ大尉が僕に指示を請う。


「文官達を守ることを最優先に!討伐は全部僕に任せろ!各々防御体制を取れ!」


「なっ!?あれほどの数…シリュウ准将と言えども無茶ですぞ!」


「大丈夫!みんな耳を塞いで!」


僕がそう指示をして、目に見える範囲の全員が耳を塞いだのを見て僕は猿達に咆哮を放つ。


「十の型……龍の咆哮…すうぅぅぅ……」


そして吸った息すべてを吐き出す勢いで、喉が潰れそうなくらい叫ぶ。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」



「キィー?!!」

「ギャー!?!」

「キイイイイインイイ!?」


僕が放った咆哮で無数の猿達は蜘蛛の巣を散らしたように逃げていった。


そして残ったのは僕の咆哮に耐え切った一部の猿と王猿だけだ。


「さてと…かかってこいよ。お猿さん」


僕は挑発するように槍を王猿へ向けた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


凱旋軍 最後尾


「ウオオオオオオオ!」


遠くから凄まじい雄叫びが聞こえてくる。


妾たちを囲んでいた猿達も何事かと恐れ慄いている。


そしてそれは人間も同じ。


「な、なんだぁ!?猿の雄叫びが聞こえたと思ったらそれ以上のバカでけぇ咆哮が聞こえてきたぞ!?」


特務第二部隊…通称シリュウ隊において、シリュウと妾に次ぐ武術の腕を持つシモン・オッド大尉が驚くように言う。


「シモンや。驚くでない。あれはシリュウの咆哮じゃ。雑魚敵を威嚇しておるのじゃろう」


「ひええ…すごい大きな声…私にはドラゴンの咆哮にしか聞こえませんよぉ〜」


怯えながら杖を握りしめているのは、アンジェラ・トーニ少尉


シリュウ小隊では貴重な魔術師である。


「アンジェラよ。あれは妾達を守るものじゃ。恐れるでない。そして妾達は目の前の猿どもを蹴散らさねばならぬ。お主の魔術が頼りじゃ」


「ま、任せてください!」


「ベアトリーチェ少尉、いかがしよう」


剣を構えて、指示を請うておるのはダニエル・ロッシ中尉


階級こそ妾より上じゃが、ここでは隊長補佐と隊長代理、隊長の名代でもある隊長補佐である妾の方が指揮権は上にある。


ダニエル中尉に指示するための情報を集めるため、妾は辺りをざっと見渡した。


先ほどまでは数え切れぬほどの猿がいたが、シリュウの咆哮により、数えられるまでに頭数は減っていた。


それでもざっと100匹はいるじゃろう。


(遠いながらもシリュウの咆哮を耐えたか…なら残っている魔獣はCランク相当であろう…であれば…)


「ダニエル中尉、シリュウ隊を除き、全ての兵を非戦闘員の護衛に回すのじゃ」


「承知!ならば!我々は…」


「うむ、猿掃除と参ろうか。妾に続け!」


そう言って妾は近くにいた猿の喉をレイピアで突いた。


ザシュッ!


「キイイャイイイ!」


断末魔を叫びながら地には伏す猿


「まだまだこんなものではないぞ?シリュウ隊よ!猿どもを殲滅せよ!我らが隊長シリュウ・ドラゴスピアにシリュウ隊の華々しい初陣の報告をせねばな!」


「「「うおおおお!」」」


鬨の声を上げて答えるシリュウ隊の面々



「おるぁ!!シリュウ隊長直伝の槍を喰らえ!」


シモン少尉が槍を振り回し、複数の猿を切り伏せた。


「逃しません…!ファイアーボール!」


アンジェラ少尉が火球を猿たちに飛ばす。


初級魔術ながら3つの玉を顕現させ、見事に命中させている。


火球を喰らった猿たちは消えることがない火に襲われ焼け死んだ。


「油断するな!必ず多対一で当たれ!連携を崩すな!」


ダニエル中尉は持ち前の広い視野で、兵達を指揮しており、苦境に陥った兵士の救援をして、戦線を有利に進めている。


「うちの小隊長はみんな優秀じゃのう。なら妾も張り切らねば…!」


そして妾はまた猿達の群れに突き進む。


そして猿の急所を突き、次々と屠ってゆく。


誰よりも猿を討伐し、愛しい旦那の褒め言葉をもらうために


妾の頭の中は、どんな風にシリュウに褒められるかを考えることでいっぱいで、目の前の鮮血に染まる猿達は眼中になかった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ボス猿の相手をシリュウ准将に任せた私は、隊列を囲んでいた猿達を切り刻みながら中央のリータ殿下とアウレリオ准将と合流すべく、隊列を逆走していた。


先頭と最後尾は軍人で固めているから大丈夫だと思うけど、中央は非戦闘員の割合が多い。


シリュウ准将の咆哮で数が減ったとはいえ、まだざっと見て数百の猿がこの隊列を囲んでいた。


1匹1匹は雑魚だけども、集団で襲いかかってこられると非戦闘員なら命を落としてしまうかもしれない。


そう考えると王猿が現れた先頭よりも、中央の軍が1番危機に晒されていると言えた。


むしろあの化け物の相手をさせられる王猿に同情するわ。


御愁傷様


隊列をある程度逆走したところで、隊の中心の目標の馬車が見えた。


中央軍は主な戦力が、皇軍50名で、それぞれが猿を問題なく討伐していたが、あまりにも数が多いため、散り散りになっている。


1人の兵士が3、4人の文官達を守っているような形になっている。


私は苦戦している兵士に群がっている猿を優先的に切り伏せた。


ザン!


ザシュ!


ザッ!


切り伏せたところに助けた兵士からお礼を言われた。


「れ、礼を言う!助かった!」


皇軍の兵士からお礼を言われるとは私は驚いた。


私は王国から急に現れた部外者のような人間で、唐突にアウレリオ准将の副官に収まったのだから、既存の皇軍の兵士から腫れ物のように扱われていたからは疎まれていたと思っていたからだ。


「お礼は私を受け入れたリータ殿下とアウレリオ准将に…」


それだけを言い残して、さらに猿達を切り伏せながら中央へ向かう。


中央に行けば行くほど猿達の数は増えて行き、馬車の付近は数名の兵士に対し、100匹近い猿がいた。


馬車の付近には盾を構えるアウレリオ准将と周りに檄を飛ばすリータ殿下の姿があった。


「持ち堪えろ!すぐに援軍が来る!」


「どれも雑魚よ!皇軍兵士の意地を見せなさい!」


「「うおおお!!」」


士気は上々


このままなら持ち堪えられる…


すると一際大きな猿が現れ、馬車に襲いかかった。


「ウホホホホ!」


「キャー!」


大猿が馬車を持ち上げようとして、馬車は大きく傾く。


その際に馬車の窓からアウレリオ准将のお母様であるレジーナ様の姿が見えた。


大きく傾く馬車の中で顔を強張らせていた。




これは…お義母様の危機!


私は血が沸騰するほどの怒りを大猿に向けた。


「…こんの…猿がぁ…!!お義母様に…何をする…!!」


疾風のように駆け出し、大猿の首目掛けて一閃


ザシュッ!


大猿の首を地面に落とした。


その勢いのまま、馬車付近の猿を一気に切り刻む。


「ウギィ!」

「ウキャキャ!!」

「ウギィヤァ!!」


「死に…さらせ…!」


私は怒りのままに、剣を振るい、猿達を殲滅する。


1匹突いては、2匹を斬り伏せ、3匹の喉を貫く。


頭が考えるより先に動く体に身を任せ、次々と死体の山を築いていく。


意識が正気に戻った頃には、一面には数え切れないほどの猿の死体と、鮮血に染まる私、そしてそんな私を目を見開いて見つめる皇国の人達がいた。





あぁ…やってしまった…




帝国にいた時も無我夢中で人や魔獣を切り刻み、戦闘後は決まって血に染まる私に付けられた二つ名は『鮮血の猫』


十傑になってからは、『紅猫』と少しはマイルドに表現されたが、私の戦闘を目の当たりにした者は決まって私と距離を置く。


こんな血生臭い狂気の女には誰も近づこうとしない。


どんなに血塗れでも優しく迎え入れてくれたのは、母だけだった。


でも母はもういない。


私はこの世界に独りぼっちの人間なのだ。


そのことを改めて感じた私は、猿の死骸の中心で空を仰いだ。


すると私に近づいてくる人影が3つ


「ヒ、ヒルデガルドちゃん!大丈夫!?」


レ、レジーナ様!?


「ヒルデガルド!助かったぞ!」


リ、リオ様…


「ヒルちゃん!流石よ!私の目に狂いはなかったわ!」


リータ殿下まで…


返り血に染まる私に構わず近づいてくる3人


レジーナ様に至っては、私の腰に抱きついている。


「レジーナ様!血がついてしまいます!」


「うぇーん!ヒルデガルドちゃん、ありがとうぅ…怖かったよう…」


号泣しながら私にお礼を言うレジーナ様


「私にかかればあのような猿…いつでも切り伏せて見せましょう…あなたが無事で良かった…」


「ありがとうぅ…ずびびっ!」


私に抱きついて血塗れになった自分の服で鼻を噛むレジーナ様…


な、なかなか豪胆な方ね…


「…ヒルデガルド…本当に助かった…そして母を助けてくれてありがとう…!」


「当然です…敬愛する…あなたの母です…私にとっても母同然…」


「そう言ってくれるか…そなたは素晴らしい人だ…」


そう言って、私の手を両手で包み込んで褒めてくださるリオ様


リ、リオ様が褒めてくださる!


こんなことで褒めてくださるなら、万の魔獣でも狩るわ。


「ヒルちゃんお手柄よ。あなたの援軍のおかげで文官達にも被害はほとんどないわ」


「それは何より…でも怖がらせてしまいました…」


私は半ば愚痴のように俯きながら言う。


そういう私の顔を掴んで、周りを見渡せようとするリータ殿下


「何を言ってるの。みんなの顔を見なさい」


顔…?


目を見開いていたから、私のことを引いてたと思うのだけど…


そう思って周りを見渡すと…


「うおおお!!すげぇ!なんて動きだ!」

「死ぬかと思った…!ヒルデガルトよ…ありがとう!」

「きゃー!すごかったわ!」

「ヒルデガルド補佐官万歳!」


こ、これは…!?


周りに響く聞いたこともない歓声


文官も使用人も皇軍の兵士たちも、私のことを英雄のように讃えている。


「あなたに命を救われたのよ。当然じゃない?帝国では聞いたことない?」


「…ありません…成功して当たり前…失敗すると怒号が飛ぶような環境で育ってきましたので…」


超実力至上主義の帝国では、他者を思いやる余裕なんて皆持ってない。


成功すれば妬み恨みの対象になることがほとんどだ。


でも…



「……皇国は…温かいわね…」


ふと私はいつでも私を笑顔で受け入れてくれた母の顔を思い出した。


「ふふふ、帝国は冷たかったようね。でもあなたもその一員なのよ」


「…….足を引っ張らないよう…努力します…」


「大丈夫よ。レジーナのために大きな魔獣に突撃したあなたの勇姿はみんなの心を打ったわ」


「……これからも精進します」


思わず溢れそうになる涙を見せないように俯きながら答える。


そんななかまた一際大きな歓声が隊列の先頭の方から聞こえてきた。


顔を上げると、シリュウ准将が槍の先に王猿の首を突き刺してこちらに歩いているところだった。



相変わらずの化け物ね。


半ば私は呆れたように笑いながら、こちらの無事を示すように、剣を空に掲げた。



シリュウ「えっ…僕の戦闘シーンは?」


ジーノ「……一瞬で王猿の心臓を一突きして、ハイライトもなにもありますまい…」

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 >僕の見せ場カット いやむしろ一番文句言って良いのは、名に王と冠しながらダイジェストにもならなかった=出番なかった王猿でしょ(笑) ヒルデの株を大幅アップする事に貢献した一般モン…
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