第20話 会議は踊る 驚愕を添えて
「この親書の中身は本物だとボナパルト王家 都督 リクソン・ベタンクールの名において保証しよう。それに僕がここに来ている、いや来れていることの意味を考えてね?」
リックの言葉に対する帝国側の反応はかなり渋かった。
苦虫を噛み潰したかのように唸るハインリヒ皇子
険しい顔で親書を見つめるビスマルク宰相
目を瞑り思索に耽るバルター将軍
そして理解ができないのか首を傾げている置いてけぼりのカチヤ将軍
良かった。
この場に置いてけぼりなのは僕だけじゃなかった。
僕はなぜこの親書が本物であることでここまで帝国側が焦っている意味がわからない。
そんな僕達に説明するようにリックは話す。
「いやはやこれでハインリヒ皇子もヴィルヘルム皇子だけを気にするわけにはいきませんね。王国のプラティニ公爵家とは国境を接し、その背後にはボナパルト王家とポアンカレ…そしてその先にあるサザンガルドにも目を向けねば…」
「「「「!?」」」」」
リックの発言に驚く帝国の面々
「確かに…プラティニ公爵領とボナパルト王家領の先には前線を挟んでサザンガルド領があるが、それは飛躍しすぎだろう」
ハインリヒ皇子が渋い顔をしながらリックに反論する。
そしてリックは僕とビーチェを見ている…
ええ…そういうこと…?
「おやおや、リータ殿下。こちらの紹介が不十分であったのではないでしょうか」
大仰な仕草でリタさんに言うリック
「それもそうね。シリュウちゃん、ベアトちゃん、こちらにいらっしゃい」
そしてリタさんを挟むようにして脇に立つ僕ら
そんな僕らをリタさんは脇に抱え込んで言う。
「この2人は私の目に入れても痛くない可愛い子達なのよ。自己紹介してくださる?」
「ええ、僕はシリュウ・ドラゴスピアと申します。皇国海軍所属で准将の地位を賜っております」
「なっ!ド、ドラゴスピア!?」
「この少年が…かの…」
「…報告で聞いていたが…まだ確かに少年ではないか…」
なんか驚いているおじさん達
そしてビーチェが自己紹介する。
「お初にお目にかかります。妾はベアトリーチェ・ドラゴスピア、シリュウ・ドラゴスピアの妻にして、補佐官を務めております。そして妾の実家はサザンガルド家にございます。以後お見知りおきを…」
ビーチェがわざわざサザンガルドを実家とまで言って挨拶した。
これはリタさんの思惑通りだな。
リタさんはビーチェの自己紹介に満足そうな顔で笑っている。
それとは対照的に険しい顔のおじさん3人組
「サ、サザンガルドの令嬢だと…!?」
「かのオルランドの娘か…」
「サザンガルドの剣闘姫…このような場で会えるとは…」
そして話は戻る。
「どう?わかった?私達と交渉する気は起きたのかしら?」
意地悪そうな笑みで帝国側に迫るリタさん
帝国はリタさんと対立すれば、王国の3勢力、そしてサザンガルドと事を構えることになると思っているだろう。
まぁサザンガルドは皇妹派ではないから、そこは向こうが勝手に勘違いしているのだけども
僕らの自己紹介を経て、押し黙る帝国の重鎮達
「いやはや、これは失礼致した。我々とて皇国とことを構えることは本意ではない」
やはり口火を切るのはビスマルク宰相
最初の時より態度が柔らかくなっている。
実質的に今の帝国の体制を牛耳っているのはこの人っぽいな
「いいのよ?こっちも黙っていたことだし」
笑顔で答えるリタさん
ここからがどうやら本番のようだ。
「して、リータ殿下は我らに何を望まれる?」
ビスマルク宰相がリタさんに問う。
「簡単な話よ。休戦条約の更新よ」
「それは先ほども申したではないか」
「私の思惑は違うわ。休戦期間は10年よ」
「……!…なるほど…それは…我らにも利がありますな」
「そうよ。お互い『家の掃除』に忙しいでしょ?なら時間をたっぷり取りましょうよ」
ふーむ、なるほど
リタさんは皇国内で反乱を起こして、皇位を取る気だ。
対して帝国は第二皇子の反乱を鎮めたい。
お互いが他国に拘っている場合ではないのだ。
リタさんが皇妹派として帝国に求めるのは同盟ではなく不可侵条約だった。
「……リータ殿下よ。あまりに新事実が多くこちらも交渉材料を整理したい。後日同じ面々で同様の場を持ちたいがよろしいか」
ビスマルク宰相が一旦この場を収めようとする。
ハインリヒ皇子も渋い顔をしたまま黙っているため黙認しているようだ。
場がお開きになりそうな雰囲気に中でリタさんは最後に爆弾をぶっこむ。
「別にいいけど、こっちのお土産も見てくださらない?」
「お土産?」
ハインリヒ皇子が怪訝な表情で聞き返す。
リタさんはアウレリオ准将に合図すると、アウレリオ准将が外に出た。
そしてしばらくしてアウレリオ准将が縄に縛られた紅色の短髪で片目が傷で閉じている大男を引きずってきた。
その男は…
「エ、エゴン・レヴァンドフスキ!?これは一体どういうことだ!?なぜ皇国がそいつの身柄を確保している!?」
今日一番の焦った声で叫ぶハインリヒ皇子
そりゃそうだよなぁ
敵対勢力の将軍とはいえ、十傑を捕えてやってきたなら何事かと思うよね。
「……説明を…お願いできますかな…?」
冷静に問うているが、冷や汗が隠し切れていないビスマルク宰相
バルター将軍は目を見開いたまま口を開けている。
「あっはっはっは!捕まってやんの!エゴンのばーか!あっはっはっは!」
縄に縛られたエゴンを見て手を叩いて爆笑しているカチヤ将軍
流石に空気読みましょうよ…
エゴンは前と違って俯くようにして黙っている。
流石に敵対勢力の幹部の前に晒されてしまっては陽気には振る舞えないか。
「その説明は僕がさせてもらうよ」
そう言ってリックが説明を始める。
「このエゴン・レヴァンドフスキは愚かにもシャルル王とリータ殿下の会談場所を急襲して、暗殺しようとしたのさ。そして居合わせたシリュウ・ドラゴスピア准将と一騎討ちの末敗れて、こうして生け捕られているってわけさ、ははは」
「エゴンが…一騎討ちで敗れただと…!?…それに生捕りされるほどに…!?」
立ち上がって驚愕の表情を浮かべるのはバルター将軍
ハインリヒ皇子もビスマルク宰相も信じられないという表情でエゴンを見つめている。
そんななかリタさんが畳み掛けるように言う。
「さあ、この土産、いくらで買ってくださる?」
ハインリヒ皇子もビスマルク宰相も非常に険しい表情だ。
バルター将軍はまだ信じられないような顔のまま固まっている。
帝国側から反応はない。
「ふぅん?このお土産はいらないみたいね。なら皇国に持って帰ろうかしら?」
「ま、待て!いらぬとは言っておらぬ!値が…つけられぬだけだ!」
焦ったように言うのはビスマルク宰相
まぁ敵対勢力とはいえ帝国が誇る武人が暗殺に失敗して皇国に捕えられた等と喧伝されては国の威信に関わるだろう。
「……いや…其方らもエゴンの扱いに困っているのではないか?帝国の内情を聞き出そうにも、此奴は一端の武人だ。簡単には口は割らぬだろう。だから我らに売りつけようという魂胆では!」
ハインリヒ皇子がまるで状況は逆転したかのように声高に言うが、的外れにも程がある。
「はぁ…あんた本当に次期皇帝なの?周りのお付きさんが困ってるじゃない」
吐き捨てるように言うリタさん
確かにビスマルク宰相もバルター将軍もハインリヒ皇子の主張に同調する素振りはなく、険しい表情のままだ。
「ぬかせ!図星であろう!」
それでも突き進むハインリヒ皇子
なんかもう哀れに思えてきたぞ。
そんなハインリヒ皇子にとどめを刺そうとするリタさん
「はぁ…仕方ないわね…ヒルちゃん、お願い」
「……承知…」
リタさんの掛け声と共に、眼鏡を外し、顔を帝国側は露わにするヒルデガルド
「は?なんだ…貴様……はぁ!?ヒ、ヒルデガルド・ラーム!?貴様なぜ皇国の軍服など着ている!?」
相変わらず驚き焦るようにして怒鳴るハインリヒ皇子
この人さっきから叫んでばっかだな。
「ま、まさか!?…ど、どういうことだ!?」
流石のビスマルク宰相も驚いている。
「…ヒルデガルド…貴様…寝返ったのか…」
バルター将軍はそこまで驚きはしてないものの困惑の色は見て取れた。
「……うるさいわね…今の私はただのヒルデガルド…リータ殿下に忠誠を誓うただの兵士よ」
「き、貴様の行為は明確な反逆行為だ!その首を今すぐに断頭台に晒してくれる!」
逆上するハインリヒ皇子
しかしそれに反論する勇ましい声が響く。
「それは許されぬ!ヒルデガルドは我が国の兵士だ!我が国の兵士へのかような言い様は宣戦布告と見なすが良いか!」
ヒルデガルドを庇うように前に立ちハインリヒ皇子に勇ましく立ち向かうアウレリオ准将
か、かっけぇ…
ほら、ヒルデガルドも無表情ながら頬が赤いぞ
「ぐぬぅ!……もしや…ヒルデガルドから帝国の内情を聞いてあるのか…!?」
「当たり前じゃない。それにあなた達も知らないような第二皇子の内情もね?」
勝ち誇るように言うリタさん
しかし後半は嘘だ。
ヒルデガルドは女性という理由だけで、第二皇子の幹部としと扱われてはいなかったため、そこまで重要な機密を知ってはいなかった。
おそらくそれを知っているのはエゴンの方だろう。
「…なんということだ…」
険しい表情で俯くビスマルク宰相
この場はリタさんが圧倒的に支配していた。
「まぁこれでわかったでしょう。そちらの提案通りに一旦お開きにしましょうか。また後日、今度は楽しいお話をしましょう」
そう言って僕らを連れて会議場を後にするリタさん
残されたのは呆然とする第一皇子とビスマルク宰相とバルター将軍
そして一連の流れをまるで喜劇を見る子供のように楽しんでいたカチヤ将軍だった。
シリュウ「カチヤ将軍大物すぎるだろ。あの状況で爆笑とかできないって」
ビーチェ「うーむ、それほどの人物がなぜ第一皇子に付き従っておるのか…なにか事情があるのかや…?」




